精神障害者への監視強化を許すな!-相模原事件検討チームが報告書(NEWS No.497 p05)

46人が死傷した相模原市の障害者施設殺傷事件を検証してきた厚生労働省の有識者検討チーム(相模原市の障害者支援施設における事件の検証及び再発防止策検討チーム;以下、検討チーム)が、報告書をまとめ、12月8日に報告書を公表した。

事件の容疑者は今年2月、精神障害のために他害のおそれがあるとして措置入院していた。検討チームは病院と自治体の連携のまずさから、退院後に容疑者が孤立していたと指摘した上で、措置入院退院後の継続支援や関係機関の情報共有の強化などを柱とした再発防止策を提言している。

犯行に至る背景など事件性や警察の対応についての検証が不十分で、ほぼ措置入院制度の、特に退院手続きの問題点に関する議論に終始しており、精神疾患ゆえに起こった事件との印象を世間に広く与えかねない。一度措置入院にまわされると本来司法で対処すべき事例でも差し戻せない構造には言及していない。障害の有無にかかわらず多様な生き方を認め合う共生社会の構築を政府の姿勢として明示することが必要と、再発防止策の方向性で述べている点は一定評価しうる。

報告書は、措置入院を決めた都道府県知事や政令市長に、すべての措置入院者の退院後の「支援計画」策定を求めた。措置要件のひとつである他害のおそれの程度も軽重様々であり、自傷のおそれで措置入院した場合も全例が支援計画対象になるのか、疑問は残る。この計画は、自治体職員や医療機関などによる「調整会議」で協議して作成する。会議には可能な限り本人や家族の参加を促す。退院後は、患者が住む自治体が中心となって継続的に支援していく。自治体や警察、医療機関などが定期的に協議する場を設けることも求めた。犯罪につながりかねない情報の共有も目的に含まれる。ただ、強制収容下での同意が真の同意といえるのか、また調整会議やニーズ評価に手間取って、措置症状が消退しているのに退院ができなければ人権侵害になる。全体調整の中心となるのは保健所だが、保健所は統廃合で半分近くに減らされ、保健師は業務の変化と多忙化で訪問活動なども難しくなっている。保健師や相談員など専門職の人員増や予算などの裏づけがなければ担えない。

厚労省は今後、精神保健福祉法改正も視野に、具体的な支援の制度づくりを検討するという。結局、措置入院について監視の強化という方向性といえる。措置入院については、今後、この最終報告書をうけて、「厚生労働省に設置された『これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会』等において、詳細な内容の検討を行っていくことを求める」と書かれている。引き続き、検討会の議論を注視し、次の精神保健福祉法の改正が措置入院後の監視強化や精神障害者への差別偏見が強くなるような内容にならないように注視する必要がある。

大きな事件を起こす人は地域で孤立している場合が多い。我々が目指すべきなのは、地域での孤立を防ぐことや、障害の有無に関わりなく、多様な生き方を尊重し合う「共生社会」だ。その歩みを確かにすることが、全ての再発防止策の土台である。

いわくら病院 梅田