遺伝子ワクチン開発の歴史的経緯とその真実(NEWS No.566 p04)

1961年にBrenner博士らが、mRNAを発見して以降、外来mRNAからのタンパク合成を行う基本的な技術が発達していきました。1984年にKrieg・Melton両博士らが、初めてウイルス由来のRNA ポリメラーゼを用いて、in vitro 環境下でmRNAの転写とタンパク合成(翻訳)に成功したことで、後々のRNA研究の基盤が作られると、1990年にはWolff博士らがin vitroで転写したmRNAをマウス体内に注入してその発現に成功、1993年にはMartinon博士らがインフルエンザウイルス核タンパクmRNAをリボソームに封入しマウスに導入すると抗インフルエンザ細胞傷害性Tリンパ球の産生が誘導されることを発見するなど、今日のmRNAを用いた遺伝子治療に繋がるエポックメイキングな研究結果が次々に発表されていきました。そして、数多ある研究の中でも、現在使用されているmRNAワクチンにおいて最も重要な出来事は、なんといっても2005年にKarikó 博士らが、Pseudo Uridine(偽ウリジン)を用いて合成した修飾mRNAが、宿主の免疫系による認識・分解を回避できることを発見したことでしょう(Karikó, K. et al. 2005. Immunity)。この発見により、飛躍的なmRNAの安定性と宿主免疫系からの回避が得られ、mRNAワクチンの新時代に突入したと言っても過言ではありません。

また、遺伝子ワクチン開発に欠かせない要素として、核酸を封入して細胞に輸送するためのDDS(Drug Delivery System)である脂質ナノ粒子製剤の研究・開発が挙げられます。脂質ナノ粒子の研究は1960年代、閉じた脂質二重膜小胞が水中で自然に形成されることからスタートしました。1990年代に生体細胞膜を安全にかつ効率的に通過できる高性能カチオン性脂質が作成され、1987年にMalone博士らがmRNAをカチオン性脂質でカプセル化し高効率なmRNAの in vitro 発現系を確立、1996年には脂質ナノ粒子製剤である「ドキシル」で初の臨床応用が行われました。さらに2000年代に入ると、PEG化により脂質ナノ粒子表面への免疫系のアクセスを回避できるようになると、その後各種研究機関やベンチャー企業がこぞって脂質ナノ粒子製剤の研究開発に着手するようになりました。そして、2012年にはAcuitas Therapeutics社が独自のmRNA-LNP製剤の試験を施行していますが、これは4種類の脂質構成要素を用いてmRNAなどの核酸を厳重に保護するという、現行のSARS-CoV-2遺伝子ワクチンにも応用されているシステムです。

さらに、mRNAワクチン開発に携わってきたベンチャー企業の活躍も忘れてはなりません。1989年に設立されたVical社は、先に挙げたMalone博士らとの共同研究により、脂質–mRNA複合体を利用してマウス体内でタンパク質を産生させることに成功しています。Vical社は後に同技術に関して特許取得し、1991年にはMerc社と数百万ドル規模の共同研究契約とライセンス契約を結ぶも、結局遺伝子ワクチン開発までは至りませんでした。1997年にはGilboa博士らが腫瘍タンパクmRNAを用いて、腫瘍細胞のみ特異的に破壊する技術を開発し、Merix Bioscience社を設立。最終的にCoImmune社に社名変更し、遺伝子ワクチン開発に名乗りを挙げましたが、2000〜2010 年代の大規模臨床試験で候補ワクチンが失敗に終わっています。2000年には、Hoerr博士らがmRNAをマウス体内に注入して免疫応答誘導に成功、後にワクチン開発目的にCureVac社を設立し、ヒトでのmRNAを使用した試験を開始しました。2005年には修飾mRNA合成を成功させたKarikó博士らがRNARx社を設立しましたが、残念なことに修飾mRNA技術の特許は彼女が所属していたペンシルベニア大学が取得してしまい、後にCellscript社に独占的特許実施権が付与され、裁判で争うも2013年に資金が底をつきRNARx社は事業停止となりました。その後Karikó 博士は大学から離れ、BioNTech社に加入することになりました。このBioNTech社は、2007年にドイツでmRNAの研究者であったŞahin・Türeci両博士らが、大資本家から1.5億ユーロもの投資を受けて設立され、今回のmRNAワクチン開発の第一人者になったことは言うまでもないことでしょう。2010年にはRossi 博士らが、修飾mRNAを使って胚性幹細胞を収縮可能な筋肉組織に分化させることに成功してModerna社を設立、遺伝子治療薬開発を進めた結果、今回のmRNAワクチン開発にいち早く漕ぎ着けることに成功しました。このように、多くのベンチャー企業が遺伝子ワクチン開発を推し進めた結果、今日のmRNAワクチンに繋がる技術が確立されたと言っても過言ではありません。

これらのことからもわかるように、基礎医学分野での偉大な研究者たちの数多の歴史的な発見と技術開発、そしてそれに伴うベンチャー企業の活躍があったからこそ、現行の遺伝子ワクチンが誕生したのだということを忘れてはなりません。しかしながら、mRNAワクチンを含めた遺伝子ワクチンは、その設計に数多の問題があり、諸手を挙げて喜べる代物では決してありません。まず、当然のことながら、今回のワクチンをデザインする上で、スパイクタンパクそのものに毒性(細胞毒性、組織障害性)があるということは、本来は何よりも注意を払うべきことだったと思います(スパイクタンパクの毒性に関する詳細は割愛)。しかし、実際に現行のmRNAワクチンでは、スパイクタンパク全長の配列が用いられており、しかも毒性を取り除くための配列置換などの工夫が全く認められません。健康な人にも接種するワクチンのデザインとしてはあるまじきことです。これにはある種の“悪意”や“意図”を感じざるを得ません。また、今回のmRNAワクチンでは、様々な工夫によりmRNAの安定性や翻訳効率などが飛躍的に高められているために、毒性のあるスパイクタンパクが体内で長期間大量に作り続けられる設計になっています。実際にKarikó博士らの研究で、スパイクタンパクをコードするmRNAワクチンを接種した宿主の体内で、4週目よりもむしろ9週目の抗体価が上昇しており、9週以上にわたって宿主体内でスパイクタンパクが産生され続けることが判明しています(Laczko, D. et al. 2020. Immunity)。また、mRNAワクチン接種者のスパイクタンパクが、エキソソーム上で長期間血中を循環することも示されています(Bansal, S. et al. 2021. The Journal of Immunology)。さらに、細胞の遺伝子に組み入れられた新型コロナウイルス遺伝子の一部と、細胞の遺伝子のハイブリッド遺伝子(=キメラ遺伝子)が出現することも示されています(Zhang, L. et al. 2021. PNAS)。これらのことからも、mRNAワクチン接種者は長期間に渡り毒性のあるスパイクタンパクに暴露されることになり、その中長期に及ぶ影響は未知数であると言えるでしょう。また、もしスパイクタンパクをコードするmRNAが細胞内の遺伝子に組み込まれるようなことになった場合、未知のハイブリッド遺伝子が形成される可能性がありますが、その影響も未知数と言えるでしょう。生殖細胞の遺伝子に組み込まれた場合には、子孫にまで影響する可能性もあると思います。

最後に、このような危険な遺伝子ワクチンが開発され、市場に登場してきたのは、コロナパンデミックが問題になったからではありません。詳細は割愛しますが、世界経済フォーラムやビル&メリンダ・ゲイツ財団などがスポンサーになり、その潤沢な資金を後ろ盾に、コロナパンデミックが始まる2019年初頭からワクチン開発プロジェクトは進行していたことが明らかになっています。すなわち、実際にはワクチンありきのパンデミック騒動だったということです。このような流れにも、背後に大きな意図が潜んでいると感じざるを得ません。

医療法人聖仁会 松本医院 松本有史