2024年10月27日の日本小児科学会「考え方」の非科学性(NEWS No.591 p06)

既に、1面で概略を書いていますので、ここではもう少し詳しい内容をお伝えします。

【「推奨」を「基礎疾患」ありに限定】

生後6か月から17歳の全ての小児への接種が「望ましいと考えます。」「特に重症化リスクの高い基礎疾患のある児への接種を推奨します。」これが今年の結論です。

昨年は「生後6か月から17歳までのすべての小児への新型コロナワクチン接種を引き続き推奨します。」となっていました。「推奨」が「全小児」から「基礎疾患のある児」に限定され、「基礎疾患のない児」へは「望ましいと考えます。」とトーンダウンしたのです。

この変更の理由は全く書かれていません。しいて言うなら、「65才以上の高齢者等の方が公費助成による接種の対象となりました。」と書かれているぐらいです。しかし、公的助成はすでに昨年8月9日には厚生科学審議会で、昨年9月初回接種は65才以上・基礎疾患あり、の方に限定されることは確定されていましたから、昨年10月3日発表の「考え方」が、それを反映しているはずです。

したがって、以下に見てゆくように、「考え方」の推奨根拠に明らかな問題点があり、私たちなど学会内外からの批判が反映していると考えられます。その問題点も変更したことが今回の「考え方」です。

以下、今回の「考え方」の根拠理由について、私たちが4月に日児総会で配布したパンフレットの内容と関連することを含めて、その誤りを指摘していきます。

【「考え方」の5点にわたる論理】
流行株の変化によって、今後も流行拡大が予想される。

昨年はXBRあるいは、EG.5に対して、XBB.1.5対応ワクチンでないとダメ、としていましたが、今年はJN.1系統が優位になったから、2024年度秋冬に使用するJN.1対応1価が、「発症予防効果が向上することが期待されています。」、どんどん変異しているから、多くの人に流行しますよ、として、それを防ぐワクチンはありますよ、としているのです。

国内における小児の新型コロナウイルスの抗体保有状況

前回の「考え方」は、小児の既感染率を示すN抗体保有率が大人よりはるかに高いことを隠して、小児が実際のデータよりはるかに少ないかのように「16-69才では42.8%」と記載していました。私たちのパンフレットでは、小児では7割以上がそれを保有しているデータを示して批判しました。そのためか、今回は年齢別に抗体保有率を提示しています。

自然感染を示すN抗体陽性率は、0―4歳では59.6%と6割が感染、なんと、59歳では90.6%、1014歳で86.5だったとしています。

もはや、小児へのコロナワクチンの効果は、「既感染者に対して」どれだけの効果かあるか、が中心的問題になっているのです。

しかし、「考え方」は、この重要な事実の意味を書かず、これから目をそらすためか、別の問題である母体からの移行抗体について、この項目の3分の2を使って、6-17か月児ではN抗体保有率が26.8%と低かったので、「4歳以下、さらに月齢がさがるほど多くの小児が抗体を保有していないと考えられます。」としています。

5歳以上ではどうなるの?という疑問には答えず、「5歳以上の小児は既感染もしくはワクチンよるワクチンによる抗体保有率が高いものの」としていますが、ここは「もしくは・・・」でなく、「既感染率が高い」と書くべきです。ワクチンの効果はほとんどない、または短期間だけだということは、既に明らかです。問題は、既感染者にワクチンの効果があるのか、です。

また、昨年には、(既感染が)「7割を超す」データには「対象者が限られており」と、その意義を薄めることを書いています(これは学会総会での私の発言に対して担当理事からも強調されました)が、今年はこのことには触れていないのはなぜでしょうか?

ここではっきりしたことは、514歳までワクチンを勧めるのなら、既感染者に対するワクチンの効果を明示しなければならないことです。

小児においても重症例・死亡例が発生

ここに引用され、論文として報告されている2022年1-9月の20歳未満62例の分析の紹介では「ワクチン接種対象者の87.5%が未接種でした。」としています。あたかもワクチン接種の効果が大きいような、巧妙な文章です。実は、この論文には「ワクチン接種の効果を評価することはできませんでした。」と明確に書いているのです。このように、論文では否定していることをかってに肯定して紹介するのなら、それらのデータを再検討して、著者が間違っていることを明らかにしなければなりません。日本小児科学会の文章というより、これは、「紅麹」問題を引き起こした「機能性食品」の宣伝文書を想起させます。

また、私たちのパンフレットが指摘した重症化前の抗ウイルス剤使用のデータ提示はありませんでした。元論文には、同剤の使用は入院後に14例(44%)とされていますので、このことでも書けばよいのですが、それも避けられています。入院前や入院後の抗ウイルス剤使用と予後の関連も明確にして欲しいものです。

④ 小児へのワクチン接種は有効である

この項は、すでに9割が感染している5-14歳、6割が感染している0―4歳に対してどれほど有効かを議論しなければならないはずですが、全くそうでありません。

「考え方」は「発症予防や重症化(入院)抑制、そして再感染予防の効果があることが国内外の複数の報告で確認されてきました。」として6文献を上げていますが、問題である再感染について触れている論文は2つだけです。

そのうちの一つは、その文献のp9の図2(下図)がオミクロン株に対して、既感染者に対するコロナワクチン接種群と非接種群の比較がされています。わかりにくい図ですが、上の広い帯が接種群、下の細い帯が非接種群です。接種6か月ほどまで有意差なし、以後約10%程度ワクチンの効果があった?という結果です。(縦軸:効果;0-100%、横軸:月数;1-10月)

もう一つの新潟のデータ(「考え方」文献19)では、バイアスが疑われる例として、文献の表1の、5-11歳のデータでは、ワクチン群の母数は非ワクチン群の母数との合計の12.9%です。しかし、同文献は新潟のこの年齢のワクチン接種率は31.3%としていますから、集計されたデータは実際よりワクチン群が非ワクチン群に比して大変少ないことを意味しています。そこに、バイアスが入ってもおかしくなく、接種群の再感染が10分の1になったという結果は信用できなくなります。(なお、論文の「ワクチン群」は2回かそれ以上の接種、「非ワクチン群」は0か1回接種、とです。)また、この文献では最も新しい変異株BA.5では、接種群と非接種群の差はわずか0.19%にすぎません。

したがって、「考え方」が提出した2つの文献は、ワクチンの再感染防御を示したとはとてもいえません。もちろん正確な評価は感染者によるRCTが必要です。

安全性

「小児に対するワクチンの安全性は複数のランダム化比較試験で検討されました。」としていますい。私たちはパンフレットの中で、小児を対象とした2つのRCTの著者がファイザー社やモデルナの社員や明白な利益相反がある人たちが多く信頼できないとしています。

なぜなら、大人対象の同じく利益相反のある著者が多いRCTを、後に裁判で明らかになった元データを使って分析したJ.Fraimanらは死亡の危険性があり入院することが多い「重篤な有害作用(SAE)」リスクはワクチンで減少したとの「入院」リスクよりも、約2.4倍多かったと報告しています。同様に、Corine Mechels らも、裁判で明らかになった元データでは、RCTでの循環器死亡はワクチン群が対照群の3.7倍であったことを報告しています。

小児のRCTの元データも怪しいものですので、日本小児科学会に対して、ファイザーとモデルナに元データの開示を求めるよう、日児総会でお願いしました。責任をもって有害事象が少ないことを主張するのなら、この問題は避けられません。また、市販後の有害事象報告は実態よりもはるかに少ないものです。私が大人のRCTのFraimanらのSAE報告率と、日本での医療機関からのSAEの報告件数を比較すると、後者はファイザー製でRCTの93分の1、モデルナで290分の1しか報告されていませんでした。

小児のコロナによる重症化は極めてまれです。それを上回る安全性が求められているのです。

以上、「考え方」は非科学的だと言わざるを得ません。

(はやし小児科 林敬次)