「薬剤耐性菌 地球的脅威に」との表題で南極のペンギンからも耐性菌が見つかったこと、「2050年に死者1000万人予測」されていることなどが強調されている記事が7月25日の毎日新聞に特集されていました。
小児の患者さんで、耳鼻科で約2年半の間に106日間も抗生物質服用していたお子さんの事を思い出します。特に持病を持っているわけでないお子さんですが、かぜやその簡単な合併症で耳鼻科に通っていました。2018年に聞いた話ですので、厚労省の抗生物質対策が始まったばかりの時でした。これに近い例は山ほどありました。
私は、風邪に抗生物質を使うことに、ずいぶん昔から反対してきました。日本小児科学会の委員会の方との手紙のやり取りもしたこともあります。読売新聞の「医療ルネッサンス」2001年7月18日「風邪に効く?抗生物質」と題して、風邪に使っても肺炎などの合併症を防げなく害作用だけと、当時の日本小児科学会を批判し、風邪にペニシリン系の抗生物質を推奨した日本感染症学会の根拠のなさを批判しています。しかし、抗生物質乱用は続きました。
転機が訪れたのが、2015年世界保健機関(WHO)は、抗菌薬耐性(AMR)の増加に対抗するための国家行動計画(NAP)を策定するよう各国に命じてからです。日本では、どこかが抵抗していたのでしょうか、2018年になってやっと具体的な取り組みが始まりました。
まずは、小児の感冒・上気道炎・急性下痢症などで抗生物質を使わなかったら800円を保険から支払うことになったのです。これは大きな効果を上げました。私の周辺の小児科でも単なる風邪に抗生物質を出す小児科医は少なくなりました。しかし、前述のように耳鼻科など800円が出ない科ではバンバン抗生物質が出ていました。学会で聞いた話ですが、抗生物質などを出さなくなると患者が減るそうです。
極めて残念なことに、この「画期的」ともいうべき保険点数は、医学の常識を実行したらお金をあげるというものです。薬も出していないのに料金があるとは変だということにもなります。確かにそうですね。学会や医師会などが製薬企業に遠慮して、当たり前の抗生物質の使用を推奨してこなかったためか、こうでもしないと減らなかったわけです。
しかし、この政策に反対したのが全国保団連です。2018年2月27 日厚生労働大臣などに、厚労省の「抗微生物薬適正使用の手引き第一版」 を 診療報酬の算定要件 に追加 しない こと」の要望書を出しました。先の「手引き」のどこが間違っているのかを明示せず、アンケートで反対も多い、ことがその理由でした。手引きの不十分点を指摘し、一層の努力を要求すべきでした。
その後、小児科だけでなく耳鼻科などにもこの政策が広げられ、先の例のようなことは相当少なくなったようです。
しかし、薬が多い方が「ハヤル」のがこの世界のようで、今でも驚くような抗生物質の処方を見ることがあります。確かに適応で迷うこともありますが、今後とも適正使用の努力をしてゆきたいと思っています。
はやし小児科 林
<7月例会の報告(山本英彦さん、梅田忠斉さんの報告はいずれも先月号に掲載していますので、今回は別の記事を入れました。>