山本英彦先生講演(4/21福島原発事故を巡って(その3)甲状腺がんの異常多発は放射線被ばくが原因)を聞いて〜甲状腺がんはスクリーニング検査によって増えたわけではなかった〜(NEWS No.515 p07)

去る4月21日、福岡市天神において『第6回こどもたちを放射線障害から守る全国小児科医の集い』が開催されました。講師は第1部が松本文六先生による『約1000km余り離れた大分からみた原発事故による健康障害』、第2部が山本英彦先生による『福島原発事故を巡って(その3)甲状腺がんの異常多発は放射線被ばくが原因』。大変貴重なお話を頂けました。ここでは一避難者として強烈な印象を受けた山本先生による講演について感想を書かせていただきます。

<原発被災者の現状>
これまで福島における甲状腺癌の多発はスクリーニング効果といわれ、検査による過剰な検出によるものであって実際の甲状腺癌の発生頻度は他の地域と大差ないとされてきた現状があります。そしてこの解釈は転移の有無、再発と再手術を受ける子供が多く出ているにも拘らず是正されることはありませんでした。
さらに悪い事に、この解釈は甲状腺癌と診断された患者を傷つけるのみならず、避難地域の解除、避難住宅からの追い出しといった子供の避難の権利を奪う行為へとエスカレートしてきております。しかも原発事故の影響を否定される中で、術後生涯飲み続けなければならない薬剤についても、いつ補償が切られるかという不安が患者の間には常に悩みのタネとして付きまとう事となっており、さらにはこのような患者が出た周囲の被災者にとっても「明日は我が身」とこの状況を憂う不安な日々を送っておりました。斯様な不安感こそが原発の避難者に帰るに帰れない現状を創り、避難先での自死や孤立の果ての孤独死といった悲劇の連鎖を生む元凶となっているのです。

<山本先生の分析>
そもそものこの様な解釈に至っていた原因は、これまで福島県内で行われてきた県民健康調査の結果が線量の高い地域と低い地域で差を見出すことが出来なかった事に起因しておりました。山本先生は先行検査および本格検査(1巡目)が終了した時点での甲状腺がんと放射線量の容量反応関係を分析する事により当該疾患の多発の原因がスクリーニングによる見かけ上の多発か放射線による多発かの論議について考察されておりました。発表によるとこのような結果が出された原因は被爆線量毎で検査をした時期のずれと、発生頻度の補正無しのグラフ化にあるのではないかとの事で、これらの補正を行い分析をしたものでした。この分析の中では県民健康会議発表データと比べた際のデータの妥当性についても評価されており、非常に精密に分析がなされているという印象を受けました。

<分析結果>
分析は福島県立医大が分類した4地域(4群)における罹患頻度と線量の単回帰を行ったものでY=5.3X+19.3, F=283>F(0.975)=38.5, P=0.004, R2=0.993と云ったグラフとなり、誰が見ても空間線量と罹患率が相関しているというものとなっており、統計学の不勉強を思い知らされる感嘆のグラフでした。
大学時代の学生実習の中和滴定グラフもここまで綺麗な直線が引けるものではありませんでした。この講演を聞く機会を頂けたことに心底感謝しております。

磐城 馨