骨粗鬆症の治療薬「ベネット錠」(武田)で大腿骨頚部骨折を1人減らすために必要な金額は約1600万円であることは,昨年の9月号に掲載しました.ベ ネットを3年間飲んでいると大腿骨頚部骨折の発生率は2.8%だが,飲まなかったら3.9%であり,その差は1.1%.そうすると,1人の発病者を減らす ために必要な治療者数(Number To Treat;NNT)が1/0.011 = 90.9です.ベネット錠は161.1円ですから,161.1円 X 365日 X 3年 X 90.9(NNT) = 16,035,169円要ることを紹介しました.いくらかかっても大腿骨頚部骨折の予防が多少ともできれば良いではないかという意見もあるかと思います. (試験参加者9331人のうち35%が試験から脱落しているので,本当に減らしているのか疑問.)
しかし,ベネットよりも明らかに安価で,効果的な大腿骨頚部骨折の予防法があることがわかりました.それは,腰のプロテクターを着けることです(New Engl J Med2001;344:333).これは大腿骨頭部の外側に,手のひらで大腿骨骨頭を包み込むようにするプロテクターを,下着のポケットにいれるもので す.多少暑いかも知れませんが,ほんの一部しか腰を覆いませんので,素材によっては夏でも耐えられない暑さでもないと思われます.
これを80才前後の男女が着けておきますと,大腿骨頚部骨折発生率は3年間で計算すると6.39%ですが,着けていないと13.8%でした.この差 は,7.41%ですから,NNTは1/0.0741 = 13.5になります.すなわち,13.5人が3年間腰のプロテクターを着けておくと,1人の大腿骨頚部骨折を防げることになります.ベネットのNNTは 90.9人ですから相当違います.しかも,このプロテクターは日本でも市販されています.その値段は調べていませんが,高くてもせいぜい1万円程度かと思 われます.
もちろん,ベネットは椎骨やその他の骨折も防げるとしていますので,単純に比較できませんが,大腿骨頚部骨折に関しては,ベネットの効果より,プロテクターの方がずっと良いということがわかります.
薬の効果を考える場合,単に,プラセボとの比較や,薬と薬の比較をするだけでなく,薬以外の予防や治療法との比較も必要なことがわかりました.
詳しくは,原著をお読み下さい.
(H)
<大腿骨頚部骨折率とNNT; 3年間での効果の比較概略>
| Hip Protector | Control | NNT | |
| 骨粗鬆症でない平均82才の女1409人,男392人 | 6.39% | 13.8% | 13.5 |
| —————————————– | ————- | ——- | —– |
| ベネット | 偽薬 | NNT | |
| 全女性 | 2.8% | 3.9% | 90.9 |
| 骨粗鬆症者 | 1.9% | 3.2% | 76.9 |
医問研ニュース 2003年3月号