本「メタボの暴走」船瀬 俊介 花伝社

おもしろい本が出ました。内容的には「?」という部分も多いのですが,メタボ健診のおかしさ,誤り,陰謀をうまく暴いてくれています。
まず,最初にメタボ健診の目的は,生活習慣病の予防と医療費の抑制(厚労省は「二兆円削減できる」と言っています!?)ということになっています。しか し,本書の試算によれば全面強制によるメタボ健診は,医療費を爆発的に増大させる危険性があるのです。現在のメタボ基準(表1)に従うと受診者の半分 強,3000万人を超える人々が「指導」「受診」にまわされるのです。その費用について厚労省はどうするつもりなのか不明です。このままでは後期高齢者医 療保険の負担を巡って起きているような大混乱が繰り返されることになります。

表1.現在のメタボリックシンドローム診断基準
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1. 腹囲     男性 ≧ 85 ㎝ 女性 ≧ 90 ㎝
2. 脂質異常   トリグリセリド ≧ 150 ㎎/dl
または HDLコレステロール < 40 ㎎/dl
3. 血圧異常   収縮期 ≧ 130 ㎜ Hg
または 拡張期 ≧ 80 ㎜ Hg
4. 糖代謝異常  空腹時血糖 ≧ 110 ㎎/dl
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1と2,3,4の内2つ以上を満たすものをメタボリックシンドロームという。

この様な大混乱をよそ目にメタボ産業は大儲けです。歩数計や体脂肪計,血圧計などがどんどん売れています。「腹囲が減る」という漢方薬も大人気です。本 当は単なる下剤なのに…。さらに「予防」と称して以前より厳しい基準の下で投薬が開始されることになっているので,製薬会社も莫大な利益を上げることが予 想されます。
つい先日のNHKニュースではメタボ健診・保健指導を薦める立場からの報道がなされていました。実は一千万人を超える人々を「指導」するのは医師でも保 健師でもありません。このたび法律で医療スタッフに初めて迎えられた管理栄養士なのです。ところが管理栄養士養成施設(大学や4年制の専門学校など)は臨 床教育の蓄積がありません。学生はわずか1-2週間の校外実習で病院を回って来るだけです。そのため大慌てで管理栄養士向けの研修会を全国で開催し,修了 証をもらった者だけが「指導」にあたるのです。しかしその研修会でさえ模擬患者を相手にカウンセリングの練習をさせただけで終わっています。こんな研修で 効果が上げられるのなら,今までの保健師の苦労は何だったの?という話です。
本書はメタボを巡る陰謀を適確に批判し,薬の副作用にも言及して,安易な薬物療法を戒めてくれているのですが,残念なことに科学的根拠の不明な菜食主義 や断食,健康茶を勧めています。そもそも画一的なメタボ対策(減量のための様々なグッズの売り込み)に対して有効に闘うためには,正しい診断とそれに基づ く治療の実践を打ち出さなければなりません。もっとも,それはジャーナリストである著者の仕事ではなく,読者である私達医療従事者に課せられた仕事である と思います。みなさん,ご一読を!

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