いちどくを この本『発達障害児と家族への支援』(NEWS No.571 p08)

高橋脩 著/青木藍 聞き手
日本評論社  定価2,530円(税込)
2022年5月刊行

小児科医としてスタートした40年前、子どもの障害といえば脳性麻痺、神経筋疾患、重症心身障害、先天性の形態障害などでした。その後、療育の場に携わり、知的障害や自閉症の子どもたちを前に、成す術もなく戸惑っている時、同じ職場で子どもや家族に接する姿勢を、傍らで見せていただいたのが著者の高橋脩先生です。

時は経て、「発達障害」・「自閉スペクトラム症」児のみならず、子ども達の世界が様変わる中で、発達という人生のスパンで、一人ひとりを観察し見通しを立てる大切さを再認識しています。

本書は若い児童精神科医によるインタビューと、著者の論文・エッセー集による二部構成となっており、半世紀にわたる自閉症の研究と実践の結晶となっています。どこから読むかは読者任せですが、まずエッセー「精一杯説」からを希望されます。子どもは余裕なく、ひたすら精一杯生きている。それは幼いため、未知の生活に活かす経験の蓄積がないからと。子どもは育てるのか、育つのか。教えねばならぬではなく、育ちを支えるため、発達や個性・特性に即して関わるという発達障害理解のための前提が示されています。

第一部を構成するインタビューでは、発達障害をもつ子どもと家族に対する診療の実際が、問答形式で解りやすく解説されます。対象は、発達障害に関心のある若い精神科医向けとなっていますが、小児科医や臨床心理士ほか、子どもに関わる医療福祉関係の方々にも必読と思われます。

診察は、部屋に入る前の子どもの行動観察、同伴する家族への配慮から始まります。問診では子どもの生育歴、発達行動、家族環境などの状況把握の重要性が示され、子どもの評価のために食事、 排泄、衣服の着脱、睡眠、発音、言語発達、表情、人との関係、遊び、描画・書字などについての定型発達の見方が述べられます。この確認のもとに、子どもの愛着の発達段階の観察と分析から、自閉症児とADHD児の定型発達の見方が示されます。

自閉症については、①コミュニケーション、②対人交流、③こだわり行動と感覚の異常、の三主徴の特異的行動の有無を確認して診断しなくてはならないとします。診断は結果ではなく、支援のための道具であるとされ、予後の予測と生活の見通しを、養育者の理解できる言葉で丁寧に伝えなくてはならない。療育の役割は、ありのままの子どもを認めて無理のない発達の支援と、親の子育て支援をセットにして、安心感と自己肯定感を黒衣として支援すると、療育の大切さを強調されています。

本書は、発達障害診療のノウハウ本ではなく、発達障害は人生途中の機能喪失である中途障害とは異なり、生まれつきの機能不全があっても失うものはない機能獲得の人生を歩み続ける子どもたちへの眼差し・障害観に貫かれています。

最後に、2014年「こころの科学」の論文「自閉症を巡る医学的概念の変遷」が紹介され、1943年米国のカナーから翌年のオーストリアのアスペルガーに始まり、広汎性発達障害、自閉症スペクトラム障害に至る自閉症概念について、医学的な重要研究と関連付けながら説明がされており、現在の到達点・問題点を整理するのに役立ちます。

発達障害・自閉スペクトラム症への関心が高まる中、療育と社会的支援に関心と情熱を持たれる方々には、拙い案内でしたが是非ご一読の上お許しいただきたい。

入江診療所 入江