問題の所在が医療関係者や社会に知らされないままに、真のEBM (根拠に基づく医療)の発展に逆行する重大な事態が進行している。
「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 (昭和35年法律第145号、以下「薬機法」)は5年ごとに見直しがされる。2025年春の通常国会に提出する改正案について審議している厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会に、行政側(医薬局医薬品審査課長) から2024年6月6日に、薬事承認申請について「臨床試験成績によらず、リアルワールドデータのみの臨床成績による承認申請も可能であることを法律上明確化してはどうか」と正式提案されたのである。さらに2024年10月3日の制度部会では、その具体化について、「現行では「臨床試験の試験成績に関する資料その他の資料」となっているが「臨床試験の試験成績を添付することが前提にならないように、医薬品の品質、有効性・安全性に関する資料という一般的な規定に改正してはどうか。併せて、具体的な資料の構成については、省令で定めることとして、リアルワールドデータによる申請が可能であることを明確化してはどうか」(大意)と再度提案されている。
これらについては制度部会の委員から慎重に扱うよう意見が出されているが、制度部会の議題の多さもあって審議の時間がとられることなく、2024年11月28日の制度部会で取りまとめが始まっている。
臨床試験なしの薬事承認で良いとなると、有効性・安全性が不確かな医薬品、医療機器が席捲する危険性がある。
今回の提案がなされた背景には厚労省の「医薬品産業強化戦略」が、海外市場にも展開する「創薬大国」の実現を目指し、その柱の1つとして「薬事規制改革等を通じたコスト低減と効率性向上」を掲げていることがある。具体的には「医薬品の開発は特に臨床研究・治験の段階において多くの期間と費用がかかる。このため、リアルワールドデータの利活用による効率化、低コスト化、迅速化を図ることが重要」(大意)としている。
またランダム化比較試験 (RCT) が困難な理由に患者数の少なさが挙げられている。しかし私たち医問研の調査によれば100万人に1人しかいない希少疾患でもRCTが可能で、実際に行われている。
観察研究であるリアルワールドデータがRCTデータに替わり得るかは学術的にまったく合意されていない事項である。また薬事承認や保険償還などの重要な意思決定にリアルワールドデータを用い得るかについても、学術的にも社会的にも全く合意されていない。
観察研究 (リアルワールドデータ) でよしとする薬機法改正を行うべきでない。