医問研11月例会報告 精神関連用剤(向精神薬:その1 抗精神病剤と抗うつ剤)(NEWS No.591 p02)

はじめに

精神障害のほとんどは慢性に経過するが、精神障害用剤の多くの臨床試験では短期間(数週間) で精神症状の改善効果が症状評価尺度の変化量を指標に評価され、長期の予後が評価されていない。たとえば、統合失調症では再入院予防や社会参加などのQOL改善ないし「リカバリー」を評価したRCTはほとんどない。ほぼ唯一の再入院率を評価したプラセボ対照RCTではむしろプラセボ群の再入院率が少なかったほどだ。

長期のとくに過量での使用では神経毒として害の懸念がある。しかし、急性期の統合失調症などの精神病性障害やうつ病における精神症状の緩和目的や、当事者の生きづらさ、当事者の言動がもたらす当事者自身や関係者、社会への修復不可能で深刻な打撃の可能性を考慮すると、精神科臨床では抗精神病剤や抗うつ剤は不可欠だ。多剤大量処方は戒めるとして、精神科臨床上必須と考えるべき薬剤、基本の薬剤でコントロールしきれない例に補助的に使用すべき薬剤、薬物療法以外の方法について解説を試みた。

精神病性障害用剤(抗精神病剤):

適応症:基本的には統合失調症。一部の抗精神病剤で躁病も適応。精神病症状を呈する統合失調症以外の精神障害や、せん妄や認知症など薬剤や身体疾患に伴う興奮などにも適応外使用されている。

統合失調症:陽性症状(幻覚、妄想など)、陰性症状(感情鈍麻、自発性減退など)、解体症状(認知機能障害;記憶、注意、実行機能などの障害)が生じる。病因は未確定で、神経発達障害仮説、脆弱性ストレスモデルは普及している。抗NMDA受容体抗体脳炎仮説も有力だが、全例に当てはまるわけではない。

統合失調症の治療:抗精神病剤は不可欠だが、治療は、支持的精神療法を基本とする精神療法や心理教育(疾患教育)、認知行動療法や就労プログラムなどの心理社会的療法も併せて包括的に行う。

統合失調症の治療目標:①急性期:精神症状の速やかな改善と社会的機能の低下の最小化。②回復期:患者にかかるストレスの最小化、状態安定化、社会復帰に向けての準備。③安定期:再発予防ともに社会的な生活機能レベルやQOLの維持、向上。各病期に応じて、薬物療法を含む治療の内容や重点を調整し、標的症状を評価する。原則として単剤治療で最小有効量を用いる。

精神病性障害用剤(抗精神病剤)概論:

従来型抗精神病剤は精神病症状や躁病症状への効果は確か。非定型抗精神病剤は従来型と比べて、害作用では錐体外路症状は少ないが、体重増加や糖代謝異常が生じやすい。

抗精神病剤の害作用:代謝性(体重増加や糖尿病)、錐体外路症状(EPS:アカシジア[静坐不能症]、ジスキネジア[不随意運動]、ジストニア[筋緊張異常症]、パーキンソン症状、重症化すると悪性症候群に至る)、循環器系(QT間隔延長含む)、ホルモン関連(高プロラクチン血症含む)、痙攣閾値低下など。まれに低体温になる。

精神病性障害用剤:従来型抗精神病剤

ハロペリドール(セレネース