日本初インフルエンザ生ワクチンの臨床試験の問題点(NEWS No.590 p06)

日本で初めてのインフルエンザ生ワクチン(以下、イ生ワク)商品名「フルミスト」が2-18歳に認可されています。注射でなく点鼻ですので痛くないのが売りです。日本での製造販売は第一三共で、原薬はイギリスMed Immune社がWHO推奨のインフルエンザ株の中から株を選んで製造したものです。

世界的にはイ生ワクは結構昔から使われていますが、生ワクの場合、ガザで流行しているポリオ生ワクのように強毒化が心配され慎重論が強かったと思います。しかし、生ワクチンは相当な国々で採用されているようです。

米国で2011年から接種の、効かないシーズンあり、中止になった歴史あり

アメリカでは、表のように2013/14シーズンから3年間は、効果がなかったため、2016/7,2017/8は中止されました。この3年間はH1N1pdm2009(いわゆる豚インフルエンザ)が流行ったシーズンであり、この株には効かなかったためとされています。今回のRCTでもこの株への効果は証明されていません。

高いお金を出して接種したが、株が違って、全く効かなかったシーズンも今後十分ありそうです。(注射のワクチンも同様ですが。)

日本小児科学会は、生イワクは他の国では、2016/17シーズンには、ワクチン効果(VE)はフィンランド38,ドイツ56,カナダ74だったとしていますが、このシーズンはH3N2株が流行しました。また、これらは「市場調査結果」であり、信頼度は低いものです。

<なお、ワクチン効果(VE)とはVaccine Efficacyで、(対照群の発症率―ワクチン群の発症率)/対照群の発症率)で、ワクチンの効果を示す際に最もよく使われている評価の値です。>

歴史的なインフルエンザワクチンのRCT

さて、日本では、インフルエンザワクチンの臨床試験はまともにされていませんでした。RCTは、歴史上1970年代の効果を証明できなかったもの以外はなかったように思われます。(ご存じの方は教えてください)そういう意味でも、「フルミスト」の臨床試験RCTは歴史的な試験です。

今回の治験結果は、対照群のインフルエンザ感染率は104/290=0.359, ワクチン群では152/595=0.255でした。その差は、0.109で10.9%だったことになります。その「ワクチン効果」VE=(104/290-152/595)/(104/290) =0.288 でした。これは、ワクチンをすれば、その年の罹患率を28.8%減らせるということです。

他方で、その感染膣の差は、0.109=10.9%でした。一人の感染者を減らすのに9人に接種する必要があることを示しています。

さらに、下の表のように、同じ、VE=0.288でも、その年の罹患率で、ワクチン群とプラセボ群の発病率の差は変化します。

その地域の罹患率がRCTの35.9%でなく、20%なら、対照群とワクチン群の差は5.76%、10%ならその差はわずか2.88%になります。すると、1人のインフルエンザ発症を防ぐためには、罹患率35.9%なら9人(A)、20%なら17人(B)、10%なら35人(C)に接種が必要です。

28%の発症予防率なら流行は阻止できるはずはありません。また、後述のように、このようなインフルエンザ様症状を基本にした試験では、その症状が定義に当たらない、またはほとんど症状のない「不顕感染」への効果は不明ですから、流行をどれだけ防ぐかは不明です。毎年の膨大な接種にもかかわらず、流行を防げていないのは周知のことです。

これは、認可のために審査を受けたデータであり、科学的なものだとしても、この程度の「効果」であることを保護者に伝えるべきです。

このワクチン一人接種費用は8000円程度だそうです。一人を予防するための費用は、罹患率10%のシーズンでは、35人に接種して1人予防するので、0.8×35=28万円、罹患率20%では同17人接種して13.6万円、大流行で罹患率36%でも同9人接種して7.2万円かかることになります。

ただし、この試算は、臨床試験が正確であった場合です。

フルミスト臨床試験RCTの主な問題点 有害事象が効果を上回るかも

接種後28日後までの「特定有害事象」を見ますと、「全体」はワクチン群608人中441人(72.5%)プラセボ群302人中208人(68.9%)でワクチン群が3.9%多く、「発熱(38度以上)」はワクチン群608人中60人(9.9%)、プラセボ群302人中24人(7.9%)で、ワクチン群が2%多い結果でした。

以上とは別に、「インフルエンザ」(ワクチン株による発症)はワクチン群13人(2.1%)とプラセボ群2人(0.7%)でその差は、1.4%です。

程度の違いはあるかもしれませんが、ワクチン群の方で、「特定有害事象」が3.9%、「インフルエンザ」が1.4%、計5.3%症状が多く出ています。

これらを「効果」と比べてみますと、罹患率35.9%では10.9%のインフルエンザを予防でき、有害事象は3.9+1.4=5.3%を引くと5.6%、罹患率20%では同5.7-5.3=0.4%、同10%では2.9-5.3=-2.4% になります。インフルエンザ予防と有害事象の質の違いはありますが、症状発生率は両群であまり変わらないことになります。

重要な「インフルエンザ症状」のデータがない

次に、このRCTの審査報告書には通常のRCTでは提示されている「インフルエンザ様症状」のデータが見つかりません。このデータは、ワクチンの効果判定の基本的データです。

上図のように、このRCTでは、接種後にワクチン群と対照群の全員を追跡調査し、その中で「インフルエンザ様症状」があった人だけを選びだし、インフルエンザのPCR検査を実施することになっています。治験方法からすれば、インフルエンザ様症状のデータがなければ、インフルエンザ検査のデータも作れません。

この際に重要なのは、「インフルエンザ様症状」の定義と、症状の期間・検査時期なども含めた正確な選出です。

ところが、今回のRCT「J301試験」の前に実施された「006試験」では、インフルエンザ様症状の評価が「事前に治験実施計画書に規定された定義に基づくインフルエンザ疾患」の評価でないことが判明し、審査不可・不認可になっています。  さらに、今回採用された「J301試験」でも、「インフルエンザ症状で来院したものの検体採取がされていない」人が居たことが判明し、審査で問題になっています。ところが、審査機構は「感度解析」によって、効果があることを証明できている、として認可しています。このような方法の違反があるのに、関連するインフルエンザ様症状のデータを出していないことが不思議です。これも、何らかの問題があったからでしょうか?

このワクチンによって、インフルエンザ様症状とインフルエンザの発症率がどのようになるかを架空の数字を使い下表のようにまとめました。

ILI: Influenza Like Illness

普通に考えれば、ILIの中のインフルエンザは検査でのインフルエンザとほぼ同じになるはずですので、ワクチンはインフルエンザ症状ILIも、インフルエンザも10%減らすだろうから、表上の数字のようになるはずです。しかし、私が以前調査したインフルエンザワクチンのコクランレビューなどに含まれたRCTでは、培養・血清抗体価などの検査方法によらずほとんどが上から2番目の表のように、ILIよりインフルエンザの方が多く減っていました。

この事実は、データの改ざんがなければ、インフルエンザワクチンが他のウイルスによるILIを増やしている可能性を示唆しています。ILIのデータはこのような点でも重要なデータです。

少なくとも、ワクチンの目的が、インフルエンザなどの症状による苦痛を減らす目的であれば、このILIのデータは不可欠であり、何も隠すことがないのなら、提示されるべきものでが、それがされていないのです。

最後に、このワクチンの<注意事項>には以下のものなどがあります。

「水平伝播」:3-4週間ワクチンウイルスを排出し、未接種者への感染が報告されています。

「ゼラチン含有」でのアレルギー、米国では喘息または、喘息の既往がある2-4歳児への接種を推奨していない、とのことです。添付文書は、卵アレルギーも注意が必要としています。

【まとめ】

シーズンにより罹患率が低いと効果はわずか・型が合わないとほとんど効かない、効いても副作用を合わせると症状を減らせないかも、他のウイルスのインフルエンザ様疾患を増やしているかもしれない。人に、ワクチン株を移すかもしれない。アレルギーに注意必要。

はやし小児科 林敬次