後期高齢者医療制度の現情勢

08年4月から後期高齢者医療制度が始まる。75歳以上(65〜74歳で一定の障害のある人も含む)を対象とする独立保険で,従来健保や国保の被扶養者 だった75歳以上もすべて脱退させられ組み入れられる。財源は税金などの公費5割,現行の公的医療保険制度からの繰入4割,残り1割は高齢者の年金から天 引きとなる。加入者は約1300万人。これまで扶養家族として保険料負担がなかった約200万人も新たに保険料を課される。保険料の全国平均は年 72000円(月6000円)で,介護保険料(全国平均月4090円)と合わせると月1万円を天引きされることになる。
後期高齢者医療制度は,06年6月成立した「医療改革法」の中心となる法律である「高齢者の医療の確保に関する法律」に根拠をおく。これは「国民の老後 における健康の保持」を目的とする老人保健法を廃止して「医療費の適正化」のためにつくられたものであるが,税金や企業の保険料負担を免除するためでもあ る。ちなみに同じく08年4月から開始される,いわゆる「メタボ健診」(特定健診・特定保健指導)も同法に根拠をおく。
現在国保では保険料を1年以上滞納すると保険証を返還させられ,被保険者資格証明証が交付される。75歳以上は対象外だったが,後期高齢者医療制度では 全員が返還対象となり,保険証がなくなれば1割の窓口負担は10倍になる。加入者の約2割とみられる年金額18万円未満や年金を担保に融資を受けている人 は天引きでなく自分で支払うが,滞納で保険証を失うおそれがつよい。保険料負担と窓口負担の双方で受診の機会が抑制されることになってしまう。なお,後期 高齢者医療を運営するのはすべての市区町村が加盟を義務づけられている広域連合だが,間接選挙で議員が選ばれるなどの非民主的な運営で住民の意見を届きに くくするためのものとも考えられる。
後期高齢者の診療報酬面で厚生労働省は,外来医療では「高齢者担当医(仮称)」制度を導入して複数医療機関の受診を抑制させる,包括制とする。入院医療 では,早期に退院調整計画を作成させることで長期入院を抑制する,包括制の診療所からの紹介患者に加算することで診療所が包括制を選択するよう圧力をかけ る,といったことを狙っている。医療機関に医療を手控えるよう圧力をかけるものである。
後期高齢者医療制度の中身が明らかになるにつれて,反対の声が広がっている。地方議会での中止・撤回・見直しを求める意見書は503議会(全地方議会の 27%)になった(2月1日現在)。東京都広域連合議会は低所得者の保険料を08-09年度に限り独自に軽減する条例案を全会一致で可決した。与党も後期 高齢者医療制度における被扶養者からの保険料徴収は半年間凍結せざるを得なくなった。さらに反対の声を拡大して後期高齢者医療制度そのものを廃止する必要 がある。

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