アメリカの原発によるガン発生率・死亡率増加の証明(NEWS No.607 p06)

世界最大数の原子炉をもつアメリカで原発によるガン発生率・ガン死亡率が増加していることが、同じ著者達により2つの論文として、続けて発表されました。一つは、マサチューセッツ州の原発とガン「発生率」との関連を分析したもので、もう一つは全米の原発とガン「死亡率」との関連を分析したものです。いずれも、原発と住んでいる場所との距離と、ガン罹患率・死亡率との関連を調べ、関連があることをとても明快に証明しています。

トランプ政権のエネルギー政策が、石油・石炭回帰をすると共に、新型原子炉の開発も含めて原発の増加を目指している今日、大きな意義があります。日本では、福島原発事故に懲りず、大変あぶない原発運転再開、はては新型原子炉開発まで言いだしている中で、これらの論文はとても重要です。

<ガン発生増加:マサチューセッツ州>

まず、マサチューセッツ州でのガン発生率が、原発との距離に反比例して増加しているとの論文を紹介します。この論文は昨年の12月に発表されています。1)

結論は、「原子炉からの距離が近いほど、統計的有意にガンの発生率が増加し、距離に比例して(by distance)リスクが低下する。」です。(マサチューセッツ州、2000–2018年のデータです)

下表のように原発から2km地点でのガン発生リスクは、女性55-64歳で1.52倍、65-74歳で2倍、75歳以上で2.53倍、男性では、それぞれ1.97倍、1.75 倍、1.63倍になるとしています。

RRを人数で表現するとより現実的な受け取り方ができると思います。(次表)

女性では45-54歳で221人、年齢と共に増加し75歳以上では5419人、小計10815人で、全ガン中の4.1%を占めています。男性では、45-54歳では49ですが、年齢と共に激増し55-64歳で3591人に増え、小計で9803人もの方が原発のために、ガンにかかっているとの数字です。これは、同州の全ガン中の、女性で4.1%、男性で3.5%を占めています。

(元文献には、それぞれの95%信頼区間あり)

次に、ガンの増加が原発によるものである証拠として、発生率の増加と原発からの距離の関係が分析されています。論文では、各年齢層の男女でのデータが下図と同じように提示されています。実線はリスク比で、薄い部分は95%信頼区間を表します。

X軸は原発との距離、縦軸はリスクが原発からの距離が大きい人と比較して何倍かを示しています。この年齢では2kmでは1.9倍であり、曲線のように減少していきます。全体として2kmから10kmまでは統計的に明白な増加を示しており、上図では30kmでも増加を示しています。論文では「2kmから10km圏内の郵便番号区域では、相対リスクと(原発のガン発生への)寄与割合が著しく上昇していた。」としています。

この調査方法で驚いたことは、マサチューセッツ州では、ガンの発生率を郵便番号別に整理しているデータがあり、それを使ったとのことです。私は、福島原発事故後の周産期死亡や低出生児比

率を調べるのに、県別のデータしか使えませんでした。それでも、多数の数字に苦労しましたが、著者らは大変膨大なデータを駆使して分析していると感心しました。

もちろん、この論文は、各地域住民の被曝量との関連を示したものではありません。これは、論文「考察」中の「限界」に明示されています。いつものことですが、原発推進派の批判は、この点を中心になされることをと思われます。しかし、原発との距離のこれだけ明確なデータを説明できる他の要因があるのでしょうか?批判者はそれを明示しなければなりません。

<全米原発からの距離とガン死亡率増>

アメリカ全土では、2023年8月1日現在、93の商業原子炉が54の原発基地にあり、世界の原子力発電量の約30%を供給しています。これらの全米の原発からの距離とガン死亡率を調査した論文が今年1月に発表されています。2)

まず、下表のように、原発が近いことによるガン死亡人数の増加は、下表の様になっています。男女を問わず、35-44歳で3桁、45-54歳で4桁、55歳からは1万人以上のガン死亡者の増加が認められて、合計11万5586人になっています。全ガン中に占める率は0.4から、2.1%です。

この論文も、原発との距離とガン死亡発生率の関連を提示しています。その中の男性で55歳-64歳の次の図を見て下さい。

横軸の図下部の数字は原発からの距離(㎞)で0から200㎞、上部の横軸の数字は、その中で住んでいる住民の数(単位は100万人)、縦軸はガン死亡の相対リスクを表しています。前の図と同様、実線はリスク比で、薄い部分はその95%信頼区間を表します。)

原発から遠く離れた住民と比べて、極近隣の住民はリスク比が1.16程度(16%ほど多く)、距離が離れるにつれて低下しています。しかし、原発の距離100㎞でも、95%信頼区間はリスク1より上に離れており、有意に増加していることがわかります。例えば、福井県高浜原発など「原発銀座」から100㎞以内には京都府・滋賀県・大阪府の北部大阪市の阿倍野区などまで含みます。アメリカよりはるかに多くの人が影響を受けている可能性があります。

大きな事故がない原発ですらこれだけの健康被害を与えることが明白になりました。

ところが、日本では福島原発事故を起こしたにもかかわらず、放射線と関連した死亡は一人もいないとされ、福島県は2,335人、岩手470人、宮城931人(2023年2月)との多数の「関連死」とされている方々でさえ生活環境悪化などが原因とされ、放射線関連の死亡の政府等による科学的調査がされていません。私たちの周産期死亡増加などの報告論文や甲状腺ガンのあまりにも明白な異常多発でさえ、無視されています。

福島第一原発事故は史上最悪レベルの規模の事故をおこし、東日本の大部分を直接極めて膨大な放射性物質で汚染し、その他の地域にも食物などと共に多くの放射性物質をまきちらしています。その量は、米国や原発周辺で子どもの白血病が増えたドイツなどの平常運転中の原発とは、質・量ともに大幅に違います。

この2つの論文は、日本の科学者に「あなた方は、その健康障害を明確にすべきですよ」と呼びかけているように感じました。

(両文献は、市民フォーラムの方からJCRRAのメイリングリストに紹介していただきました。最初にお礼を申し上げます。)

1)     Alwadi et al. Environmental Health (2025) 24:92

2)     Nature Communications | ( 2026) 17:1560

(はやし小児科 林敬次)