いちどくを この本『食品添加物よりはるかにこわいゲノム編集食品 みんな知らずに食べている』(NEWS No.603 p08)

天笠啓祐 著ユサブル1600円+税2025年4月刊行

スーパーの店頭に並ぶ高GABA(ギャバ)トマトはγ(gamma)アミノ酪酸(aminobutyric acid)が多く含まれ、睡眠を改善し血圧上昇を防ぐ「機能性表示食品」とパッケージに表示されています。筑波大学発のベンチャー企業である(株)サナテックシードが開発、’20年12月届出、’21年9月から市販されたゲノム編集食品です。生物が有する遺伝情報を担うDNAに操作を受けたトマトですが、安全審査はなされず消費者に対する表示もありません。かつて豆腐のパッケージには「遺伝子組み換えでない」とかの記載がありましたが今は消えています。「資源がないから科学技術立国へ」とのメッセージがしばしば聞かれ、科学技術への信奉が厚い消費者も多いと考えられるのに、なぜ科学技術から生まれたことをアピールしないのでしょう。

読売新聞オンライン(‘25年1月27日)では、「国内のゲノム編集食品」について届出7品目、うち4品目流通とあります。

先述した高GABAトマト、筋肉の成長を阻害するミオスタチン遺伝子を破壊(ノックアウト)して「肉厚で可食部を増やしたマダイ」、食欲を抑制するレプチン遺伝子をノックアウトした「成長が速いトラフグ、ヒラメ」。魚類の届出はいずれも京都大学発(株)リージョナルフィッシュで、大規模工場での陸上養殖・外食産業との提携を進めているとのこと。届出済・上市(市販)未定は「高粘度の加工用トウモロコシ」、「小型で収量が多いジャガイモ」。

良いことずくめの記載ですが、安全なのでしょうか?本年4月発行の本書によると「現在、ゲノム編集食品が市場流通しているのは日本だけ」とのこと。なお食品衛生行政は厚生労働省の管轄と思っていましたが、昨年4月より消費者庁に移管されていました。

著者は、市民バイオテクノロジー情報室代表・日本消費者連盟顧問・遺伝子組み換え食品いらないキャンペーン代表です。工学技術で作成された食品であることをなぜ明示しないのか?詳細は本書の第2部「骨抜きにされた食の安全基準」を読んで頂きたいです。

2020年世界各国の政府やグローバル企業が集まるダボス会議(世界経済フォーラム)は気候変動、エネルギーや食糧の危機に対処する「グレートリセット」を提唱しました。日本政府も、この計画に呼応して同年10月「フードテック官民協議会」を設立。農林水産省は’21年5月「みどりの食料システム戦略」策定し、その目的を「食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現する」としています。

みどりの食料システムの「具体的な取組」として挙げられている「地球にやさしいスーパー品種の開発・普及」の中に、ゲノム編集食品の位置付けがあると考えられます。

1990年代から開発されていたゲノム編集技術の実用化に力を発揮したのが、2012年開発されたクリスパー・キャスナイン(CRISPR-Cas9)です。医問研ニュース’24年4月号に、松本有史氏(⦅医⦆松本医院)による詳述があります。

ゲノム(genome)とは、遺伝子(gene)と染色体(chromosome)の名称を起源とした、1920年ドイツの学者による造語です。生物の染色体を構成する、遺伝情報を有するDNA(デオキシリボ核酸)の核酸塩基配列の総体を意味します。

遺伝子組み換え、ゲノム編集の言葉から、実際の工程を素人が思い浮かべるのはなかなか困難です。「DNAを切断して標的とする遺伝子を壊す技術」は狙い通りの結果を正確にもたらすのでしょうか? 本書の第1部「なぜゲノム編集食品はこわいのか」をお読みください。

2020年ノーベル化学賞と、高く評価されたクリスパー・キャス9技術で生み出された「食品」の流通は現在日本のみです。「フードテックという名の企業の食料支配」(本書第3部)の内実を学び、利潤追求に与させられている科学技術を「食料主権」・地球上の健康な生命を守る力に変える方向を示す「第4部 作られた食糧危機と動き出した市民」をお勧めします。  (小児科医 伊集院)