いちどくをこの本『患者は何でも知っているー時代の医師と患者』(NEWS No.511 p07)

『患者は何でも知っているEBM時代の医師と患者』
J.A.ミュア・グレイ 著/斉尾武朗 監訳
中山書店 1800円+税
2004年7月発行

原著は「The Resourceful Patient」、手元の辞書で直訳すると「いざというときに解決策を考えだす能力のある患者」となり、2002年の出版です。斉尾武朗氏は以前、医問研ニュースでも紹介のあった「EBMの道具箱」(2002年・中山書店)をも監訳されています。
著者はイギリス・グラスゴー出身で、外科医を経て公衆衛生に従事、「医学研究推進の重要性を認識しつつも、むしろ現在の時点で判明している医学的知識を十分に臨床に活かすことのほうが一層重要であると考え」、オックスフォード大学での世界初のEBMセンター設立や、1992年イギリスの国民保健サービス(NHS)の一環として始まった英コクラン共同計画の創設に携わっています。
本書は4部より構成されていますが、各章の最初に、導入部的なコラムと内容の流れを示す目次が配置されており、読者への配慮が感じられます。また関連書籍のみならず小説や映像の引用など、脚注が豊富で、興味深く読み進めることができます。
第1章 医学帝国の興亡――医学的権力の進化論 :医師と患者の関係の歴史的な推移が述べられ、最近ではむしろ「医学的権力の没落と患者の力の復活」とあります。
第2章 医師は一日中何をしているのか? :医師の日常を9つの側面から迫り、患者にとっては、種々ある病気のことを知るよりも、診察の場面で医師が何を考え、どう判断するのかを知ることの方が大切とあります。「根拠に基づく臨床実践」のために医師は最初に「相対リスクのデータを絶対リスクのデータに変換すること」と、「EBMの実践」の手引きが導入されます。
第3章 かしこい患者のためのスキルと情報源 :インターネットを駆使して専門家と同じ情報源を利用して、自立/自立的に病気に向き合う新しい患者像が提示されています。
第4章 医療の新しいパラダイム :  現在から近未来にかけての新しい時代における患者・医師・ヘルスケア組織それぞれの姿や相互の関係性が描かれていて、ガイドラインの作成やスクリーニングの実施にとって、真に患者の参加を得るということはいかなることなのかを、十分に学んでほしい、とあります。
最後には「患者は何でも知っている」の道具箱・・・患者、臨床家、マネージャーに役立つさまざまな情報源へのリンクを有するホームページの紹介があります。(www.resourcefulpatient.org)
日本語版は2004年発行で、「知識は病いの敵である」と題した著者の「日本語版への序文」には、「『ヘルスケアでは、一般市民はまさに医師と同格のパートナーでなければならない」という考えによって執筆したものである」と書かれていました。「社会的な弱者」になり得る患者の権利はここまで守られるべきものなんだ!と再三、感じさせられる内容でした。医療従事者として、また患者側に立った身としても、もっと早く読むべきだったなぁとの思いを強くした書物でした。

伊集院