医問研5月例会報告 シリーズ企画「臨床薬理論文を批判的に読む」第92回 現在の閉塞状況をどう認識するか大きな観点から考える(NEWS No.609 P02)

生きづらさが増す現在です。また世代格差や継承が問題となっている現在でもあります。“臨床薬理論文”を拡大解釈することにはなりますが、BMJ誌電子版に2026年4月1日に公告された最新の文献を参考に、大きな観点からの把握に努め、議論を深めたいと考えました。

“ Is young people’s mental health worse than in the past? ” ( 若い人たちの精神衛生は過去のそれより悪くなっているか ? )   : BMJ 2026; 393: s410

この電子版文献はオープンフリーアクセスの文献ではない ( BMJ誌のウエブサイトで購入 ) ので、問題意識が重なる次のオープンフリーアクセスの文献も勉強会で参考にとりあげ参加者に案内しました。PMC  ( PubMed Central ) の オープンフリーアクセスの文献 です。

The youth mental health crisis : analysis and solutions ( 若い人たちの精神衛生危機 : 分析と解決策 )

https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11790661

1. BMJ誌電子版文献

通信著者 ( 2名が共同 ):グローンマン(アムステルダム大学児童発達教育研究所、オランダ):ヨエンソン(ロスキレ大学人間とテクノロジー学部健康・社会研究グループ、デンマーク)

若者の精神衛生は悪化している可能性がある。グローンマンたちはソーシャルメディアの利用によって、診断件数の真の増加と診断件数のインフレを区別することが難しくなっているが、それを原因とするのは単純化しすぎであると述べている。ヨエンソン氏は、メンタルヘルスではなく、生活そのものがより複雑になったと主張している。ランセット精神医学委員会は、世界的な「若者のメンタルヘルス危機」への対策を求めている。若者の間でメンタルヘルス疾患の割合は増加傾向にあり、米国では17歳の男子の約22%が注意欠如・多動性障害(症)( ADHD(DSM-5);DSM-Ⅳでは注意欠陥・多動性障害)と診断されている。

これは「概念の拡大」の一形態を示している。それは、精神疾患に関する社会の信念の変化によって、その疾患を構成するものが拡大したり、あるいは人生の一部である通常の浮き沈みに対する寛容度が低下したりすることを反映している現象である。これに加えて、「有病率インフレ仮説」は、精神疾患に関する情報の増加が、一方で一般的な問題を精神疾患として過剰に解釈する原因となり、他方ではこれまで特定されていなかった一群の症例の認識を向上させることを示唆している。

ソーシャルメディアは、これらの両方のプロセスを加速させる可能性がある。誤った情報が事実情報と同等に信頼できると認識され、かつより面白いと感じられる場合、事実情報よりも容易に拡散する。これは、ADHDを構成するものについての一般の認識を広げる可能性があり(概念の拡大)、同時に、このコンテンツに接する人々の間で一般的な問題を精神疾患として過剰に解釈することにつながる(有病率のインフレーション)。

しかし、ソーシャルメディアを非難するのは問題の単純化であり、概念の拡大や有病率のインフレだけでは、若者の精神疾患の診断増加を説明することはできない。近年、精神疾患の診断増加だけでなく、精神疾患のより「客観的な」指標の増加も見られる。これには、自殺率の上昇、自傷行為による救急外来受診、摂食障害などの疾患による入院などが含まれる。

これらの数字は、精神衛生上の問題が実際に増加していることを示唆している。現代の若者は、気候変動への不安、戦争への懸念、政治的不安定など、かつてないほど複合的な世界的圧力に直面している。実際、若者自身も、社会的支援の減少や学業上のプレッシャーの増加など、より困難な社会環境を報告している。若者が直面するこうした変化した状況は、精神衛生上の問題の増加の一因となっていると考えられる。

若者の精神疾患の増加を理解するには、単純な説明にとどまらず、より深い考察が必要である。証拠 ( evidence ) によると、精神疾患の実際の増加と、若者が自身の経験をどのように理解するかという点における変化の両方が見られる。若者は、自分の力ではどうにもならないように見える行動、注意、気分の日常的な変化を理解するために、診断名を使用する。重要なのは、これが臨床的な状態を反映している場合もあれば、そうでない場合もあるということである。若者のメンタルヘルスが「本当に」悪化しているかどうかを問うのではなく、メンタルヘルスは環境と切り離せないものであり、現代の若者を取り巻く環境は根本的に変化していることを認識すべきである。私たちの対応も同様に多面的でなければならない。真の環境的圧力に対処すると同時に、人間の正常な多様性を過度に病理化することには注意を払う必要がある。ヨエンソンは、精神状態が必ずしも悪化するわけではないが、人生ははるかに複雑になると述べている。

ディケンズがかつて書いたように、今はまさに最良の時代であり、最悪の時代でもある。私たちの世界は矛盾に満ちている。過去の世代ではほとんど誰も経験したことのないほど豊かな時代に生きているにもかかわらず、私たちの耳には日々、資源の枯渇や不足といった話が絶え間なく流れてくるのだ。若者たちが、膨大な情報が絶えず流れ込む現代社会という矛盾に満ちた世界を生き抜く中で、大人へと成長していく過程を想像いただきたい。このような状況下で、若者のメンタルヘルス問題が深刻化しているのは驚くべきことではないが、その理由は精神疾患そのものの増加でなく、医療化、新自由主義政策、そして個人主義という 3 つの主要な要因によって引き起こされているのである 。医療化とは、日常生活や普通の人間経験の側面が、ますます医学用語で理解されるようになることを表す用語である。しかし、医療化は単に医学的なラベルを貼ることではなく、ある時点で社会が問題視したり介入が必要だと判断したりする事柄を反映している ( 傍線は引用者、以下同様 )。

若者が、成果主義、自己最適化、そして絶え間ない他者との比較を重んじる環境で育つと、劣等感は容易にメンタルヘルスの不調の兆候として理解され、経験されるようになる。この現象は孤立して起こるものではない。20世紀を代表する思想家の一人であるミシェル・フーコーが論じたように、競争、効率性、そして個人的責任は、市場だけでなく教育、仕事、さらには私生活においても、指導原理として推進されてきた。その結果、成功は個人の努力の賜物と容易に解釈され、苦闘は個人の失敗とみなされるようになる。私たちが取り組むべき課題は、人々の生活環境や状況を変えることであり、その環境や状況の中で暮らす個人を変えることではないとも言える。

②  参考  オープンフリーアクセスの文献

PMC  ( PubMed Central ) の オープンフリーアクセスの文献です。

The youth mental health crisis : analysis and solutions ( 若い人たちの精神衛生危機 : 分析と解決策 )

https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11790661

パトリック・マクゴリー ( メルボルン大学医学・歯学・健康科学部青少年メンタルヘルスセンター ) 他、オーストラリア

抄録

背景:20世紀半ば以降、精神疾患は特に青年期および若年成人期において、健康上の大きな負担要因となっており、ほとんどの疾患は25歳未満で発症している。過去20年間で、精神疾患は憂慮すべきレベルにまで急増しており、その増加は単に認知度や診断の向上によるものではなく、真の公衆衛生上の危機を反映していることが、複数の研究によって裏付けられている。

研究デザイン/方法:本研究では、若者の精神保健を取り巻く状況の変化と、家族関係、教育上のプレッシャー、気候変動、ソーシャルメディア、そして新自由主義政策と関連する可能性のある社会経済的課題といった要因を探究する。これらの要因と、若者の精神疾患の傾向におけるそれらの役割を分析するために、ナラティブレビューの手法を用いた。

研究結果:1990年代半ば以降の精神保健の傾向を、若者の精神疾患および物質使用障害、そして彼らの現在のニーズに焦点を当てて明らかにする。新たな説明要因やメガトレンドの可能性が指摘されている。これらは、これまでほとんど注目されてこなかったものの、分断と不平等を生み出してきた世界政治経済のパラダイムシフトに起因する可能性があり、COVID-19パンデミックはこれらの傾向をさらに加速させている。本稿では、これらのメガトレンドの寄与度を推定するための方法論について議論し、実施における潜在的な障壁と、それらを克服するための戦略を概説する。

(抄録の)結論:本レビューは、予防、早期介入、および治療戦略の改善を重視した包括的な世界的行動計画の必要性を訴える。予防の強化は時間と労力を要し、実現が難しい場合もあるが、現状では資源不足と業務過多の状態にあるサービスを革新・拡大するための即時的な行動が必要である。

本文から

構造的な障壁には、若者の支援サークル(家族、地域社会、教育機関など)における支援イニシアチブの欠如、限られたサービス能力、不十分な資金などが含まれる。経済的および政治的要因も、若者のメンタルヘルスの状況を改善する上で大きな障壁となっている。説明責任のない政府の政策、有害で隠された経済正統性、抑制されず規制されていない商業活動やビジネス活動の影響は、非常に有害であり、人口の大部分が医原性効果やメンタルヘルスの商業的要因にさらされる結果となる可能性がある。これは部分的に認識されているが、政治的および経済的意思決定においてしばしば見落とされている。政策やプロジェクトが承認される前に、環境影響評価と同様に、メンタルヘルス影響分析または声明を実施する必要がある。医療の民営化やその他の経済的障壁は、精神保健サービスへのアクセスを制限し、健康格差を悪化させ、精神疾患患者に対する露骨な差別を構成する。このスキャンダルは、精神保健プログラムへの資金不足や保険適用範囲の不十分さにつながる。

民主主義においては、政治的意思は国民の活動レベルと改革要求に正比例し、これらを活性化し動員する必要がある。経済の安定と成長は、特に若者の精神衛生問題の主要な要因の一つである社会経済的逆境を軽減することで、間接的に精神衛生にも影響を与える可能性がある。所得格差の縮小、教育制度の改善、保健・社会保障制度の整備を目的とした政策は、若者の精神衛生にプラスの効果をもたらす可能性がある。

若者の精神疾患の増加を示す証拠が積み重なり、世界的に精神医療が依然として軽視されていることから、精神疾患の予防と早期介入への取り組みを強化する必要性が喫緊に高まっている。この危機の規模は、本レビューで主に焦点を当ててきた疾患にとどまらず、摂食障害など、思春期や青年期に発症する可能性のある他の深刻な精神疾患の発生率も増加している。最近、若者の精神疾患の増加率に対処するため、社会全体で取り組むことが求められ、直ちに行動を起こすよう呼びかけられた。この世界的な取り組みを支援するため、低所得国、中所得国、高所得国における若者の精神医療を導くための基本原則が用意されており、若者の精神保健における予防と早期介入を変革するための世界的な青写真が策定されている。若者の精神保健ニーズの高まりに対し、緊急かつ真剣な公衆衛生上の対応が必要である。これは、個人、社会、経済の面で大きな利益をもたらす可能性がある。効果的に実施されれば、がんや心血管疾患といった他の健康分野で見られるような大きな成果が、若者のメンタルヘルス、そして世界のメンタルヘルス分野やコミュニティにおいても実現可能である。

(この論文の)結論

若者の精神衛生状態の悪化を示す証拠が増えていることは、世界的な公衆衛生上の重大な危機を浮き彫りにしている。1990年代半ば以降、不安、心理的苦痛、うつ病が大幅に増加していることは、憂慮すべき事態である。気候変動、家庭環境、教育上のプレッシャー、社会経済的不安定、世代間の不平等、ソーシャルメディアの台頭といった要因がこの傾向に寄与しているが、それぞれが増加を部分的にしか説明できず、その多くは政治的・経済的な根源を持つより深い病弊に起因している可能性がある。方法論的な制約や、検討されていないリスク要因や傾向も、私たちの理解をさらに複雑にしている。COVID-19パンデミックは危機を悪化させた可能性が高いものの、ある意味では危機を完全に説明しており、若者の精神衛生と社会福祉におけるダイナミックな研究、予防、そして新たなイノベーションの波が緊急に必要であることを強調している。これらの課題に立ち向かうことで、害を軽減・逆転させ、精神疾患の蔓延と影響を減らし、世界中の社会と経済に不可欠な利益をもたらすことができる。

その他

この論文は、資金源 ( Funding )、 利益相反の表明などと並べて「生成AIに関する声明」として、「著者らは、本稿の作成において生成AIは一切使用していないことをここに表明する」を挙げている。

2. 当日のディスカッションから

この電子版論文が取り上げられたことについて、確かに「臨床薬理論文を批判的に読む」のメインテーマから少々外れるものの、重要な問題であり時宜を得ているとの意見があった。また、若者に焦点が当てられているが、電子版論文や参考論文にも関連した記載があるように、若者だけの問題ではない広がりがあり、妥当であったとの意見があった。また、生きづらさや精神科医療に関係して、参加されていた精神科の医師から「薬のチェック季刊誌34号」 ( 2009年4月20日発行) に執筆された記事の紹介とともに、この問題の外国とは異なる日本での扱いなど丁寧な補足をいただいた。

(薬剤師・Master of Public Health  公衆衛生大学院修士 寺岡)