この本は,インフォームド・コンセント(以下,イ・コンセント)について,重要な問題点を解明したすばらしい本です。医薬ビジンランスセンター発行「薬 のチェックは命のチェック」に連載されていた内容ですが,単行本となるとまた違った説得力を持ちます。ここでは特に感服した内容を紹介します。
EBMとイ・コンセントの関連について明確にされています。戦後の医学・医療の進歩は診断や治療に相当な確実性を与えてきました。例えば,普通の肺炎や 虫垂炎(モウチョウ)は,それなりに診断し治療すればほとんどは治癒します。多くの医師は特に手痛い失敗もせず,または失敗であることを無視することで, 大いなる自信を持つようになりました。しかし,1人の医師や大学や病院の経験をはるかに超えるデータを集めて分析するEBMの発達は,診断も治療も本当は 非常に不確実性があることを証明しています。
その医療の不確実性こそが,イ・コンセントが不可欠な理由です。何パーセントかの確率で目標どおりいかないことを患者に理解してもらわなければ,ウソを ついていることになります。世界の研究で得られる最良のデータを基に,患者と共に診断・治療を考え,患者が最も納得がいく方針を,共に作り上げるのが EBMの時代のイ・コンセントだと思いました。
最近の,医学教育では,データ(本当にEBMに基づいているかどうか知りませんが)を患者に示して,さああなたがこれらの治療法のどれかを選んでくださ い,私はそれを実施しますと,患者に下駄を預ける事が蔓延しているとのことです。著者は,患者と共に考え,患者主導で決められるよう援助し,それらの決断 の一部を医師も負うべきだとします。私も最近そういう場面に出くわし,重症障害者を看取りました。決断がこれで良かったのかご両親も悩まれましたが,私も 今も悩んでいます。しかし,この悩みは医師として当然かと思います。
また,治療することが不可能になったとき,癒しをするのも医師の役割だと主張されています。癒しの役割を,ガンの場合,以前は告知なし=だますことで,今は告知することだけで,避けているのが現状のようです。
しかし,この役割は,少なくとも勤務時間上は逃げられない看護師が,主に担っているように思います。今後ますます,受験勉強上手で医師免許を取った人が 増えると予想される中で,この役割を医師がこなすのは無理と思われます。看護師を中心として,医師・介護・リハ・ケースワーカーなどが協力し合って担う事 ができる医療制度を求めることが必要かと思いました。
ともかく,イ・コンセントについてだけでなく,医療労働者と患者との関係を考える上で極めて重要な内容を持った本と思いますので是非一読をお勧めします。
(2007年2月)