「薬のチェック」(一般社団法人医薬ビジランスセンター)最新号(113号)で、トピックとして、メジコン®(デキストロメトルファン:以下DXM)の過量服用(以下、OD)について取り上げられている。内容紹介と若干補足を述べる。
DXMは過量服用するとNMDA (N-メチル-D-アスパラギン酸)拮抗作用を示して多幸感が生じたり、解離や依存も生じうる。DXMは多くの市販の感冒用製剤に含まれる咳止め成分だが、世界各国で乱用が懸念されていた。日本では、医療用DXMは処方箋医薬品とされていたが、2016年9月設置の規制改革推進会議以降の流れで、咳の対症療法を処方箋医薬品から市販薬に置き換え、医療費適正化を図るとして、2021年8月より市販開始となった。2022年9月2日から10月1日までのパブリックコメント募集に対して、乱用のおそれと規制の強化を求める意見が出されたが、2022年12月の厚生労働省の薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会が開かれたが、前記のパブリックコメントの意見は取り入れられなかった。
若者を中心に市販薬の乱用が問題となっているが、市販薬剤の中でDXMの乱用が増加している現状がある。米国では青少年らに対する毒性教育や、製品パッケージへの警告などの取り組みは行われている。日本では処方箋なしでは入手ができないように規制したり、教育的介入を進めたりすべきと思われる。
補足として、以下に乱用の成り立ちと日本の薬物乱用対策の問題点、対策の方向性を述べる。
高校生調査では、OD経験者は、家庭や学校に居場所がなく、社会的に孤立している女子高校生が大半を占める。社会での生きづらさに直面して、市販薬を使用して「生き延びよう」とあがいていると捉えられる。手段は適応的ではないが、自己治療的な意味合いがある。
薬物乱用問題の解決方策は、大きく2つに分けられ、一つは薬物の供給源を絶つこと、もう一つは薬物の需要、つまり乱用者をなくすことと考えられる。後者には薬物乱用防止についての教育有効な手段となりうる。(特に、薬物使用を開始する危険性の高い時期である青少年)。DXMが処方箋なしでは買えないようにする、市販薬からはずすというのは供給源を絶つ対策である。「ダメ、ゼッタイ」的な、乱用する当事者を脅して、周囲の者や社会から排除するような教育は百害あって一利なしで、当事者が抱えている苦しみを理解されないと感じて、乱用について率直に話さなくなり、より危険な薬物や方法で乱用したり、ほかの自己破壊的な行動に移ったりしかねない。
日本の薬物乱用・依存対策は、供給源対策にばかり重点を置いて、需要への対策は等閑視してきた。供給源対策は効果をあげたのか?禁酒法の歴史的大失敗を見ると答えは明らかだ。結局は密造したりメチルアルコールで代用したりして健康を危険にさらした。日本では海外と異なり、覚醒剤がこれまでは乱用薬物の主役だった。覚醒剤取締法で厳格に取り締まったものの、周期的に乱用が拡大する状況が繰り返されている。一昔前は「危険ドラッグ」の乱用が社会問題化した。供給源対策に力点が置かれ、物質の規制に躍起になって取り組まれたが、すぐに新たな薬物が出てくるいたちごっこになった。ただ、店舗販売の規制によって、実店舗はほぼ壊滅したようだが、インターネットでの入手は可能のようだ。全国の精神科医療施設を対象にしたある調査では、10代の若者が使用する薬物は、2014年に危険ドラッグが48%と主流だったが、2020年医は市販薬が過半数(56%)を超えた。供給源対策にとどまらない、需要に対する対策をどう効果的につくっていくか、が課題だと考える。
高校生調査では、ODの経験者は、家庭や学校に「居場所」がなく、社会的に孤立している女子高校生が大半を占めていた。日本社会で生きづらさ直面している女子高校生が、市販薬を使用して「生き延びよう」とあがいていると捉えられる。
若者のODの背景には、社会的孤立や社会的排除、将来への絶望感などがある。当事者が求めているものは、排除されず、自身の生きづらさを受け入れてくれるような安心ができる人や環境ということになる。孤独などのつらい状況やつらい感情が軽減されるようになれば薬物を乱用する必要性もなくなっていく。中毒などとレッテルを張られて排除されている、と当事者に捉えられて治療関係が切れることは、当事者により危険な薬物乱用を含めた自己破壊的な行動を志向することになりかねない。むしろ、治療的には、人にたよれずに薬物にたよらざるを得なかった状況に共感して(想像力を働かせて)、危険な乱用には警戒しつつも当事者と良好な関係性をつくること、薬物を使用したくなった時に薬物使用以外の対処法を得られるように一緒に取り組むことが、乱用や依存からの回復につながりうると考える。
精神科医 梅田