乳児に保湿剤を塗ってもアトピー性皮膚炎を予防できない ―リスクなし乳児では不要・有害、ありでも予防は不可(NEWS No.596 p04)

当ニュース2022年1月号に、健診などで受診される健康な肌の乳児へアトピー性皮膚炎(以下AD)予防の保湿剤を塗っているとの乳児がほとんどなので不思議に思って調べ、その予防効果はないと書きました。

今年一月号の医師会雑誌の特集がADで、そこにこの話題が載っていました(堀向健太「アトピー性皮膚炎の保湿スキンケア」日医雑誌2025;153:1179-82)。著者は日本での乳児早期への保湿剤塗布のきっかけの一つになったと考えられる論文(Horimukai K,et al:J Allergy Clin Immnunol 2014;134:824-830. e6.)の筆頭著者堀向氏です。

堀向氏は、「ADの発症予防のための保湿剤定期塗布を検討した主なメタアナリシス」を一覧表にしています。その結論を「ハイリスク群への早期介入の重要性」だとしています。

しかし、提示された6つのレビューの中身を検討したところ、この結論は重要な点をごまかしていることが分かりました。

<「ハイリスク」とは>

まず、「ハイリスク」の定義ですが、多くの元文献では、’at-high risk’を両親・兄弟にアレルギー疾患がある、としています。文献により、アレルギー疾患の幅は違います。また、trans-epidermal water loss(TEWL)という検査による「ハイリスク」診断が提唱されていますが、これはまだ一般化していないようです。

なお、コクランレビューでは、ハイリスクの定義が研究間で雑多だったとしており、ハイリスク患者だけの層別解析はしていません。(Kelleher 2022)

【ハイリスクでない乳児に保湿剤は不要】

ごまかしの第一は、ハイリスクでない乳児に対しては「効果がない」とのレビュー結果ばかりで、コクランレビューで「おそらく皮膚感染などの有害事象が増加する」(Kelleherら)ともされています。したがって、日本でひろがっている、ハイリスクでない乳児への予防的保湿剤使用は止めるべきだ、ということが第一の結論になるはずです。日々、無用有害な保湿剤が莫大な人数の乳児に塗られている事態をとめるべきと思います。しかし、著者はこのことには目をつむって、何も書いていません。

【ハイリスク児でもADを予防はできない】

確かに、堀向氏が作ったレビューの一覧表では、Priyadashi M 2022とZhong Y 2022のサブグループ解析とLiang J 2023は、リスク要因のある乳児への保湿は効果があるとされています。3レビューの堀向氏の書いた「結論」には、それぞれ「介入は『リスクがある』新生児のADリスクをおそらく下げる」、「ハイリスクな人口において、予防的な保湿剤使用に有意な利益」、「保湿剤の早期使用は、ハイリスクな乳児におけるAD発症の予防に効果的な戦略」とまとめています。

ところが、同氏が上げた先のZhongらの元レビューを読みますと、ハイリスク乳児のサブグループ解析で以下のように検討しています。すると、図のように、予防的塗布を止めて判定までの間隔があると効果はなかった(図A間隔ありグループ)のです。逆に止めてすぐに効果を判定すると効果あり(図B「間隔なし」グループ)でした。(Zhong)

下図がA:「間隔あり」グループのフォレスト図で大きい菱形は3研究を統合したもので、効果なしです。

下の図は、上から5本のバーは「間隔なし」各研究結果で、その下の菱形はそれらを合わせた結果、一番下の菱形はハイリスク乳児の全ての効果を合わせた結果です。
この意味は、保湿剤を判定時近くまで塗り続けると保湿群ではADは少ないが、塗布を止めてしばらくすると塗布なし群とほぼ同じ比率で発症するわけです。ですから、ハイリスク乳児でも、保湿剤は将来のAD発病を「予防」するのではなく、発症を抑えているだけと考えられます。ZhongらはADを予防するよりも遅らせると推定する」としています。他方で、保湿剤がAD症状を軽減することは別のレビューで証明されていますので、発病初期に保湿剤での治療を開始すればこの程度のADを抑制できるかも知れません。予防というより治療をすればよいことになります。

また、このレビューでのハイリスク乳児への予防的保湿剤なしでは29%がADを発症、保湿剤ありでは21%が発症しています。その差は、約8%で12-13人に1人に効果あるが、約92%の乳児には利益がありません。

以上より、ハイリスクでもADの症状が現れてから早期に保湿剤を塗布すれば、膨大な人数への無用の保湿剤塗布が防げるのではないか、との結論になります。

【たった160人の一つの研究で膨大なハイリスク児に保湿をするのは問題】

しかし、堀向氏は最近のChaoimh CNらの論文を紹介して、ハイリスク児への保湿剤塗布「早期」開始を強調しています。この報告はハイリスク患者に生後5日目から8週まで保湿剤を使って、生後6か月と12カ月で判定したものです。生後6か月時の判定ではADは、対照群35.0%、保湿群18.3%(差16.7%)、生後12か月時の判定では、同対照群38.2%、保湿群20.5%、差17.7%でした。これまでの研究と比較して、7週間程度の短期間の保湿で、12か月後で17.7%の差、5.6人に1人のAD発生予防の効果があったことになります。

しかし、この結果は、生後1週以内の早期に保湿を開始した場合、1-3年後のAD出現率が6研究中4(人数で70%)のハイリスを含むメタ分析結果が「有意差なし」だったとのコクランレビュー結果と矛盾します。(Kelleher、「Analysis 1.12.」)

また、この研究はジョンソン・エンド・ジョンソンの製品を使い、同社の基金が入ったもので、どの程度信頼できるか、かなり疑問です。たとえ、この研究を信じるとしても、少なくとも保湿は生後8週までで止めてもよいことが重要になります。

【結論】

現在までの研究結果から、保湿剤は「健康な肌のリスク要因なし=ハイリスクでない」と考えられる乳児はもちろん、「ハイリスク児」と考えられる乳児でも、「AD発症早期に使用」するのが妥当だと思われます。この方針は「ハイリスク」の定義があいまいであることも考慮すると一層妥当性が高まるかと考えますが、いかがでしょうか?

<日医雑誌に紹介されたレビュー論文>

①Kelleher MM et al. Clin Exp Allergy.2021;51: 402-418

②Kelleher MM at al. https://doi.org/10.1002/14651858.CD013534.pub3

③Zhong Y et al. Allergy. 2021;00:1-15
Liang J et al. J of European Academi of Dermatology and Venereology 2022;37:501-510

④Xu Y et al. Pediatr Dermatol2023;40:841-850
&Priyadarshi M et al. Glob Health 2022;12:12002

⑤Carol Ní Chaoimh et al. Allergy. 2023;78:984–994.