2026年4月から日本で妊婦を対象としたRSV母子免疫ワクチン(アブリスボ筋注用)の定期接種化が行われることになった。RSウイルスワクチンを推奨している日本小児科学会はこれを新生児・乳児RSウイルス感染症対策の重要な進展と評価しているが、その評価はアメリカFDAが2023年9月に発したRSVワクチンの妊婦への接種推奨をなぞったものであるため、FDAのデータを評価することで日本の小児科学会の評価に替える。
① FDAはRSV関連下気道疾患の予防目的で推奨
2023年7月、FDAはヒト抗RSウイルス抗体であるニルセビマブ(製品名ベイフォータス)を、ワクチンではないが乳児のRSV関連下気道疾患の予防目的として推奨。一方、同年8月には同じ予防目的としてRSVのワクチンとしてPfizer社のアブリスボを妊娠32~36週までの妊婦に1回接種することを推奨した。つまり、RSV予防目的に乳児へのニルセビマブ投与か妊婦へのアブリスボ投与かのいずれかを推奨した。
一方、予防のためのワクチン開発への努力は30年来続けられているが、依然として研究中である。アメリカだけでなく、多くの国で、RSVは乳児期の肺炎の50%、細気管支炎の50-90%を占める。より年長の小児でも気管支炎の10-30%に関与していると考えられている。一方呼吸器症状のない患者からの分離は滅多にない。通常、すべての新生児で母体からの移行抗体が母体と同じレベルであるが、徐々に減少、抗体が存在する6か月以内が最も重症化。7か月以降の抗体は通常生後の自然感染による。最初の1年間で50-70%以上の新生児が罹患、3歳までにすべての小児が抗体を獲得。年長児や成人の再感染も普遍的にみられるが、重症化は少ない。縦断調査では毎年6-83%の小児が再感染。また、高齢者においての急性の重症感染が重要になりつつある。
繰り返すが、RSVの予防については現在利用可能な予防方法はヒト血清由来の抗RSV免疫グロブリンとFusion蛋白に対するモノクローナル抗体製剤であるパリビズマブがあり日本では2001年1月に承認され予防効果が期待できるとされている。
RSVは年齢を問わず、生涯にわたり顕性感染を起こす。特に乳幼児期において非常に重要な病原体であり、母体からの移行抗体が存在するにもかかわらず、生後数週から数か月の期間に最も重症な症状を引き起こす。小児の細気管支炎や肺炎など、下気道感染による入院数の増加のほとんどは、RSVの活動性と一致する。
以上、FDA情報を中心に見てきたが、抗体療法やワクチン療法を中心に見ても、効果については疑問符がわく。
この点を明らかにするため、次にコクランライブラリーからの引用を見てみる。
② RSVワクチンの有効性と安全性
アイルランド ゴールウェイ大学 キャサリン キング
目的
あらゆるヒト集団において、RSVワクチンをプラセボ、無介入、他の呼吸器感染症ワクチン、他のRSワクチン、またはモノクローナル抗体(mAb)と比較した場合の、RSワクチンの有効性と有害性を評価する。
キャサリン氏の結論
乳児における母体RSV Fタンパク質ベースワクチンとプラセボの比較
RSVによる疾患による死亡率、全死因死亡率、および母親と乳児におけるワクチン接種に関連する重篤な有害事象にはほとんど差がない可能性がある(確実性の低いエビデンス)。
乳幼児における弱毒生RSVワクチンとプラセボの比較
全原因による医療機関受診を伴う急性呼吸器疾患(MAARI)に対する有効性(VE)は26%(95%信頼区間 -0.01~0.46、相対リスク 0.74、95%信頼区間 0.54~1.01、5件のRCT、参加者171名、エビデンスの確実性は非常に低い)であり、RSV関連MAARIに対する有効性は38%(95%信頼区間 -0.24~0.69、相対リスク 0.62、95%信頼区間 0.31~1.24、5件のRCT、参加者192名、エビデンスの確実性は非常に低い)である。ワクチン接種に関連する重篤な有害事象には、ほとんど差がない可能性がある(確実性の低いエビデンス)。
妊娠可能な年齢の女性におけるRSV組換えFナノ粒子ワクチンとプラセボの比較 RSVによる疾患による死亡率、全死因死亡率、およびワクチン接種に関連する重篤な有害事象については、ほとんど差がない可能性がある(エビデンスの確実性は低い)。
コクランライブラリー著者の結論(この医問研ニュース原稿の結論でもあります)
RSV Fタンパク質をベースとしたワクチンを母親に接種することで、乳児におけるRSV関連下気道疾患の受診件数および重症例が減少した。ワクチン接種に関連する重篤な有害事象(SAE)の発生率は、母親と乳児でほとんど差がない可能性がある。
RSVワクチンが妊娠可能な年齢の女性に及ぼす影響、および生弱毒化RSVワクチンが乳幼児に及ぼす影響については、証拠が非常に不確実であり、ワクチン接種に関連する重篤な有害事象にほとんど、あるいは全く差がない可能性がある。
主要メッセージ
妊娠可能な年齢の女性におけるRSウイルスワクチンの有効性、および生RSウイルスワクチンが乳幼児に与える影響については、依然として不明な点が多い。これらの臨床試験では、未承認のワクチンが使用された。
妊娠可能な年齢の女性におけるRSVワクチンの効果、および生ワクチンが乳幼児や小児に及ぼす影響について、さらなる研究が必要である。