小中高生の自殺、過去最多の532人
2025年の自殺者数は1万9188人で初めて2万人を下回った一方、小中高生の自殺者数は538人で過去最多となった。厚生労働省が3月27日、昨年の自殺に関する統計(確定値)を発表した。担当者は「精神疾患や家庭問題が増加傾向にある」と分析している。
小中高生の自殺者数は前年から9人増。男性258人(前年比19人増)、女性280人(同10人減)。男性のうち、中学生は13人増、高校生は11人増。女子は、2024年に続いて男子の自殺者数を上回った。
もともと日本の子どもの自殺率は他国と比較して高い。厚生労働省「自殺対策白書」によると、日本の15~24歳の自殺死亡率は、OECD(経済協力開発機構)加盟国38か国中、男性は第9位、女性は第7位。また、G7各国における10~19歳の死因において、自殺が1位になっているのは日本だけだ。
子どもの自殺はなぜおこるか-自殺の要因調査の課題
自殺の原因・動機(4つまで計上)は、「学校問題」が251件で前年より21件減った一方、「健康問題」は174件(前年比10件増)、「家庭問題」は147件(同39件増)だった。「不詳」は88件だった。
厚労省によると、ここ数年、高校生を中心に精神疾患が背景にある自殺が増えているという。高校生の「うつ病」は、22年は37件だったが、25年は54件に増えた。しかし、動機の統計は、一人につき4つまで計上しており、個人の自殺の動機としてどれが強い影響といえるのか延べ数ではわからない。動機不明も一定数おり、経年的には各動機の比率に変化は少なく、近年の子どもの自殺増加の関連要因を説明するには不十分だ。
子どもの自殺の背景を調べる主な仕組みには、学校や教育委員会といった教育側が行う「背景調査」と、警察当局の「自殺統計原票」があが、どちらにも課題や限界がある。
背景調査は、学校が認知した全ての自殺事案で行う。まず学校が始動記録を調べたり教職員に聞き取ったりする「基本調査」があり、その上で教育委員会などが第三者の専門家を交えた「詳細調査」に移行するか判断する。文科省は指針で、すべての案件で詳細調査が望ましいと定めているが、24年度、詳細調査に移行したのは5.6%にとどまる。そもそも学校が認知しなかった自殺事案は背景調査の対象にならない。学校が調査主体であるという点で本質的な限界がある。背景調査は子どもの自殺を家庭や学校のせいにするためのものではなく、亡くなった子が何に困り、なぜ言えなかったのかを、関係者が対立でなく協力して多角的に調べる必要がある。
学校の調査に比べてより網羅的とされるのが警察の自殺統計原票だ。警察が死亡事案を調べ、自殺だと判断した場合に作られる。自殺の原因・動機のチェックリストがあり、最大4つまで選ぶことができる。しかし、長年自殺の研究に取り組む竹島正・大正大学客員教授によると、過度に期待すべきではなく、警察の主眼は事件性の有無であり、事件の捜査と自殺の複雑な背景をひもといていくことは、手法も違えば目的も違う、と注意喚起する。
竹島さんが提唱するのは、自殺の専門家による組織を作り、第三者の立場で各地の事案を調べるような仕組みだ。調査手法を統一することで質を担保でき、知見の積み上げも期待できる。個々の事例を丁寧に分析し、背景を明らかにすることで、若い命を守る手だてとしたい。
故人の生前の様子を明らかにし、自殺に至った要因を明らかにしようとする心理学的剖検という調査研究手法がある。精神科医などの専門家が遺族や友人から話を聞き、家庭環境や健康状況、経済的問題や自殺前の行動などについて調べる。自殺者の生前の行動の傾向を丁寧に分析することで、自殺リスクが高い人を事前に把握して支援することが可能になる。自殺予防の観点から,心理学的剖検は遺族のケアも同時に行えるためその意義は極めて大きいが、遺族が応じる心理的障害の高さやトラウマの再体験のリスク、聴取者には代理トラウマといったリスクがそれぞれあり、双方に多大な心理的負担となる。自殺に対する社会的偏見の強さも桎梏となる。
自殺予防の方策は?
自殺を予防するためには、自殺リスクを上げる危険因子を減らし、リスクを下げる保護因子を増やすことが重要とされる。
子どもの自殺の危険因子には、精神疾患、自殺企図歴、自傷歴、孤立、家族背景(家族の自殺歴、家族関係の不和、虐待体験)、ネガティブなライフイベント(学校不適応、いじめ、喪失体験)、メディアの影響(報道、SNS、アニメ)があげられている。また自殺の保護因子には、家族のつながりの強さ、学校での良好な対人関係があげられている。
朝日新聞は2026年3月15日朝刊で1面と2面を使って、子どもの自殺の現状と課題を取り上げている。そのなかで、オーバードーズ(OD;薬の過量服用)やリストカットなどをした子どもたちが搬送される埼玉医科大学病院臨床中毒センターの取り組みを先進例として紹介している。
つらいとき、周りの人になんと相談したらいいかわからず抱え込み、死ぬことしか考えられなくなってしまう、学校や友だちといった身近な存在はいるが、安心して頼れるわけではないという子どもが少なくないと、センターの臨床心理士(CP)は感じてきた。「積極的に相談したいわけではない。でも、なにがつらいのかを誰にも打ち明けられない状態が苦しい。『何も話したくない』わけでもない」。自殺未遂をした人はその後の自殺のリスクが高く、うち一定数は「既遂」に至る。救急搬送は、命を守るための大切な医療との接点となりうる。同センターは、救急医であり精神科医のセンター長のもと、救急医や集中治療医だけでなく、精神科医やCPが在籍し、心のケアも重視している。CPが患者に自殺未遂に至るまでの経緯や気持ちを聞き取るほか、家族や救急隊員にも家族関係、家の中の状況などを聞く。必要に応じて精神科への入院や継続的なカウンセリングにつなぐ。
搬送された子どもたちのその後を追うと、ODをやめた子どももいる。発達特性に気づかず、人間関係や学習でつらい体験が重なり自殺未遂をした子どもが、自分自身の特性を理解し、自分に合う居場所や生活を選べるようになっていくこともある。同センター長は、救急医療が心身を守るゲートキーパー(門番)を担うことが大切だ」と訴える。
ゲートキーパーとは、悩んでいる人に気づき、声をかけてあげられる人のことで、誰でもゲートキーパーになることができる。ゲートキーパーは「変化に気づく」「じっくりと耳を傾ける」「支援先につなげる」「温かく見守る」という4つの役割が期待されるが、どれか1つができるだけでも、大きな支えになる。
同紙面の精神科医の山口氏のコメントを以下に紹介する。
[ここから引用開始]子どもはある日突然自殺をするわけではない。いまもかろうじて生きている子どもがたくさんいる。家庭や学校でのつらい経験や孤独感がいくつも積み重なった先に自殺がある。子どものこころのケアは、大人が最優先で考えなければいけない課題だ。
自殺に至るまでには、居場所を感じられないこと、社会にいらない存在だと感じること、自傷行為を繰り返すなど、痛みに慣れ死を身近に感じることなどの重なりがあるとされる。
子どもの心の健康とケアについて、全体像をつかむことが国の最優先の課題だ。心の健康の再定義、トラウマやアタッチメント(愛着)、発達の多様性、虐待やいじめ、発達障害、子どもの心をとりまく状況を網羅的に把握し戦略を立てる必要がある。
「朝起きたら死んでたらいいな」と話す子どももいる。「生きることに希望はない」という感覚は、子どもからの大切なメッセージだ。これまで重ねてきた失望は、簡単にはなくならない。「相談してね」の前に、子どもからのサインを受け止めて、一つ一つ返していくことが必要だ。
子どもは大人を見ている。大人が人を頼れず苦しんでいないか。子どもが「生きていてもいい」と思えるには、まず大人がゆったりと過ごし、孤立せず支え合うことも大切だ。私たち一人ひとりが自殺対策の担い手だ。[引用ここまで]
子どもが発するSOSを察知することが自殺防止のカギとなる。子どもの自殺防止や自殺未遂者へのケアを巡っては、これまで学校や児童相談所、医療機関、市民団体などが個別に取り組む傾向があった。そこで連携を深めようとことし4月から改正自殺対策基本法が全面施行された。自殺が心配される子がいれば、県や市町村は関係機関を集めて協議会を設置し、情報を集約したり個別の支援策をまとめたりできる。「点」にとどまりがちだった支援を、地域の関係機関が連携して「面」で対応することを目指す仕組みだ。改正法では、子どもの自殺防止に向けた学校の責務も明記された。しかし、養護教諭も含め教員不足は深刻だ。精神保健に詳しいスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの配置も十分ではない。また、指導死やいじめの隠蔽などの学校や教育側の不適切な対応も問題化している。子どもの自殺対策は急務だ。新たな枠組みに実効性を持たせるため、十分な予算や人員の裏付けが欠かせない。子どもの自殺者数を減らすためには、自殺予防に対して、行政や教育機関、民間の支援団体、医療などが一体となって取り組む必要がある。なお、いつの場合も子どもへの寄り添いの姿勢は大前提だ。
精神科医 梅田
※参考資料のリストは<5面>にあります
