薬機法改正案 その方向性(臨床薬理研・懇話会2019年4月例会報告)

薬剤認可の大改悪!現在国会審議中の日本の薬剤認可のかってないほどの大きな改悪に関するものですので、大変重要と考え掲載します。

薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)の5年ぶりの改正案が2019年3月19日、国会に提出されました。審議はまだですが、今回はいつもの「臨床薬理論文を批判的に読む」シリーズを休み、薬機法改正案の方向性について取り上げました。改正案の内容は多岐にわたりますが、字数との関係で次の主な項目について記します。

1. 「条件付き早期承認制度」の法制化 ―強引な規制緩和は患者の安全を脅かす

医薬品は、比較群を設定した臨床試験を行い、有効性安全性を検証するのが販売承認の基本でしたが、検証的臨床試験がなくてもよいと世界で初めて公認する制度です。市販後の実地診療で得られるデータ(リアルワールドデータ)で有効性安全性が示されていればよいとします。しかし、実地診療データを承認の根拠に用い得るか、従来の検証的臨床試験と同様の結果が得られるかは、欧米でもまだ論議が始まったばかりです。この制度は、厚労省が掲げる「医薬品産業強化総合戦略」の「薬事規制改革等を通じたコスト削減と効率性向上」の具体化です。しかし、「迅速な承認・供給」と「安全性有効性の確保」とは逆方向の関係にあり、迅速を建前に強引な規制緩和を図ることは患者の安全を脅かし、薬害を招く恐れがあります。この制度はすでに課長通知で2017年10月に実施され、恒常化を求める製薬企業の要望で法制化します。この制度が初めて適用された抗がん剤ローブレナは、日本に次いで米国でも承認されましたが、米国FDAは仮承認のあと臨床試験での有効性安全性の検証を求めています。

2. 地域で患者が安心して医薬品を用いられる薬剤師・薬局のあり方

(1) 薬剤師に患者の服用期間を通じてのフォローアップを義務化
薬剤師にはいま「対物業務」から薬学的知見で患者の健康状態の改善そのものに向き合う「対人業務」への転換が求められています。改正では調剤時のみならず服用期間を通じての必要なフォローアップを薬剤師に義務付け、得た情報の医師などへの提供も努力義務となります。薬局開設者は薬剤師にそれらの義務を実施させるべきことも明記されます。薬物療法に対する薬剤師の責任が明確になり、患者の健康状態がどうなったのかが第1という医療者にとって当然のことが薬剤師職務においても中心に置かれます。

(2) 特定の機能を備える薬局の認証制度を導入 -健康サポート薬局の別扱いは疑問
改正では、患者が自身に適した薬局を主体的に選択するための方策として機能表示を可能にします。具体的には「他の医療提供施設と連携し、地域における薬剤等の適正な使用の推進及び効率的な提供に必要な機能を有する薬局」である「地域連携薬局」と、がんなどの疾病区分ごとの「専門医療機関連携薬局」の2つです。知事の認定制(1年ごとの更新)としてその質を確保するとしています。
ここで「健康サポート薬局」を併せてあげないのが疑問です。「健康サポート薬局」は現在、薬機法施行規則に「患者が継続して利用するために必要な機能及び個人の主体的な健康の保持増進への取組を積極的に支援する機能を有する薬局」として記載され、中学校区に最低1つの確保がめざされています。薬機法と施行規則とに分けるのでなく、薬機法そのものに併記して取り扱うのが国民にも分かりやすいと考えます。

3. 信頼確保のための法令遵守体制の整備

薬機法違反の事例が多発しており、医薬品などの製造・流通・販売に関わる許可業者の、役員による適切な監視・監督や法令遵守体制(ガバナンス体制)の構築がなされていないことが共通しています。法令遵守に責任を有する役員を法律上位置付けるとともに、許可業者の遵守事項として、1) 従業員に対して法令遵守の指針を示す、2) 体制を整備、3)必要な能力・経験を有する総括製造販売責任者・製造管理者の選任、4)具申された意見を尊重、必要な措置を講じる、などを定めます。薬局においても薬事に関する業務に責任を有する役員を明確化し、薬局開設者に同様の遵守事項を定めます。
厚労省は、薬機法改正とともにガバナンス強化のための行政措置の見直しを進めています。この中でとりわけ、2019年4月1日適用の行政指導指針「医療用医薬品販売情報提供活動ガイドライン」が、製薬企業とこれまで医薬品情報に関し製薬企業への依存が顕著であった医療機関・医学界に及ぼすインパクトが注目されています。このガイドラインは、「販売情報活動」を「能動的・受動的を問わず、医薬品製造販売業者等が、特定の医療用医薬品の名称又は有効性・安全性の認知の向上等による販売促進を期待して、当該医療用医薬品に関する情報を提供することをいい、医療用医薬品の効能・効果に係る疾患を啓発(一般人を対象とするものを含む。)することも含まれる」と広く定義しています。

4. 医薬品等行政評価・監視委員会 (第三者組織)の創設 -実効のある第三者監視・評価組織になるかこのままでは疑問

改正法案は「医薬品等の安全性の確保や危害の発生防止等に関する施策の実施状況を評価・監視する医薬品等行政評価・監視委員会の設置」を掲げています。この委員会は厚労省の「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」が2010年4月に取りまとめた「薬害再発防止のための医薬品行政等の見直しについて(最終提言)」を踏まえて設置されます。
懸案の具体化は良いことですが、最終提言の内容と比べるとこのままでは実効のある第三者組織になるか疑問があります。最終提言は第三者組織の特性として「独立性」「専門性」「機動性」の3つをあげています。そして「第三者組織の委員の人選手続、任命、事務局の設置部局、人材配置、予算の確保などにおいて、活動の独立性確保のために、既存の審議会などとは異なる新たな仕組みを作る必要」があるとし、委員の人選についても「公募制も含めて、透明性を確保し、新たな仕組みを作る必要がある」としています。
しかし、改正案では既存の審議会との違いが見えてきません。1) 条文に「(委員の選任・任命)」として「委員の選任については、薬害の発生を未然に防止するために独立して医薬品行政の監視・評価を行う見識を有する者を選任するに相応しい手続を定め、これに基づき選任し、厚生労働大臣が任命する」
などと定める、2) 委員について最終提言は「自ら審議事項を発議することができ」としているが、改正案にはこの条文がなく補う、3) 最終提言が組織の独立性・専門性・機動性確保のため重視している「(事務局)」の項目を設ける、などの必要があります。

薬剤師 寺岡章雄

(医問研ニュース読者の皆様へ:5月号の同じ2〜3頁の原稿が完成前のものでしたので、この文章に差し替えをおねがいいたします。)