がんの診断と治療についての,包括的な解説書がでました。といっても,いわゆる専門書ではなく,一般向けの新書本です。新書本ですが,取り上げている内容 は最新の薬や手術法,放射線療法から診断技術,さらに緩和の問題まで,盛りだくさんです。しかも,以前書かれた抗コレステロール薬の本と同様,極めて科学 的です。科学的と言うことは単に,早期発見と抗ガン剤でどれだけ延命したかというだけでなく,その「延命」の意味を科学的に考えています。
新聞には,がんの治療が向上したことが多数掲載されており,我々医療従事者も,「早期発見,早期治療」で治癒率がずいぶん良くなったのではないかと考え てさせられています。この本の冒頭では,がん全体,肺ガン,子宮径がん,胃ガンについて,40年間ほとんど治癒率の向上が見られないことを簡潔に示してい ます。人口当りのがんになる割合と人口当のがんで亡くなる死亡率がほぼ平行している統計を示し,がんになる人が増えた分,がんで亡くなる人も増えている, すなわち治癒率はほとんど変わっていないのです。多くのがんの「5年生存率」が向上していることと矛盾していると思われますが,がんによる死亡率が減って いないのですから,治癒率が向上したとは言えないのです。
診断技術の発達によって,「早期がん」が発見されるようになり,本来治療しなくても良い「がん」を治療して,「5年生存率」が向上し,見かけ上の治癒率 の向上となっていると指摘しています。この典型例は,神経芽細胞腫です。スクリーニング検査をして早期発見するようになるや「生存率」は飛躍的に良くなり ましたが,このがんで死亡する子どもは減らなかったのです。治療しなくても自然に消失ものを多数「早期発見,早期治療」していたわけです。この基本的視点 が,がん治療を科学的に考える上で不可欠だとしています。
以下,この本では,抗ガン剤の効果のほど,がん手術の効果が,ちまたや医療界で考えられているほどの効果はなく,極めて限定的であることを解説していま す。その上で,世界の医療界では常識となっている放射線治療が日本では軽視されていることを指摘しています。また,免疫療法と代替療法の効果がないこと を,これらの療法の権威自身のデータなどで示しています。その他,がん発見の魔法の機械の様に描かれているPETの弱点や,マンモグラフィーに効果がない ことにも触れています。
最後に,緩和にも言及しており,モルヒネの使用量が日本では極端に少なく,それだけがん患者が苦痛にさいなまれていることが理解できます。
がんに関係する方々だけではなく,全ての医療従事者にも読んでもらいたい本です。
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