『原発・核燃と地域社会-弘前大学の核燃講義』
福田進治・宮永崇史 編
北方新社 1600円+税
2024年12月刊行
「六ヶ所村の核燃料サイクル施設」をご存知の方も多いのでは? 1993年着工するも完成予定の延期を繰り返し、いまだに未完成、稼働していない事で周知の名称になったのでは?「当初,7600億円と試算された建設費は,2023年現在で3兆2100億円」とのこと。
この施設は再処理工場、MOX燃料工場、ウラン濃縮工場、高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター、低レベル放射性廃棄物埋設センターからなり、青森県には他に、大間原発・東通原発・むつ市の使用済み核燃料中間貯蔵施設があり、「このような大規模な原子力施設が集中的に立地する地域は,国内では青森県の下北半島のみ」とのこと。
弘前大学(青森県弘前市)には、福島第一原発事故前の2010年度より、有志の教員による「青森県の核燃料サイクル施設に関わる問題を考える講義」が開催されていました。この講義内容をまとめた、2013年発行の「環境・地域・エネルギーと原子力開発―青森県の未来を考えるー(弘前大学出版会)」を「大幅に拡充・改訂」されたのが本書(2024年12月発行)です。
本書の課題を、執筆者代表の福田進治氏は以下のようにまとめています。
*原発とは何なのか、核燃料サイクル施設とは何なのか、安全な施設なのか、必要な施設なのかを知ること
*どうして青森県に多くの原子力施設が立地しているのか、青森県はどのような利益を獲得しているのか、日本の原子力政策はどのような問題をはらんでいるのかを考えること
*再生可能エネルギー問題を考えること
書名に「地域社会」とあるように、私達の生活全般に関わる原子力問題を自然科学・社会科学の分野から、多岐にわたる重要な内容を提起されています。
(序章) 青森県原子力施設の歴史と現状の解説。
(第1章) 原発と核燃料サイクルの概要と問題点。
(第2章) 放射線や原子力に関する基礎知識。
(第3章) 論争的な内部被曝をめぐる問題。
(第4章) 下北半島の地質環境の問題。
(第5章)青森県が獲得してきた経済的利益の問題。
(第6章) 日本の原子力政策の歴史をめぐる問題。
(第7章)日本の原子力政策と民主主義の関係。
(第8章) 青森県における再生可能エネルギー事業の可能性の検討。
(終章) 福島第一原発事故後の情勢を振り返り、青森県の未来を展望。
第3章執筆者は、以前医問研ニュースにも寄稿頂いた内科医の遠藤順子氏です。
遠藤氏が所属されていた複数の放射線関係の学会では、福島第一原発事故後、「原発事故による人々の被曝は、大したことはないという内容ばかりであり、さらには、不安を煽っているのは、放射線のことをよく知らない一般の医師であるという発言までなされ」ており、「自分の考え方とのあまりの違いに驚愕」され、「それ以来、なぜ放射線被曝評価が分かれているのかについて調べることが、筆者のライフワークとなった」と書かれています。2013年版に比して格段に多い参考文献の提示が著者の熱心な調査活動を示しています。参考文献の中には、医問研会員の英語論文や著作も含まれていました。
原発事故による健康被害や放射線による生物への影響に関する「見解の相違」が生じる理由について、著者は2点挙げています。
#1 1950年設立の国際放射線防護委員会(ICRP)は’52年には内部被曝に関する審議を打ち切り。ICRPの防護基準の基礎データの一つは原爆障害調査委員会(ABCC)が広島・長崎の被爆者から集めたデータであるが、「黒い雨」の残留放射線・大気中の放射性微粒子による内部被曝は無視。
日本の放射線医学総合研究所(放医研)と人事交流を行っている’55年発足の国連科学委員会(UNSCEAR)はABCCに資金提供をしたアメリカ原子力委員会の影響下で設立。放医研と共に「福島原発事故報告書」を作成。国際原子力機関(IAEA)は、各国の核兵器製造の監視と原子力発電の推進が主な仕事。’59年世界保健機構(WHO)は「IAEAの許可なく放射線被害の調査・研究およびその報告書の公表をしない」と約束。そのためIAEAは、WHOによる放射線の人体影響に関する調査・研究への統制を続けることが可能。その一例として、湾岸戦争で使用された劣化ウラン弾による内部被曝調査報告書の公表をWHO自身が差し止め。
これらの状況下で出される「防護基準」、2005年IAEAとWHO提出の「チェルノブイリ原発事故による健康被害に関する報告書」を信用するかどうかという点。
#2 原子力施設内で働いてきた被曝労働者と、核実験や劣化ウラン弾などによって被曝した兵士や周辺住民の健康被害の実態にきちんと眼を向けているかどうかという点。
<あるべき姿勢を学ぶためにお勧めします。>
(小児科医 伊集院)