薬のコラムNo.142:フルタイド(フルチカゾン,喘息用吸入薬)による急性副腎不全は防げるか?

喘息用吸入薬フルタイドの危険性が「正しい治療と薬の情報」誌2004年第3号に取り上げられ,週刊金曜日にも取り上げられたことをご存知の方もいらっしゃると思います.今回は,この問題点を振り返ってみます.

副作用が多いことは明らか

Toddらの研究により,喘息治療中の急性副腎不全(低血糖,昏睡,けいれんなどが起こる)の患者33名中,ベクロメタゾン(ベコタイド,アルデシンな ど)を使用していたのは2名だったのに対し,フルタイドを使用していたのは31名(内1名はブデソニド[パルミコート]を併用)でした.処方量を考慮する と,浜氏の計算によれば,フルタイドが急性副腎不全を起こす危険性はベクロメタゾンの80倍以上になります.

副作用が適切に宣伝されていないのに代替薬を地位を狙う?

この様に副作用が多いにも関わらず,製薬会社は添付文書に「全身性の作用(副腎皮質機能の抑制…)が発現する可能性がある」としているのみで,積極的な宣伝をせず,むしろベクロメタゾンより毒性が上回ることがないとして来たのです.
もっと大きな問題は,フロン対策の影響です.ベクロメタゾンを使用するベコタイド,アルデシンは順次製造中止となります.ところがフルタイドは製造が継続されます.フルタイドに切り替えることによって起こる危険性を宣伝していないのです.

日本に特異な小児用代替薬の開発の遅れ

成人用吸入薬としてはパルミコートのタービュヘラーが存在し,これに変更すれば安全に治療を継続できます(現時点でパルミコートの副腎抑制はベクロメタ ゾンと差がないとされています.)しかし小児の治療にはタービュヘラーの使用が困難であり,スプレータイプのものを使用せざるをえない状況となっていま す.
既に欧州ではネブライザー用のパルミコート懸濁液があり,小児に使用されています.これなら安全です.しかし日本では販売されていません.このようなフ ロン対策の遅れを悪用した形での販売戦略には怒りを感じますが,治療の現場では使用せざるを得ない重症例が存在することも確かです.
フルチカゾンの使用に当たっては,その危険性を十分宣伝して急性副腎不全を防止するとともに,一日も早く安全な代替薬を販売させるよう訴えて行かねばなりません.

(2004年5月)