8月号で、コロナ経口「薬」ゾコーバの臨床試験第二相までのデータで、コロナでよくある12症状のうち5症状合計だけでは有意差が出たとする塩野義製薬の主張では効果の「推定」もできないと、緊急承認されなかったことをお伝えしました。しかし、その後11月22日に緊急承認され、翌日の全国新聞は1面などで大々的に報じました。
予想通り、第三相試験のデータを審査結果報告書で見るとひどい内容でしたので、12月例会に報告しました。その後の検討も加えて報告します。
【主アウトカム(効果指標)を次々変更】
第三相の主アウトカムは、8月号を書いた時点では「あらゆる原因による入院又は死亡」でした。https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT05305547
ところが、その後浜六郎氏から、そこには違った主アウトカムが掲載されている由教えていただきました。なんと、8月23日に「最新のアウトカム指標」は「持続的な症状の消失までの時間の中央値 (時間枠は29日目):林訳」と書かれていました。こっそり、すり替えられたのです。
「入院又は死亡の減少」という意義のある効果を示せなくなったので、症状を早く治まることにすり代えたのです。タミフルが入院・死亡を減らしたとの効果は実は嘘で、発熱を1日早く下げる」だけだったことが臨床試験の元データで確認され、世界的な批判が起こり日本を除く多くの国でほとんど使用されなくなったのと同様に、ゾコーバの価値が極めて低いものになったわけです。
しかし、その価値の低い効果も本当ではありません。第Ⅱ相と同様、第Ⅲ相でも当初選んだ「12症状」でも効果を証明できなかったのです。この結果は、ゾコーバはコロナの主な症状を短くすることができなかった=症状にも効果がなかったということになります。タミフルと違い発熱期間の短縮のデータも提出されていません。
大変困ったと思われる塩野義製薬は、ここで第Ⅱ相と同じ手を使って、12症状のうちの都合のよい5症状を選んで、統計的に有意な効果を示した、としたのです。12症状のデータを取っておきながら、結果が出てから(都合の良い)5症状だけを選らんだのです。これは、前の審議でも「後出しジャンケン」と同じだと非難されたように、多数の項目の実験をしてみて少し効果がありそうな項目(ここでは症状)だけを集めて、統計的有意差を示すのは臨床試験でも許されない操作です。
都合の良いものだけを選んだ証拠に、第Ⅱ相の5症状は、熱っぽさ又は発熱、鼻水又は鼻づまり、喉の痛み、咳、それに「息切れ(呼吸困難)」でした。その解説に息切れ(呼吸困難)はコロナでの入院の原因になる症状だと強調しています。
しかし、この症状を入れると統計的有意差は出なかったのでしょうか。第Ⅲ相の5症状では、この息苦しさ(呼吸困難)が、倦怠感又は疲労感に代えられているのです。こうしないと5症状を合計しても統計的有意差が出なかったからと思われますが、具体的データの提示はありません。
そのような、主アウトカムの操作を重ねての結果は、5症状をひっくるめて症状緩和にプラセボ群が8日かかったが、ゾコーバ群では7日に短縮させた、というのがゾコーバの効果でした。多くの人は「なーんだ」とがっかりするかもしれませんが、一日でも良くなればと思う医師は居るかも知れません。抗インフルエンザ薬を世界一使う日本で、しかも同じ塩野義の抗インフルエン薬ゾフルーザが1回飲むだけの利便性で、1年間とは言え売り上げトップになったことを考えれば安心できません。
【ゾコーバ投与前のスコアに有意差?】
投与後の各症状スコアの変化を表す図が掲載されています。これは12症状ですが、0時間では、一番上がゾコーバ、一番下がプラセボのスコアです。薬の影響がない0時間にゾコーバとプラセボのスコア差が最大です。ところが、48時間以後はほぼ同じになっています。熱っぽさ又は発熱、喉の痛み、息切れ(呼吸困難)なども同様です。そのため、普通のRCTのデータでは、これは効果なしになります。そこで、それでは困るので、左端0時間のスコアのから、それぞれの時間でのスコアの差で、効果を示しそうとしています。
ところが、12症状ではこの操作をしても有意差(効果)を示せなかったのです。しかたなく、選抜5症状にすり替えたのですが、もしそれで有差が出たのなら、服薬0時間のスコアにもゾコーバとプラセボの間に有意差があるはずです。これは、ランダム化する前の「患者背景」にスコアの有意差があることを示しています。
しかし、この審査報告書には背景のデータも変化のデータも図の数字が全く記載されていませんので確かめようがありません。この点でも、とても信頼できないものです。
【症状が極めてあいまい:発熱期間は?】
先にお示しした症状が、極めてあいまいな定義だとお気づきかと思います。その典型が、熱っぽさ又は発熱です。体温は最も客観的な測定ができる多くの感染症の症状の主たるものです。しかし、この発熱期間が短縮したデータは示されていません。ここにも、ゾコーバの問題点があります。
【ウイルス量が減った?】
これもウイルス量の「ベースラインからの変化量」とされています。背景として、元々のウイルス力価は提示されていないので、症状と同様、背景の違いによる「変化量の差」かも知れないのです。それでも、Day4でのみ有意差があっただけで、Day2・6・9・では有差がありません。もちろん、ウイルス量の違いが直接後遺症の軽減に結び付くかどうかも分かりません。
【RCT後に勝手に選択されたデータを使用】
第Ⅲ相の「選択基準」は、「SARS-CoV-2 陽性(無作為化前 120 時間以内に採取された検体を用いた PCR 検査等により確認)」とされていましたが、使われたデータは「症状発現が無作為化前 72 時間未満の被験者」とされています。ウイルス量の測定者も同様です。ですから、120時間前に検査陽性になって無作為(ランダム)化された患者のうち、72時間未満に症状が出た患者だけを選んでいます。RCTならないはずの、服薬後0時間の症状スコアに差があることを考えると、ここにも何らかの問題のある操作が行われた可能性があります。データの開示が求められる問題です。
【胎児の催奇性】
審査報告書には「主な毒性所見として、ラットにおいて胎児の骨格変異及びウサギにおいて胚・胎児死亡、胎児の軸骨格に奇形・変異、外表に奇形所見として短尾及び二分脊椎が認められた。」「全児死亡、生存率・出生率低下及び離乳後の性成熟遅延等の発育遅延に関連する変化が認められた。」など多くの胎児異常が記載されています。妊娠可能な方には大変危険です。その他にも脂質異常など有害作用が報告されています。
【併用禁忌薬35種、併用注意薬70種】
「 本薬は主にCYP3A により代謝されると共にCYP3A を阻害し、CYP3A に対する時間依存的阻害作用を有する。」(審査報告書)それらのために、カルマゼピンなど36種(塩野義の医療関係者向け情報では35種)の併用禁忌薬、イトコナゾールなど70種の併用注意薬がある。これだけの薬剤を投与前にチェックするのは大変であり、ミスもありうるのでとても危険です。
【結論】
- 入院・死亡の減少という重要な効果はない。したがって、緊急承認の意義は全くない。
- 症状の軽減・短縮効果は期待できない。
- 胎児毒性などの害作用があり、危険
- 併用禁忌35種、同注意70種あり、危険
早期の承認取り消しと全データの公開が必要。
はやし小児科 林