シリーズ企画「臨床薬理論文を批判的に読む」
第87回 (2025.6.1) 報告
アトピー性皮膚炎の局所副腎皮質ステロイド療養
このテーマを選んだのは、実地臨床における小児や成人・高齢者のアトピー性皮膚炎に対する副腎皮質ステロイド療養については、その方法・妥当性について必ずしも見解が一致していない状況と思われたからである。それでPubMed検索から選んだ専門誌の比較的最近のシステマティックレビュー ( Skin Health Dis. 2023, The long-term safety of topical corticosteroids in atopic dermatitis : A systematic review , 「アトピー性皮膚炎における局所副腎皮質ステロイド療養の長期安全性: システマティックレビュー」、フリーアクセス文献)を題材にこの問題を深めたい、との意図であった。
しかし、当日参加くださった (一社)医薬ビジランスセンター ( 通称: 薬のチェック ) 浜六郎氏から、このシステマティックレビューはステロイド連用で薬物依存を生じ離脱( withdrawal ) が困難になるなどの深刻な問題への記載が薄く、実地臨床の課題に応えるものとなっていないとの指摘があった。そして、比較的最近の「薬のチェック」誌116号 ( 2024年11月 ) が抗体医薬のデュピルマブ ( 商品名デュピクセント皮下注、サノフィ株式会社 ) について、「難治性アトピー皮膚炎の症状改善に有用」の評価をポジティブに打ち出したことを紹介いただいた。
ただ、比較的最近のシステマティックレビューを題材にこの問題を深めたいとの意図そのものは、当日の別の参加者から、日常診療で直面する切実な課題であり、時宜を得ておりよかったのではとの発言があった。
なお、例会当日取り上げたシステマティックレビューの筆頭研究者は英国ノッチンガム医科大学エビデンスに基づく皮膚病学センターの Jane Harvey氏である。この論文の結論は「全体として、一連のエビデンスは、湿疹の管理に間欠的に使用されるTCS (topical corticosteroids, 局所使用副腎皮質ステロイド ) は最長5年間にわたり安全であることをある程度保証するものであった。TCS使用の生涯にわたる影響に関する理解には依然としてギャップがあり、関連するすべての安全性アウトカムを扱い、より長期の追跡調査を含む、より質の高い研究が必要である」となっている。また、抄録の結論部分は「本レビューは、ステロイド外用剤を最長5年間断続的に使用した場合の成長と皮膚の菲薄 ( ひはく ) 化に関する、ある程度安心できるデータを提供しているが、多くの知見のギャップが残っている」である。
浜六郎氏からの情報提供があった後PMDAのウェブサイトで「デュピクセント」を検索して知ったのであるが、サノフィ株式会社はデュピクセント皮下300mgを2017 ( 平成29 ) 年2月に新有効成分含有医薬品の申請区分で申請し承認されており、効能又は効果は「既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎」であった。用法及び用量は「通常、成人にはデュピルマブ ( 遺伝子組換え ) として初回に600mg を皮下投与し、その後は1回300mg を2週間隔で皮下投与する」であった。承認条件は、「医薬品リスク管理計画を策定の上、適切に実施すること」であった。
薬のチェック 116号 ( 2024年11月) New Products デュピルマブ ( 商品名デュピクセント皮下注) ―難治性のアトピー性皮膚炎の症状改善に有用 ( 記事の紹介 )
アトピー性皮膚炎の中には、従来の製剤でコントロールが困難な場合や、化学物質過敏症などを合併して、日常生活が困難になっている人がいる。ステロイド外用剤は依存が生じて離脱が困難となりやすく、タクロリムス ( プロトピック軟膏) は免疫抑制のため感染や発がんの恐れがあり、バリシチニブ ( オルミエント) などJAK阻害剤は効果が続かない。本誌がアトピー性皮膚炎の治療に勧める薬剤が無いようであった。
今回検討したデュピルマブは、アレルギーや組織修復のための炎症にかかわる体内物質の働きを弱め、効果が長期間持続しており、中止後にリバウンドで悪化するなどの再燃がほとんどないことが特徴的である。主な害作用は最も頻度が高いのが眼科的な疾患である。アナフィラキシーは5621人に1人であった。しかし何らかの物質へのアナフィラキシーを誘発する可能性が在り、監視が必要である。発がん性については、増加と減少との両方向に働く。皮膚リンパ腫は増えるが、全部位のがんは減る傾向にあった。この点は、他の免疫抑制剤ががん全般を増やすことと異なる。
デュピルマブについて理解を深めるためには、免疫・炎症反応には大まかに2つのタイプがあることを理解する必要がある。タイプ1は、細胞内の異物 ( ウイルス・細菌・毒素 ) や腫瘍を排除する反応である。一方タイプ2は、細胞外の異物である寄生虫やアレルゲンを排除し、代謝の恒常性を保ち、組織損傷からの修復を抑制する。アトピー性皮膚炎では組織損傷が大きく、その修復のために過剰な炎症が持続する。タイプ2の免疫・炎症反応では、インターロイキン ( IL )-4 や IL-13などのサイトカインが過剰に放出されて強い炎症反応を皮膚に起こしている。デュピルマブは IL-4受容体 ( IL-4R ) を構成するα部分に対するモノクローナル抗体で、IL-4 とIL-13の作用の拮抗剤として作用し、過剰な皮膚の炎症反応を抑制するため、かゆみや発赤などの症状を軽減する。IL-4 とIL-13の受容体は、その構成要素としてどちらも IL-4Rαを有するため、デュピルマブはIL-4受容体だけでなく、IL-13受容体の阻害剤としても働く。
デュピルマブの皮下注射による難治のアトピー性皮膚炎の治療では、2週間に1回の注射で,軽度の害反応はあるものの、重篤な皮膚の症状が継続的に改善することが確認されている。アナフィラキシー反応などの注意をしたうえで、自然治癒が困難、あるいは既存の薬剤でコントロールが不良であった難治性のアトピー性皮膚炎への使用を本誌は推奨する。
なお、直近の「薬のチェック」119号 ( 2025年5月 ) は、New Products でデュピルマブが難治性の気管支喘息の症状改善に有用なことをまとめるとともに、FORUMで、デュピルマブの安全性についての読者からの疑問や質問についてのコミュニケーション記事を掲載しており、ワセリンやヒルロイド軟膏の安全性問題も触れられている。
附 薬機法改正問題のその後
薬機法改正法案の可決成立と衆参両院の厚生労働委員会審議での「付帯決議」
これまで取り上げてきた、1) 早期承認制度の拡大と2)リアルワールドデータのみでの申請可能の2つを、ともに可能とする薬機法改正問題の進展について報告した。
2025年4月16日の衆議院厚生労働委員会で薬機法改正法案 が与野党の賛成多数で可決した。自民、公明、立民、維新、国民の各党が賛成。れいわ、共産が反対した。採決の後に付帯決議を採択した。付帯決議は、自民,立民、維新、国民、公明の5派共同提案によるものである。( ミクスonline, 2025.4.17 )
衆議院ウェブサイトの委員会ニュースによれば、付帯決議は19項目で、そのうち早期承認制度の拡大とリアルワールドデータ利活用に直接関係するのは、次にあげる4から10の7項目である。なお、付帯決議の形式はいずれも「政府は、本法の施行にあたり、次の事項について適切な措置を講ずるべきである」である。
「 四:条件付き承認にあたっては、承認後に行う検証的臨床試験の内容および臨床試験成績に関する資料を提出する期限等を可能な限り具体的に定め、正当な理由なく期限内に検証的臨床試験によって有効性及び安全性が確認できなかった場合には承認取り消し権限を適切に行使すること。
五:本改正は、条件付き承認制度を米国の迅速承認制度と同様の制度とすることを目指すとされているが、米国の迅速承認制度によって承認された抗がん剤には、承認から五年以内に延命効果やQOL ( 生活の質 ) の改善を示せなかったものがあると指摘されていることを教訓に、条件付き承認制度の適切な運用を図ること。
六:条件付き承認制度によって承認された医薬品等については、市販後の安全対策を強化することが必要であり、承認に当たっては、強化する市販後安全対策の内容を具体的に定めること。また、
安全対策には、医薬品副作用被害救済制度における情報も活かすこと。
七:医薬品の添付文書に、条件付き承認制度によって承認された医薬品であることや承認の条件を明記し、患者にも十分な情報提供を行うこと。
八:条件付き承認制度によって承認された医薬品等により副作用被害を受けた場合は、医薬品副作用被害救済制度によって迅速な救済を行うとともに、医薬品副作用被害救済制度の対象となっていない抗がん剤の扱いについては引き続き検討していくこと。
九:医薬品等の有効性及び安全性の評価において最も信頼性の高い方法は、比較臨床試験であること、薬事承認申請に際して添付する資料を定めた一般規定である本改正後の医薬品医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第十四条第三項等の「品質、有効性及び安全性に関する資料として厚生労働省令で定める資料」は、原則として、臨床試験の試験成績に関する資料であることに変わりがないことを改めて確認すること。
十:リアルワールドデータは臨床試験に完全に代わるものではなく、薬事承認におけるリアルワールドデータの利活用には、適合性及び品質が適切なレベルで担保されたデータベースの構築とリアルワールドデータの利点と限界を十分に踏まえた基準の確立等が必要であり、引き続きリアルワールドデータの利活用のための適切な基盤の構築に努めていくとともに、リアルワールドデータのみに基づく薬事承認は慎重に検討すること」
その後、薬機法改正法案は翌日の衆議院本会議で賛成多数で可決、参議院に送付された。参議院では、2025年4月22日に厚生労働委員会で審議入り、5月13日に付帯決議を含め可決された。引き続き参議院本会議で賛成多数で可決、成立した。
参議院厚生労働委員会でも衆議院厚生労働委員会と全体的にほぼ同様の内容の15項目の付帯決議が採択された。このうち3から7の5項目が早期承認制度の拡大とリアルワールドデータ利活用に直接関係するものである。
参議院厚生労働委員会で独自に追加採択された重要な記載は「四、条件付き承認制度によって承認された医薬品等については、市販後の安全対策を強化することが必要であり、承認に当たっては、強化する市販後安全対策の内容を具体的に定めること。新型コロナワクチンの安全対策においては、収集した副作用情報の因果関係評価について、α ( 因果関係が否定できないもの) 、β ( 因果関係が認められないもの )、γ ( 因果関係が評価できないもの ) の三カテゴリーに分ける基準が採用されていることや、医薬品等によっては収集された副作用等の情報の九十九パーセント以上が因果関係が評価できないとされている現状を改めるため、評価基準を見直すこと。また、安全対策には医薬品副作用被害救済制度における情報も活かすこと」とされたことがある。
このように薬機法改正法案は賛成多数で成立してしまったが、衆参両院の厚生労働委員会が採択した「付帯決議」は、今後の取り組みの拠り所となることが期待される。
薬剤師・公衆衛生大学院修士 ( MPH ) 寺岡章雄