いちどくを この本『ガザとは何か~パレスチナを知るための緊急講義』(NEWS No.589 p08)

『ガザとは何か~パレスチナを知るための緊急講義』
岡 真理  著
大和書房 1400円+税
2023年12月刊行最近のテレビ報道で、高さ6mと伝わる外壁に囲まれたガザの模型地図が一瞬と言えるぐらいの短時間映し出されていました。「天井のない世界最大の野外監獄」と評されていますが、「今の状況は監獄どころではない、絶滅収容所です」と著者は伝えています。東京23区の6割ほどの広さの中で約10カ月間に4万人を超える死者が生み出され、今もなお増え続けている事態は何故か?私たちはどうしたらいいのか?に応える書物です。

‘23年10月7日からの事態を「日本だけでなく、文明国を名乗る主流の企業メディアは、この問題の、ごくごく限られた一部分しか報じていない」「この問題の根本はいったい何なのか、といういちばん肝心な部分がまったく語られていない」「もう一度そこに立ち返る」ために、市民・学生・教員などの人々によって、著者の講演が緊急に企画されました。

*10月20日「緊急学習会 ガザとはなにか 実行委員会」主催、京都大学にて。

*10月23日「<パレスチナ>を生きる人々を想う学生若者有志の会」主催、早稲田大学にて

本書は「講演をもとに編集、再構成したもの」で「第1部 ガザとは何か、第2部 ガザ 人間の恥としての」との題目です。巻頭には「パレスチナ問題 関連年表」と地図 (パレスチナ全図、ガザ地区)の掲載があり、読者の理解を助けます。著者はアラビア語科の在学中にパレスチナ問題、アラブ文学に出会い、エジプト・カイロ大学に留学。在モロッコ日本国大使館専門調査員、京都大学教授を経て現職(早稲田大学教授、専門は現代アラブ文学、パレスチナ問題)。

講演の「四つの要点」

①現在起きていることはジェノサイド(大量殺戮)に他ならない

②主要メディアは、今日的、中期的、長期的な歴史的文脈を捨象した報道をすることによって、今起きているジェノサイドに加担している

③報道で捨象されている歴史的文脈すなわちイスラエルという国家が入植者による植民地国家であり、パレスチナ人に対するアパルトヘイト国家(特定の人種の至上主義に基づく、人種差別を基盤とする国家)であるという事実

④ロシアによるウクライナ侵攻のように、米国にとって都合のいい場合は国際法や人権が声高に主張され、メディアもキャンペーンを張り、アメリカにとって都合の悪い場合は、国際法も人権もまったく顧みられない。何十年にもわたる、こうした国際社会の二重基準があり、それを私たちが許してきてしまっているということ、それ自体を問いたい

以上の「要点」の根拠を詳述する講演録です。

1300年近くパレスチナと呼ばれた地域の広さは日本の九州に及ばずとも、世界地図を見ると様々な人種・民族からなる人々の多様性を有する共存の場でもあったのではと感じます。

第一次世界大戦後、このパレスチナに「ユダヤ人の民族郷土」を建設する運動「シオニズム」がヨーロッパから起こります。そして、第二次世界大戦末期に始まるソ連とアメリカの「冷たい戦争」の政治的思惑の中で、1947年11月国連総会は「ユダヤ人の国家」建設のための「パレスチナ分割案」を決議。しかし分割案を検討していた国連のアドホック委員会は「パレスチナ分割は、国連憲章違反であり法的に違法、アラブ国家は経済的に持続不可能、政治的には不正」と結論していました。

決議後「民族浄化」と表されるパレスチナ人に対する暴力、武力による追い出し・集団虐殺 (ナクバ)が始まり、翌’48年イスラエル建国宣言。

同年の国連総会では「世界人権宣言」と決議194号の採択があり、同決議は「イスラエル建国によって難民となったパレスチナ人は、即刻自分たちの故郷に帰る権利がある、帰還を希望しない難民に対しては、イスラエルは彼らが自分たちの故郷に残してきた財産を補償するように」との内容でした。

パレスチナ人の人権を守る決議は履行されず、1967年第三次中東戦争でイスラエルがパレスチナ全土を占領して以来、ガザ地区・ヨルダン川西岸地区ともに50年以上の占領下にあり、2007年以降は冒頭に述べた外壁により完全封鎖。「袋のねずみ状態にされて、大規模な軍事攻撃」「ナクバは過去の出来事ではなく、今に至るまで続く現在進行形の事態」と書かれている。

「占領」「完全封鎖」の中に置かれた人間はどうなるでしょうか?「生きながらの死」を強要される中で「人間性」はどうなるでしょうか?

ユダヤ人が犠牲になった「ホロコースト」の責任と「シオニズム」運動以来のパレスチナ人の犠牲・・・「人間性の破壊をもたらすもの」を学ぶためにも読んで頂きたい書物です。

小児科医 伊集院真知子