前号で厚労省が医療制度構造改革試案に生活習慣国民運動の推進を盛り込んでいることを紹介しました。これは健康増進に消極的な者に対して医療費や保険料 の差別化をちらつかせ,「生活習慣病対策事業」に多くの国民を巻き込もうとするものです。その筆頭に挙げられるのが,メタボリックシンドロームの予防事業 です。
もともとメタボリックシンドロームのWHOによる定義は糖尿病予備軍に的を絞ったものでした。この定義に当てはまる人が何千万人もいるとは思えません。 ところが米国を中心に,もっと簡便な定義を提唱するグループが登場しました。この基準に従うと30-40歳代男性の30-40%が本シンドロームを有する ことになってしまうのです!そして本シンドロームが疑われたら片っ端からCTを勧めるというわけです。
すでに各地の大学病院や大きな国公立系病院,大手の健診センターなどに腹部CTによる内臓脂肪計測ツールが導入されています。今,日本のCT保有台数は世界一で,だぶつき気味です。ここで一挙に需要を拡大しようという医療機器メーカーの戦略が伺えます。
内臓脂肪が循環器疾患の発症と関連があるのは確かとしても,壮年男性の半数近くにCT検査を実施するというのは,どう考えても医療費の無題使いであり, 発がんリスクを増大させるマイナス面の大きい施策であることは明らかです。こんな横暴を決して許してはいけないと思います。
メタボリックシンドロームのWHOによる暫定的定義
1.糖尿病または境界領域の耐糖能異常またはインスリン抵抗性 2.その他のメタボリック・シンドロームの構成因子が2つ以上ある 1と2を同時に満たす場合を言う (Zimmet P et al; Nature 414:782-787,2001のFigure 2参照) *インスリン抵抗性:人工膵島を使ったクランプテストhyperinsulinemic euglycemic clampで研究。 住民一般のglucose uptakeの最低四分の一以下。 <構成因子> ・血圧上昇 ≧ 140/90 mmHg ・血漿中性脂肪上昇 ≧ 150 mg/dl および/またはHDLコレステロール低値 < 35 mg/dl (男) < 39 mg/dl (女) ・中心性肥満(ウエスト・ヒップ比 > 0.90 (男) > 0.85 (女) ) および/または BMI > 30 kg/m2 ・微量アルブミン尿(尿アルブミン排出率 ≧ 20 μg/min またはアルブミン:クレアチニン比 ≧ 30 mg/g) ・他に診断基準には入らない因子として,高尿酸血症,凝固性亢進, PAI-1(プラスミノーゲン活性化因子抑制物質-1)高値などがある。
参考;http://www006.upp.so-net.ne.jp/koh/met.html
日本のメタボリックシンドローム診断基準
内臓脂肪蓄積:ウエスト周囲径 男性 ≧ 85 cm 女性 ≧ 90 cm 可能な限りCTスキャンなどで内臓脂肪量測定を行うことが望ましい。 内臓脂肪量 男女とも ≧ 100 cm2 上記に加え,以下のうち2項目以上 脂質異常 高トリグリセリド血症 ≧ 150 mg/dL and/or 低HDLコレステロール血症 < 40 mg/dL 高血圧 ≧ 130 and/or ≧ 85 mmHg 空腹時血糖 ≧ 110 mg/dL
(2006年3月)