臨薬研・懇話会2025年12月例会(NEWS No.604 p02)

臨薬研・懇話会2025年12月例会 シリーズ企画テーマ報告
「臨床薬理論文を批判的に読む」第90回(2025.12.14)
アトピー性皮膚炎治療剤デュピルマブとその類縁機序薬剤の有効性・安全性(継続テーマ)

臨床試験によらないリアルワールドデータのみでも新薬の承認申請を可能とする薬機法改正が国会で可決成立するなど「エビデンス(科学的根拠)に基づく医療」をめざす医問研にとって「厳しい冬の状況」となっている。
しかし衆参両院で可決にあたり次の付帯事項が採択されたことにも示されるように、めげずに全体的な状況に広く目を配り、着実に努力を続けるのが大切である。
付帯決議(両院でほぼ同じ内容の項では衆議院のものを表示)。

「医薬品等の有効性及び安全性の評価において最も信頼性の高い方法は、比較臨床試験であること、薬事承認申請に際して添付する資料を定めた一般規定である本改正後の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第十四条第三項等の『品質、有効性及び安全性に関する資料として厚生労働省令で定める資料』は、原則として、臨床試験の試験成績に関する資料であることに変わりがないことを改めて確認すること。」

「リアルワールドデータは臨床試験に完全に代わるものではなく、薬事承認におけるリアルワールドデータの利活用には、適合性及び品質が適切なレベルで担保されたデータベースの構築とリアルワールドデータの利点と限界を十分に踏まえた基準の確立等が必要であり、引き続きリアルワールドデータの利活用のための適切な基盤の構築に努めていくとともに、リアルワールドデータのみに基づく薬事承認は慎重に検討すること。」

「医薬品の添付文書に、条件付き承認制度によって承認された医薬品であることや承認の条件を明記し、患者にも十分な情報提供を行うこと。」

また、参議院の付帯決議では、「条件付き承認制度によって承認された医薬品等については、市販後の安全対策を強化することが必要であり、承認に当たっては、強化する安全対策の内容を具体的に定めること」の衆議院に共通する記載に続いて、「新型コロナワクチンの安全対策においては、収集した副反応情報の因果関係評価について、α(因果関係が否定できないもの)、β(因果関係が認められないもの)、γ(因果関係が評価できないもの)の三カテゴリーに分ける基準が採用されていることや、医薬品等によっては収集された副作用等の情報の99パーセント以上が因果関係が評価できないとされている現状を改めるため、評価基準を見直すこと、」と具体的な方策の記載がされている。これに衆議院とも共通する「また安全対策には医薬品副作用被害救済制度における情報も活かすこと。」が続いている。

前回、アトピー性皮膚炎は増悪と軽快を繰り返す、掻痒のある湿疹を主病変とする慢性炎症性皮膚疾患と考えられているのに、その治療剤の臨床開発で掻痒に対する効果を重視せず棚上げにするのは非常におかしいと記した。
この点で掻痒とそれによって生ずる睡眠障害については正面からとりあげているデュピルマブの文献があるので今回取り上げた。

Oxford Academicの国際誌British Journal of Dermatologyの臨床試験論文で、Merola JF et al. 同誌2023; 189: 685-694「デュピルマブはアトピー性皮膚炎の成人の睡眠を有意に改善する:24週間の第IV相ランダム化二重遮蔽プラセボ対照試験DUPISTADの12週間のプラセボ対照期間の結果」であり、市販後の第4相段階で行われた臨床試験である。

論文背景として睡眠障害はアトピー性皮膚炎(AD)の顕著な症状であり、不眠症、日中の疲労感、眠気、生産性の低下、生活の質(QOL)の低下を引き起こす可能性があることをあげ、デュピルマブ治療が睡眠およびその他の患者および医師報告アウトカムに及ぼす影響を評価するとしている。

中等症から重症のAD成人患者を、デュピルマブ300mgを2週間に1回(q2w)投与する群とプラセボ群に2:1の割合でランダムに割り付け、12週間投与した。局所コルチコステロイドの併用が許可された。その後、患者は非遮蔽試験に移行し、さらに12週間、デュピルマブ300mgをq2w投与された。主要評価項目は、新規数値評価尺度(NRS)を用いて評価したベースラインから12週目までの睡眠の質の変化率であった。副次的および探索的評価項目には、ピーク掻痒NRS(PP NRS)の変化率、SCORingアトピー性皮膚炎(SCORAD)の変化率、SCORAD睡眠視覚アナログ尺度(VAS)、湿疹面積・重症度指数、患者報告アウトカム測定情報システム(PROMIS)睡眠関連障害Tスコア、およびエプワース眠気尺度が含まれた。

合計127名の患者がデュピルマブを投与され、61名の患者がプラセボを投与された。睡眠の質(NRS)は、デュピルマブ投与群ではプラセボ投与群と比較して、12週目までに有意に改善した(SCORAD睡眠VAS(LSMD −2.1、P < 0.001)、およびPROMIS Tスコア(LSMD −3.6、P < 0.001)。治療中に発現した有害事象を報告した患者の割合は、デュピルマブ群(56.7%)の方がプラセボ群(67.2%)よりも低かった。最も多く報告された治療関連有害事象は、「感染症及び寄生虫症」、「神経系障害」、及び「皮膚及び皮下組織障害」であった。感染症のほとんどは軽度または中等度であった。結膜炎はデュピルマブ投与群の方がプラセボ投与群よりも多く報告され、頭痛およびアトピー性皮膚炎はプラセボ投与群の方がデュピルマブ投与群よりも多く報告された。

この論文は利益相反が顕著である。メーカーであるサノフィ社とリジェネロン社が資金を出し論文に全面的に関与している。論文の執筆・編集に携わるメディカル・ライターの経費もすべて企業資金によっており、通信責任著者も企業メンバーであるなど徹底している。この点で例会当日の参加者から、論文内容が信頼できないとの指摘がなされた。

この論文は市販後に行われたPlacebo Controlled Trialであるが、上市されてから有効性・安全性を検証するのは多くの困難があり、不可能に近いのでないか、最低限のものであっても治験段階で行う必要があるとの指摘がされた。また、プラセボ群への割り付けが少なく、層別検討が困難になっている状況にある。

それでもPlacebo Controlled Trialが行われていること自体は貴重であり、デュピルマブの他のPlacebo Controlled Trialや、デュピルマブ(商品名デュピクセント)の添付文書に記載されている「国際共同第Ⅲ相単独療法試験(成人)」内容との数的整合性などについては注目していきたいとの発言もあった。

全体的な状況に広く目を配り努力を続けるのが大切と記したが、最近の内閣府の感染症協議会でエビデンス構築に関し、注目されるやりとりがなされているので紹介したい。

感染症協議会は、健康・医療戦略(2025.2.18閣議決定)及び医療分野研究開発推進計画(2025.2.18健康・医療戦略推進本部決定)並びにワクチン開発・生産体制強化戦略(2021.6.1閣議決定)を踏まえ、感染症の研究を推進し、ワクチン・診断薬・治療薬の開発促進のための取組を関係府省庁・関係機関が連携して進めるため、開催される。議長は内閣府健康・医療戦略推進事務局長で、庶務は厚労省の協力を得て、内閣府健康・医療戦略推進事務局が処理する。

この第4回の会合が2025年10月9日に開催された。議事の1つが「感染症危機対応医薬品等開発・生産体制強化に関する感染症協議会提言(骨子案)について」であり、議事録が公開されている。

協議会の構成員である藤原康弘独立行政法人PMDA理事長が概要次の発言をしている。

「有事対応の実効性を上げるための施策」のところで、「ワクチン、治療薬等の臨床開発における比較試験の迅速な実施のために」とあるが、「前回のコロナ禍のときに日本が一番惨めだったのは、治験なんかほとんどやられていなくて、プラセボ対照の比較試験も全然やれなくて、やっているのは観察研究か単群の試験であった。前回の協議会の会合で紹介したが、世界各国は、エボラの後に、典型はアメリカの科学アカデミーが出しているレポートだが、シングルアームトライアルなんてやる意味がないと。パンデミック時であってもプラセボ対照の試験をやるのが筋であると書かれているのですね。しかし、今回のパンデミックのときには、国内の世論あるいは学会の人たちは、プラセボ対照試験なんてできるわけがないというふうに、みんなおっしゃっていたので、何でそんなに世界と違うのだろうなというのが私には理解できないので、今のうちにしっかり議論してほしいと思います。ここでは、パンデミック時であっても、ちゃんとプラセボ対照のランダム化比較試験をやるのが王道ですよと書き込むとかしていただきたいと思います。日本以外の国は書いていますから」

これに対し、鷲見学 厚生労働省 感染症対策部長が「プラセボ対照試験のご質問については、感染症対策部の所掌では必ずしもありませんが、こうした課題が起きやすいのは、特に感染症、先ほど河岡先生から小児の部分の話もございましたが、どういった形で国民に対して理解を得ながら、こうした試験に参加いただくのかというのは、なかなか簡単ではないと思いますけれども、これも大事な視点だというふうに思います」と発言している。

構成員の小柳義夫京大名誉教授・国立研究開発法人日本医療研究開発機構・感染症プロジェクトプログラムディレクターが、藤原PMDA理事長の発言に関して「日本でコロナのときに、プラセボを含めたランダム試験が全く走らなかったのは、臨床現場の方が全く諦めていたと聞いています。それは元をただせば、私は医学・薬学の教員でもありましたので、その重要性を現場の人たちがどれほど認識していたか疑問を持ちました」と発言している。

さらに藤原構成員から、この会議に参加するに当たり、文科省の教育モデルカリキュラムを調べたが、薬学だけはエビデンスづくりに関し詳しく書いていて、看護学・医学は一切書いていない。そのため医師や看護師が臨床試験の重要性について理解していないとの指摘があり、改善を目指すよう要望があった。内山事務局長から、困難のある問題ではあるが担当の方できちんと課題整理して取り組みたいとの発言があった。なお、提言は2026年1~2月の取りまとめをめざしている。

例会当日のディスカッションで医療現場の医師から、デュピルマブ(商品名デュピクセント)が医療医薬品全体でも売上げがベストテンに入るとの報道が紹介されているが、現場では類似薬剤であるネモリズマブ(遺伝子組換え)、商品名はミチーガ(小児用の皮下注用30mgバイアル、成人及び13歳以上の小児用の皮下注用60mgシリンジ)(マルホ・中外製薬の提携医薬品)の売り込み攻勢が強まっていることが報告された。ネモリズマブはヒト化抗ヒトIL-31受容体Aモノクローナル抗体で、60mgシリンジの販売開始は2022年8月、30mgバイアルの販売開始は2024年6月である。60mgシリンジの効能・効果は「アトピー性皮膚炎に伴うそう痒(既存治療で効果不十分な場合に限る)」、30mgバイアルの効能・効果は「既存治療で効果不十分な下記疾患 〇アトピー性皮膚炎に伴う掻痒 〇結節性痒疹」である。

両剤に共通する「効能・効果に関連する注意」として「本剤はそう痒を治療する薬剤であり、そう痒が改善した場合も含め、本剤投与中はアトピー性皮膚炎に対して必要な治療を継続すること」、
「原則として、本剤投与時にはアトピー性皮膚炎の病変部位の状態に応じて抗炎症外用剤を併用すること」、「本剤投与時も保湿外用剤を継続使用すること」となっている。「重要な基本的注意」として「以下の点について患者に説明し、理解したことを確認したうえで投与すること。・本剤はそう痒を治療する薬剤であることから、アトピー性皮膚炎に対する治療を継続すること ・そう痒が改善した場合もアトピー性皮膚炎に対する治療を怠らないこと」と書かれている。

なお、前回の報告でPubMedに関してトランプ大統領が米国連邦公務員職員の大幅削減を表明するなかで、PubMedのルーチン業務に支障が予期されるというメッセージがPubMedのウェブサイトに掲載されるという心配される事態になっていることを記した。その後何とか最悪の事態は避けられたようで、PubMedのウエブサイトに落ち着きが戻っており喜びたい。

薬剤師・公衆衛生大学院修士(MPH)寺岡