日本版CDC創設を阻止しよう(NEWS No.563 p05)

政府は6月17日の新型コロナウイルス対策本部で、感染症対策を一元的に担う「内閣感染症危機管理庁」の新設など、司令塔機能の強化や医療提供体制の構築に向けた対応策を決定した。医療機関に病床の確保や健康観察の実施などを求める国や都道府県の法的な権限を強化し、平時からの備えを万全にすることを狙うが、医師や看護師らの不足解消については有効な手立てを示していない。

内閣感染症危機管理庁は内閣官房に置き、感染症対策の立案と総合調整を担う。これと別に、国立感染症研究所と国立国際医療研究センターを統合し、米疾病予防管理センター(CDC)をモデルとした「日本版CDC」を新設して感染が拡がった際には連携して対処するとする。都道府県が平時に医療機関との間で協定を結ぶ仕組みを導入。協定には提供可能な病床数や発熱外来の受入れ人数、オンライン診察も含めた健康観察の可否などを明記する。有事の際、事前の取り決めが守られるよう、履行状況を公表したり、知事に勧告・指示の権限を認めたりする。次の臨時国会に感染症法など関係法改正案を提出する方針だ。

昨夏の第5波では病床確保が追いつかず、十分な健康観察がないまま、自宅療養中に亡くなる人が続出し、ことしの第6波でも、感染者の急増に伴って発熱外来が逼迫したり、抗原検査キットが不足したりする事態が起こった。現在の第7波では感染者が急増中で、一般及び救急医療も含めて医療逼迫も顕著となっている。

アメリカでは感染症の拡大事案は、連邦緊急事態管理庁(FEMA)が実施する15の応急対応業務の第8:公衆衛生・医療に該当し、保健福祉省が主要調整機関となって、CDCやNIAID(アレルギー・感染症研究所)の連携協力の下で意思決定を行う。

米CDCは、職員1万5000人、年間予算1兆3300億円(2019年)を持つ総合研究機関で、感染症の制御のほか生物化学兵器の研究にも携わり、軍産実務機能を有する国家安全保障上の重要施設だ。また、米CDC本部は、大統領がワシントンで指揮命令できなくなった時の代替施設の機能も併せ持つ。米CDCは、第二次世界大戦後に国防省のマラリア対策部門の後継機関として立ち上がった。

結論から言うと日本版CDCは不要でかつ危険だ。

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議は2020年2月から新型コロナウイルス感染症の対策について医学的な見地から助言等を行うために開催された会議で、2020年7月3日に廃止され、その後、新型インフルエンザ等対策閣僚会議に設置された新型インフルエンザ等対策有識者会議の下で新型コロナウイルス感染症対策分科会が発足するとともに、厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの活動が再開した。

この政府の「専門家会議」の12名の構成員のうち、日本医師会などの充て職を除くと、9人中8人が国立感染症研究所(感染研)、東京大学医科学研究所(医科研)、国立国際医療研究センター(医療センター)、東京慈恵会医科大学(慈恵医大)の4施設の関係者だった。4組織は帝国陸海軍と関わりが深い。感染研の前身は1947年設立の国立予防衛生研究所(予研)で、予研は戦後GHQの指示により、伝染病研究所(伝研)から分離・独立した。伝研は現在の医科研だ。戦前、伝研を支えたのは陸軍で、感染研の幹部には、陸軍防疫部隊(731部隊)の関係者が名を連ねている。医療センターの前身は明治元年に設置された陸軍病院だ。慈恵医大のキーパーソンは薩摩藩出身医師の高木兼寛で、薩摩藩出身者が仕切る海軍で最高位である海軍軍医総監を務めた。

一方で、米バイデン大統領は、CDCの日本事務所を新設する考えを表明しており、一部では年内にも拠点が整備されるとの見方もある。動向を注視する必要がある。

第一線にいる医師からは、日本版CDCさえできれば日本の感染症対策が進むのか疑問で、医師を含めて医学教育の中で感染症の研究、教育、さらに実践の体制がほとんどないことこそが問題だとの意見も出ている(さいたま記念病院ホームページ)。新型コロナウイルス感染症では米国の感染者数と死亡者数が世界最大となっており、CDCがあれば感染拡大を制御しうるという主張は破綻している。

感染症研究とその対策にあたる感染症や疫学の専門家の養成、設備及び人材の拡充を図ることが必要だ。保健所や地方衛生研究所の機能の拡充と大幅な増員、感染症病棟の拡充と十分な人員の確保がまず優先と考える。さらに、公衆衛生や医療の拡充に言及せずに、感染症拡大を有事と捉えて国や都道府県の権限を拡大するのは、戦争国家づくり、改憲にのめりこむ岸田・自公政権の動向とも連動していることが考えられ、大変危険だ。

日本版CDC創設は阻止しなければならない。

梅田 忠斉

<おもに以下のサイトを参考>

https://www.tokyo-np.co.jp/article/184040

https://chuokoron.jp/international/114395.html