CDCのミッションと組織、活動内容について(NEWS No.564 p07)

「日本版CDC」については、すでに2020年2月17日の衆院予算委員会で、安倍首相(当時)が、伊佐委員(公明)からの米CDCに相当する組織設置について政府へ提案したことへの答弁として、CDCのような組織の設立を「検討する」と述べている。同年2月27日には、日本医師会が安倍首相(当時)に対して、感染症危機管理体制の強化や「日本型CDC」創設を含む5項目の要望書を提出し、同年6月には日本製薬工業協会がCOVID-19治療薬・ワクチンの創製に向けた提言のなかで、「日本版CDC」の設置を訴えていた。その流れの中で、2022年6月17日に、岸田首相が、第93回新型コロナウイルス感染症対策本部会議で「日本型CDC」創設に言及している。

本稿では、日本版CDCのモデルとされる米CDCの組織と活動について検討してみる。

アメリカ疾病予防管理センター( Centers for Disease Control and Prevention、略称: CDC)は、米国ジョージア州アトランタにある保健福祉省所管の感染症対策の総合研究所で、公式の日本語訳はないが、本稿では疾病予防管理センターとする。以下、略称で表記する。   CDCのミッションは、健康、安全、セキュリティの脅威から米国を守ることであり、一般的な公衆衛生部門でなく、危機管理部門で、軍事的色彩を帯びる。職員数は本部が約7,000人、支部が約8,500人。職種は、医師(感染症専門医)、薬剤師(感染制御専門薬剤師)、獣医師、看護師(感染症対策看護師)、臨床検査技師(感染制御認定臨床微生物検査技師)、生化学者、遺伝子学者、病理学者、法医学者、疫学者、微生物学者、軍人など多種多様。

CDCの活動内容は、調査・研究、情報発信・助言、緊急対応、検疫・隔離、人材育成がある。このうち、COVID-19のような緊急対応のため、Emergency Operations Center(EOC)を常設し、専門家の派遣、現場への物資や機器の配送の調整、レスポンス活動のサーベイランス、州及び地方の公衆衛生部分にリソース提供を行う。また、科学的なガイドライン作成、連邦政府・州政府への情報提供、州の要請に応じたサポート、現場での助言、データ収集補助・データ解析も担っている。

CDCは、感染性疾患関連、非感染性疾患関連(母子保健、環境保健、傷害予防)、産業保健関連、公衆衛生サービスと実践科学(マイノリティの保健、国際保健、危機対応、コミュニティ)、公衆衛生科学とサーベイランス関連などの主要部署(センター)があり(を参照)、それぞれの専門分野で独立して活動する一方、それぞれの持つ資源と専門知識を組み合わせて分野横断的な課題と特定の健康への脅威に対処している。CDCには文民だけでなく、米国公衆衛生士官部隊の隊員も勤務している。

図 CDCの組織図


米国CDCは、第二次世界大戦後に国防省のマラリア対策部門の後継機関として立ち上がった。現在、強力なCDCを有するのは米国と中国だけだ。CDCより勧告される文書は世界共通ルールと見なされるほどの影響力を持っている。極端に致死率の高いバイオセーフティーレベル4(BSL-4)に対応できるのはレベル4実験室だけで、CDCにあるものがそのひとつだ。エボラウイルスなどバイオハザードへの対策については世界中がCDCに依存している。また危険なウイルスの保存もしており、自然界で撲滅が確認された天然痘ウイルスを公式に保管している機関は、CDCとロシア国立ウイルス学・生物工学研究センターだけだ。

当ニュース7月号で述べたように、日本版CDC創設には反対だが、創設の適否の議論に際して、対象とする疾患や課題、人材育成、科学的中立性の担保が論点と考えられるが、現在の議論の流れからは危機管理が強調され、やはり創設自体に反対せざるを得ない。

梅田忠斉