本「ゲーム脳の恐怖」生活人新書 NHK出版

子どもたちにとって遊びは精神発達の重要な栄養素である.それらは時代を反映し,時とともに移り変わっていく.最近の特徴は何といってもTVゲームであろ う.ゲームセンターやソフト売り場の過熱ぶりに異様さを感じるのは自分の年のせいであろうか.こんな中,テレビゲームばかりしている人の脳に異変が起こっ ているという衝撃的な報告がなされた.

老人性痴呆の脳波を研究してきた森昭雄氏によると,テレビゲームを長期間おこなっている人の脳波が,重い痴呆の人の脳波にたいへん類似しており,重症にな るとゲームを止めても元に戻らなくなる,というものである.自作の簡易脳波装置を使って,多くの大学生の協力により,安静時の抑制系ニューロンによる同期 性のα波と,前頭前野の活発な活動を反映する非同期性のβ波の出現頻度から,次の4つのタイプに分類できたとしている.

  1. ほとんどゲームをしていない人では,β波がα波よりも常に多く出て,ゲームをしても変化しない「ノーマル脳」.
  2. 1日1〜2時間テレビを見ている人で,普段はα,β波の出現は正常だが,ゲームをするとβ波が下がる「ビジュアル脳」.
  3. 週3〜4日,1回1〜3時間ゲームをする人で,普段からβ波が少なく,ゲームをすると極端に低下する「半ゲーム脳」.
  4. 毎日2〜7時間ゲームをする人で,ゲームをしていない時でもβ波がゼロに近く,前頭前野がほとんど働いていない「ゲーム脳」

で,1)の人は,礼儀正しく学業成績は普通より上位,2)の人も普通から上の人が多く,3)になると,少しキレたり自己ペースといった印象が増え,4) は,すぐキレる人が多く,ボーッとして集中力が低下し,学業成績は普通以下,もの忘れが非常に多く,時間感覚がなく学校も休みがちになる,というものであ る.

このようにα波とβ波の発現状況といった一見科学的なデータを「エビデンス」とし,それぞれの被験者の性格特徴により人間のタイプを類型化するものであ るが,被験者の母数さえも明らかでなく,この分類基準のspecificity,sensitivityの考察などがないまま,安易に人をタイプ別けして いるところはABO血液型占いのオカルト性に通じる危険性がある.また子どもたちの個性にかかわらずTVゲームへの熱中度で将来の性格タイプが決まるかの ような結論であるが,逆にTVゲームに熱中してしまい易い個性もあると思われるが,そちらからのアプローチはない.

人間の行動発達の影響要因としてHebbの法則が知られているが,言語と同じく対人行動そのものの発達は遺伝子にコードされているわけでなく,環境や経 験によって次第に学習していくものである.従って子どもたちをターゲットとし,格闘であれホラーであれ熱中させるためなら何でもあり,のTVゲームが子ど もたちの精神発達に影響を与えないはずはない.対人関係の苦手なタイプでも,幼少時から子ども集団の中での遊びの経験により社会的スキルを獲得していくも のであるが,TVゲームへの熱中がこれらの遊びの幅を狭め,苦手な個性を拡大助長させてしまう危険性はある.その意味で本著は,現代の子どもの遊びに大き く影響しているTVゲームへの警告を与えるものである.このテーマへの,今後の更なる研究を期待して,とりあえずゲームに夢中の6年生の息子には読ませた い本である.

入江診療所 入江

医問研ニュース 2003年1月号