臨薬研・懇話会2024年12月例会報告
シリーズ企画「臨床薬理論文を批判的に読む」第84回 (2024.12.8) 報告
希少疾患薬等の開発でのRCTの必要性 その4
今回は、百万人に1人未満の有病率 ( prevalence )の疾患でもRCT (Randomized controlled trial) が可能なことを示した専門領域ジャーナルの2017 年の論文を取り上げた。
併せて、「今後フォローして注視していきたい」としていた、「リアルワールドデータ (観察研究データ) のみでも薬事申請が可能なことを薬機法に明記したい」と厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会に行政から正式提案された問題のその後の主な動きについて報告し、話し合った。
1. 希少疾患薬開発でRCTが実施された実例
Hee SW et al. Does the low prevalence affect the sample size of interventional clinical trials of rare diseases? An analysis of data from the aggregate analysis of clinicaltrials.gov
(有病率の低さは希少疾患の介入臨床試験のサンプルサイズに影響するか? clinicaltrials.govの集計データの解析)
Orphanet J Rare Dis 2017; 12: 44.
Orphanet は 1997年にフランス国立保健医学研究所(INSERM)によって設立された国際的なコンソーシアム ( 共同事業体 ) で、希少疾患に関する質の高い情報の普及をめざしている。Orphanetのウェブサイトには「希少疾患はまれな疾患ではあるもののその患者の数は多い」と記されている。
論文の記載内容から
本研究では、米国および/またはEUで実施された希少疾病の介入第2相および第3相臨床試験の規模と、疾病の有病率およびその他の要因との関係を調査した。Aggregate Analysis of ClinialTrials.gov(AACT)から全臨床試験をダウンロードし、AACTのMeSH用語とOrphadataのリストを相互参照して希少疾患の臨床試験を同定し、有病率と試験相の影響を調べた。
186941件のClinicalTrials.gov試験のうち、Orphadataから有病率情報を得た単一の希少疾患を研究した試験は1567件(0.8%)のみであった。有病率100万人に1人未満の疾患が19件(1.2%)、100万人に1-9人が126件(8.0%)、10万人に1-9人が791件(50.5%)、1万人に1-5人が631件(40.3%)であった。
欧州連合(EU)では、有病率が1万人に5人未満である疾患を希少疾患と定義しており、EU加盟国(総人口約5億900万人)全体で約25万4,500人が罹患している。米国では、国内の罹患者が20万人未満である疾患を希少疾患と定義している。これは2015年でいうと10万人に62人の割合に相当する。このような状況でも、古典的な頻度論的枠組みに基づいてランダム化比較試験(RCT)を計画することは可能であり、例えば、標準化効果量0.20を検出するための検出力0.90、両側I型エラー(第1種の誤り)率0.05の2標本のt検定の標本サイズは1052である。
[註:第1種の誤りとは、帰無仮説が正しいのにも関わらず,検定の結果帰無仮説を棄却してしまう誤り]
本研究では、米国のみ、EUのみ(EU加盟国および関連国)、または米国とEUの両方で実施された、治療を主目的とする単一希少疾患の介入第2相および/または第3相試験に焦点を絞った。このように限定したのは、これらの国では希少疾患の有病率が十分に推定され、均質であると考えられたからである。各試験について、試験が行われた国での疾患の有病率を確認した。
各有病率クラスにおける1567件の試験の特徴は、100万人に1人未満 、100万人に1-9人、10万人に1-5人、1万人に1-5人の状態を研究した試験の数は、それぞれ19(1.21%)、126(8.04%)、791(50.48%)、631(40.27%)であった。1567件のうち、1361件(87%)が米国(m=823、53%)または欧州(m=538、34%)の1国のみで実施された。このことは、複数の国で実施された試験の方が、より多くの適格患者プールにアクセスしやすいという利点があるにもかかわらず、依然として1カ国で実施されることが多いことを示唆している。
第2相試験のサンプルサイズは、有病率とサンプルサイズに強い関連はないことを示していた。
これは、それ程まれでない疾患の半数以上の試験でも同様であった。このことは、実際には達成することが困難な希少疾患集団において、大規模な試験を完了させたいという意欲を示している可能性がある。統計的に有意にサンプルサイズと関連することがわかった共変量は、組み入れ基準の性別と年齢、DMC ( データモニタリング委員会 ) の有無、介入がFDA規制の有無、介入モデル、試験地域、試験参加国数、プロトコルへの登録開始年、治療群数であった。
2011年以降に開始されたEUの施設で実施された第2相および/または第3相試験は、ClinicalTrials.govには登録されず、2011年3月22日に開始されたEU臨床試験登録( EU Clinical Trials Register )に登録される可能性がある。本研究は、欧州連合(EU)の第7次研究・技術開発・実証枠組み計画(FP HEALTH 2013 – 602144)の助成金によるInSPiRe(Innovative methodology for small populations research)プロジェクトの一環として実施された。我々の結果は、使用する有病率のタイプの選択によってある程度左右されるが、提示された結果は多くの研究の平均値に基づいているため、結論は比較的頑健であると考える。
参加者のディスカッションから
・ 本研究が100万人に1人未満の希少疾患でも
RCTが可能なことを示していることは興味深い。
・ 100万人に1人未満の希少疾患でもというと、日本の都市部の専門病院で可能ということだ。希少疾患の患者は地域の基幹の専門病院に集まっているので患者・医師関係も良好と期待できる。
2. リアルワールドデータのみでも薬事申請が可能なことを薬機法に明記したいと行政が正式提案した問題のその後の動き
制度部会では、検討議題が非常に多いことが関係しているものの、この件に向き合った真剣な論議がなされる機会もないままに、2024年11月28日の令和6 (2024) 年第9回制度部会以降、制度部会のとりまとめに向けた論議が始まっている。
薬機法に記載の形としては、現状の法律では薬事申請の時には「臨床試験の試験成績に関する資料その他の資料」を添付することになっているが、臨床試験成績の添付が前提とならないように、医薬品の品質、有効性・安全性に関する資料というような一般的な規定に改正する、併せて具
体的な資料の構成については省令で定めることとして、リアルワールドデータによる申請が可能であることを明確化するとしている ( 2024年10月3日 令和6年度第7回 厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会議事録、 医薬品審査管理課長提案説明 )。
この内容を含む薬機法改正案は、来春の通常国会に提出がめざされている。
参加者のディスカッションから
・ RCTでさえ、マスキング(遮蔽)の破綻など、信頼できる状況にない。いわんや観察研究データ(リアルワールドデータ)など全く信頼できない。
・ この問題は一般マスコミはまったく報道しない。業界マスコミ (専門誌)もそれに近い状況にある。もっと知らせていく必要があるのでないか。
薬剤師・MPH(公衆衛生大学院修士) 寺岡章雄