戦争国家づくりの経済安保法、セキュリティ・クリアランスの発動を許さず廃止へ(NEWS No.586 p04)

軍事転用可能な民生技術の情報獲得を主眼とする経済安保法

経済安全保障上の機密情報を扱う民間人らを身辺調査するセキュリティ・クリアランス(適性評価)制度の導入を柱とした重要経済安保情報保護法(以下、経済安保法)が5月10日、成立した。公布から1年以内に施行される。政府は今後、特定秘密保護法の適用対象も見直し、経済分野に拡大する。

経済安保法やセキュリティティ・クリアランスの意義について、日本経団連は、「経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス制度等に関する提言」(2024年2月20日)の中で、以下のように述べている(要旨)。

「国家の安全保障の対象は外交・防衛分野のみならず、経済・技術分野にも広がっている。軍事転用可能な民生技術の獲得競争が激化するとともに、国家を背景としたサイバー攻撃の頻度が増している。わが国として、経済・技術分野においても保全すべき情報を指定し、厳格に管理する必要があり、情報保全・管理に責任を負う政府と、経済・技術分野において主要な役割を担う企業との間の連携、情報共有が不可欠である。わが国においては特定秘密保護法によって、防衛、外交、特定有害活動防止、テロリズム防止の4分野の情報を対象としたセキュリティ・クリアランス制度として特定秘密制度が規定されており、経済・技術分野の情報は対象となっているとしても、上記4分野に係るものに限られている。また、セキュリティ・クリアランスは、国際共同研究開発や他国の政府調達に参加する際に求められることがあるが、わが国のセキュリティ・クリアランス制度では経済・技術分野の情報は限定的にしか対象とされていないため、わが国企業はそれらへの参加が叶わない、あるいは共有される情報が限定されるなど、わが国が戦略的優位性・不可欠性を維持・確保する機会を逸しているおそれがある。経団連は、経済安全保障分野における、実効性のあるセキュリティ・クリアランス制度の創設を求めてきた。

重要情報を扱う人の身辺調査をするセキュリティ・クリアランスだが、重要情報の範囲が無制限

経済安保法は特定秘密保護法の経済安保版とも言えるが、軍事転用可能な民生技術の情報管理を経済界は狙っていたのだ。経済安保法は、半導体など重要物資の供給網に関する脆弱性や重要インフラなどに関して国が保有する情報のうち、流出すると安全保障に支障を与える恐れがあるものを「要経済安保情報」に指定。重要情報を扱う人の身辺調査をする「セキュリティ・クリアランス」制度を導入する。情報漏洩には5年以下の拘禁刑などを科す。さらに機密性が高いと判断した情報は、漏洩時の罰則がより重い特定秘密保護法の対象とする。今後、特定秘密保護法の運用基準を改定する。防衛や外交など4分野に限っていた特定秘密を事実上、経済分野に拡大する。どんな情報が指定対象になるか、評価結果による不利益な取り扱いをどう防ぐかについては、成立後に作る運用基準で詳細を定めるとした。しかし、秘密保護法では、経済安保に関連する情報を特定秘密とすることは明示されていないもかかわらず、経済安保法は、経済安保に関連した情報の中には、重要経済安保情報以外に秘密保護法上の特定秘密に該当するものがあるとの前提に立っている。秘密保護法を「改正」しないまま、「秘密保護法の運用基準」の見直し(閣議決定により、秘密保護法上の特定秘密に経済安保に関連した情報を新たに含める)をしようとしている。また、厳罰を科すにもかかわらず、処罰の対象となる重要経済安保情報の範囲が不明確で、秘密指定解除仕の組みも欠いており、秘密は膨れ上がる一方だ。

広範な民間人が適性評価の対象になり、プライバシーの侵害と監視社会が現実となる

「セキュリティ・クリアランス」制度では、範囲の不明な「重要経済安保情報」を扱うことのできる「適合事業者」を指定して、広範なプライバシーに亘る事項を含む「適性評価」の対象にする。特定秘密保護法の適性評価は主に公務員が対象だったが、経済安保法では広範な民間人が対象となることが想定される。一般の民間企業で働いていた、国家機密と縁がないはずだった人たちが突然、適性評価の対象とされうる。適正評価そのものは各行政機関が実施するが、評価のための調査はほぼ一元的に内閣総理大臣が実施する。調査結果にもとづき、関係省庁が適性評価をし、認定した対象者にのみ情報を提供する。特定秘密を扱える有資格者は97%が公務員だが、今回は経済分野のため、民間の割合が高まる。調査項目は①家族や同居人の氏名、生年月日、国籍、住所、②犯罪及び懲戒の経歴に関する事項、③情報の取り扱いに係る非違の経歴に関する事項、④薬物の乱用及び影響に関する事項、⑤精神疾患に関する事項、⑥飲酒についての節度に関する事項、⑦信用状態その他の経済的な状況に関する事項の7項目。きわめて繊 細な個人情報が調べられ、家族の情報も対象とされる。調査には事前同意が必要だが、家族の同意は不要だ。所属組織を通じて調査対象者に選ばれるため断りづらく、事実上の強制になる恐れがある。調査を拒否した場合に、当該研究開発等の最前線から外されたり、企業等の方針に反するものとして人事考課・給与査定等で不利益を受けたりする可能性は否定できない。

適性評価の対象とされる者は少なくとも数十万人と推定される。内閣総理大臣のもとに設けられる新たな情報機関に適性評価対象者の膨大な個人情報が蓄積される。恣意的に運用されれば全国民が調査可能であるという国民監視システムが構築されることになる。適切に管理されているかどうかを監視する独立した第三者機関はない。

民主主義が破壊され、軍産学の軍事国家化が進み、産業の自由な発展が阻害され、創造的研究も衰退する。

経済安保法の成立によって、経済分野や研究開発分野など、広範な分野が秘密指定される。民主主義の前提となる情報が得られないことになる。経済の国家統制も強化され、軍産学の軍事国家化が進むことになり、産業の自由な発展が阻害される。科学者・技術者の軍事動員や、大学・研究機関の国家統制によって、基礎的科学、創造的研究が衰退していくおそれもある。

人権を制約し、経済活動や研究活動、医療での治療関係を侵害する経済安保法、重要情報保護法制の廃止を!

外為法以降、特定秘密保護法などの重要情報の保護に関する制度は、一方的に人権を制約する制度ばかりがつくられてきた。「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」(ツワネ原則)や日本国憲法にも違反する。ツワネ原則では、秘密指定してはならない情報が列挙され、市民が秘密指定を解除するための手続きの法定、秘密指定等に対する政府から独立した監視機関、内部告発者保護、公務員以外の者の刑事訴追の制限など、重要な制度的保障が記載されている。日本は実効的な秘密指定解除の仕組みも欠いており、秘密は膨れ上がる一方だ。

憲法論においては、精神的自由を経済的自由より下位に置く考えはない。経済的にも、規制によって産業活動や学術活動も正常な競争の下で発展することはなく、大川原化工機冤罪事件のような捜査権の濫用や企業の経済活動、研究活動の萎縮を招きかねない。日本の国際競争力はますます劣化する。医療分野においては、セキュリティ・クリアランスのための調査項目に関して、情報提供を求められる可能性があるが、非常に繊細な個人情報であり、かつ治療関係構築の前提である信頼形成を破壊しかねない。

※大川原化工機冤罪事件:2020年3月、警視庁公安部は「大川原化工機」の大川原正明社長ら幹部3人を「兵器転用できる噴霧乾燥機を中国へ不正輸出した」との外為法違反容疑で逮捕。だが、3人を起訴した東京地検は初公判直前の21年7月、「法規制に該当することの立証が困難」と突然起訴を取り消し、東京地裁は公訴を棄却。刑事裁判は終了。一貫して容疑を否認した大川原社長と島田順司元取締役の勾留は21年2月まで約11カ月間続いた。途中で体調を崩し胃がんと判明した相嶋静夫元顧問は勾留執行停止されたが、同年2月に死去。不正輸出報道で同社は存亡の危機に陥った。同年9月、大川原社長や相嶋氏の遺族が東京都(警視庁)と国(東京地検)に対し「逮捕や起訴は違法」として総額約5億6500万円の損害賠償請求を東京地裁に提訴。2023年12月27日、東京地裁は国と東京都に約1億6000万円の賠償を命じた。国と東京都は控訴期限の2024年1月10日、午後4時台になって控訴。大川原化工機の大川原正明社長ら原告も同日午後5時に控訴した。

経済安保法の本質は、日本経済の国家統制を強化し、産軍学共同の軍事国家化を進め、経済分野でも戦争ができる国づくりを進めることにある。経済活動や研究、臨床なども影響下に置かれる。経済活動や研究活動、医療現場への軍事介入に反対し、セキュリティ・クリアランスを発動させず、経済安保法にいたる重要情報保護法制を廃止しなければならない。

精神科医 梅田

参考資料:

https://www.tokyo-np.co.jp/article/326405

経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス制度等に関する提言https://www.keidanren.or.jp/policy/2024/012_honbun.html

海渡雄一 秘密保護法案 危険な人権侵害の本質がますます明らかに 週刊金曜日2024年4月19日号、p14-17

髙山佳奈子 「セキュリティ・クリアランス」制度の何が問題か 世界 2024年6月号p55-63

経済安保版秘密保護法案に反対を!  2024年2月 秘密保護法対策弁護団