いちどくを この本『堤未果のショック・ドクトリン─政府のやりたい放題から身を守る方法』(NEWS No.587 p08)

『堤未果のショック・ドクトリン─政府のやりたい放題から身を守る方法』
堤 未果 著
幻冬舎 940円+税
2023年5月刊行

*2001年「9・11」、倒壊した世界貿易センタービルに隣接する世界金融センタービル20階にある米国野村證券が著者の職場でした。「20階から1階まで階段を駆け降り、ガクガクになった足で走りながら」事件現場に遭遇しています。
「本当に怖かったのは、テロ当日ではありません。(中略)あの日体験した地獄より、もっとずっと怖い世界。飛行機をハイジャックして、ナイフ1本で無慈悲に3000人を殺したテロリストよりも、さらに邪悪な者たちが存在すること」と、本書にはあります。

*事件後、米国中で「恐怖と怒り」が満ちていき「銃の売り上げが右肩上がりに上昇、国会では巨額の軍事予算が、満場一致で承認」「 (アメリカの治安と国民を守るため、通話記録の収集をはじめ、当局が国内の隅々まで監視する権限を持つ(太字は本書のママ) Patriot Act:愛国者法がスピード可決され、著者は米国の全体主義国家への変容を目の当たりにします。

*PTSD(心的外傷後ストレス障害)を呈し、「ニューヨークから世界をよりよい場所にするために全力を尽くしたいという夢」が米国への失望と共に崩れた著者は「24時間情報が飛び交い、出遅れたら負けという過酷な世界」の職場を辞し日本に帰国。心身の回復を得たのち、事件後の米国の真実を探すためにジャーナリストとして戻ります。その頃ナオミ・クライン著「ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く」(2007年刊行、日本語訳2011年)に出会います。9・11以後に現れた米国社会を分析する力を与える書物だったと思われます。

*本書では「ショック・ドクトリンとは、テロや戦争、クーデターに自然災害、パンデミックや金融危機、食料不足に気候変動など、ショッキングな事件が起きたとき、国民がパニックで思考停止している隙に、通常なら炎上するような新自由主義政策(規制緩和、民営化、社会保障切り捨ての三本柱)を猛スピードでねじ込んで、国や国民の大事な資産を合法的に略奪し、政府とお友達企業群が大儲けする手法です」との説明があります。

*このドクトリンの発端は「人格を破壊し、入れ替えるCIA(米国中央情報局)の拷問マニュアル」ノーベル賞受賞の経済学者ミルトン・フリードマン教授(シカゴ大学)が、国家全体にショックを与えて「破壊した後に、理想の経済システムと入れ替える」ことを考案。この学術的装いの「強欲略奪バイブル」に群がったのが、「再分配など気にせず、自由に好きなだけ儲けたいと願う銀行家と多国籍企業、投資家たち」でした。

*「もう一つの9・11。舞台は1973年9月11日のチリ」・・・「選挙によって選ばれた世界初のマルクス主義政権であるアジェンデ政権」の崩壊は「ショック・ドクトリン」の「実証実験」によるものでした。その後この手法は世界中に導入されていきます。ショック・ドクトリンの実践例を示す「世界のショック・ドクトリン事例」一覧表の掲載があり、東日本大震災、新型コロナパンデミックも挙げられています。「さもありなん!」と思うだけでなく、過去・現在の具体的な事例の真実を確認することによって為政者からの提案・政策を選択する力量を高めなければと思います。「情報へのアンテナ感度」を評価できる「違和感チェックリスト」も参考になります。「真実とはいつの世も、努力なしには手に入らない貴重品なのです」と書かれています。

*「3・11」「コロナ」に「便乗」してどのようなドクトリンが実体化されたかを巻末に参考文献を提示しつつ明らかにしています。

*第1章 マイナンバーという国民監視テク

本年12月2日から現行の保険証は発行されなくなり医療機関等を受診の際はマイナンバーカードを利用とのことです。カードを持たない私はどうしたら??対策は本書の中にあります。このカードに含まれる情報一覧にはビックリ!です。小見出しを紹介します。

コロナ渦が大チャンスだった・マイナ保険証はここが危ない・日本人が知らない世界のマイナンバー事情・個人情報がすべて紐づけられた先に・・・最後に「最大資産個人データを死守するための十か条」

*第2章 命につけられる値札―コロナショック・ドクトリン・・・感染症を利用する「錬金術師たち」の動きを知ることが出来ます。

2009年「フェイク・パンデミック」と批判された豚インフルエンザとノバックスのワクチン。タミフルとラムズフェルド米国国防長官。ロッシュとWHOのインフルエンザ専門家。ギリアド・サイエンシズとレムデシビル。そして米国FDAワクチン諮問委員会とコロナワクチン、爆買いしていた日本政府への「回転ドア」を出入りした専門家と呼ばれる人々。

*第3章 脱炭素ユートピアの先にあるディストピア・・・「地震と原発事故」をビジネスチャンスとした「新自由主義信奉者」、太陽光パネル・電気自動車で政府の回転ドアをくぐった者たち、ショックから立ち上がる市民グループの動きの紹介。最後には騙されないぞ!と元気が出ます。(伊集院真知子)