咳,鼻水,発熱など風邪症候群に対して基本的に抗生物質を使用するかどうかは,医学的にはほぼ決着がついているのですが,実際的な診療ではなかなか難しい問題です.
10年ほど前に,風邪に抗生物質を使う方が良いという文章を出した日本小児科学会に,小児科医有志で抗議文を出した頃と比べて,世の中はずいぶん変わりました.日本感染症学会でさえ,風邪に抗生物質の使用は避けるべきだと言い出したのです.
その変化を反映した議論が「大阪保険医新聞」でなされ,医問研会員などから助言をいただいた「抗生物質投与が必要な病気と不要な風邪を区別できるのは医師」と題した私の文章も掲載されました.
まず,風邪と考えられる患者に,基本的に(=ほとんどの人に)抗生物質を使うのかどうかが重要です.そのためには,第一に,風邪そのものにどれほどの効 果があるのか,第二に合併症の予防にどれほどの効果があり,それぞれ副作用と比較してどうかが明らかにされる必要があります.
前者には,コクランライブラリーのArroll Bによるシステマティックレビューがあり,抗生物質を投与した群としない群では,「風邪症状の治癒ないし改善」「7日目の食欲」「のどの痛み」「仕事を休 んだ率」で有意差なしでした.8日目の「水ばな」と「黄色ばな」は抗生物質群が有意に良かったのですが,逆に副作用(下痢など)は抗生物質の方が有意に悪 かったという結果でした.前者と後者を同時にあつかったものに,イギリス医学雑誌のFaheyのシステマティックレビューがあり,「風邪の症状の改善」 「悪化ないし変化なし」「合併症ないし病気の進行」,副作用でいずれも有意差なしでした.これらのレビューに含まれていませんが,後者を中心に検討した RCTにGadomskiの研究があり,肺炎・気管支炎の合併症発生率に有意差なしでした.
以上より,基本的には風邪の症状軽減や合併症の予防に効果がないことが明らかです.まずこれらの研究に基づいた議論が必要です.その上でこそ,溶連菌を 疑えば「Coner 基準」などの症状,迅速検査や培養検査のどれが良いかとか,肺炎を疑った場合にレントゲンを撮るか血液検査をするのかなど,発展的な議論や調査研究が可能 です.
風邪症状に抗生物質を出すのなら,単なる風邪か,溶連菌か肺炎かなど悩まなくても良いのです.しかし,それなら医師の役割は何か?ということになりま す.また,風邪に抗生物質を投与しても,肺炎や中耳炎になる確率は変わらないのですから,安心できるわけでもありません.最後になりました が,Lancet2005;365:579に医療での抗生物質使用と耐性菌の出現率が比例するという調査がでましたのでご参照下さい.
(2005年5月)