2002年9月,乳幼児に対するインフルエンザワクチンの効果に関する研究(平成12年度)報告書(主任研究者 神谷斉,分担研究者 廣田良夫ほか)がまとめられた(以下,本報告と略).乳幼児ワクチン効果に関する公的見解と位置づけられるので,内容を検討してみた.
<報告の概要>
全国7ブロック,43の小児科診療所での,2000/2001年のインフルエンザシーズンにおける6歳未満の小児へのインフルエンザワクチンの副反応およ び効果をみたものである.ワクチン接種者1604名,非接種者1365名を対象とした.接種1名に対し,続く受診患者1-2名を非接種者とした.調査はす べて保護者からの回収記入表によった.プロトコ−ル違反や調査票記入不備などを除き,解析対象は接種群1209例,非接種群1128名であった.観察期間 は,各地域毎に届け出患者数の推移をもとに最流行期を設定し,それに応じて観察開始週を設定した.最終観察はすべての地域で3/31までとした.この結 果,観察期間は岩手4週間,福岡,北海道が6週間,東京,大阪が7週間,四国8週間,三重9週間であった.
インフルエンザに罹患したか否かは39度以上の発熱の有無で判定した.接種者の39度以上の発熱は219/1209(18%),非接種者では269/1128(24%)だった.
解析は単変量,多変量解析を用い,オッズ比,95%信頼区間を計算した.単変量解析の結果は全体のオッズ比0.71(CI0.58-0.86),地域別 では東京,岩手,四国,三重で有意差があった.多変量解析では全体0.78(CI0.61-0.99),地域別では三重で有意差があった.結論部分では全 体のオッズ比0.78であったとする一方で,大阪では例数が少なく,発病リスクの少なかった北海道,福岡,岩手では効果を認められるには至らなかった,四 国,東京,三重では有意から境界領域の効果を認めたとした.
<評価>
この報告書をそのまま鵜呑みにしても,乳幼児に対するワクチン効果はほとんどないことがわかり,政府の好きな有効率でみても,わずか25%である(NNTは16).そのため結論もきわめて歯切れが悪い.が,無視できないごまかしが随所に認められる.
第一は,ワクチン接種群は,年齢が高く(3.2対2.8,P = 0.001以下),逆に非接種群は扁桃腺の既往や過去6ヶ月以内の感冒罹患が多い(いずれもP = 0.001).これらは,次でみるように,本報告でインフルエンザ罹患のendpointと設定した39度以上の発熱に強く影響する因子である.統計的に ごまかしの修正を試みてはいるが,修正の根拠が恣意的であり,元々厳密な統計分析に耐えられない相違が両群には存在するのである.
第二は,本報告のごまかしの核心部分であるが,endpointを39度以上の発熱と恣意的に設定した点である.38-38.9度の発熱者は両群でどれ だけであったのかについての具体的なデ−タは提示されていない.多変量解析の修正結果のみが提示されているが,それによると,38度以下,38-39 度,39度以上の3群で,ワクチン接種群のオッズ比は0.89(CI 0.74-1.08)と差はみとめられなかった.本報告の様に,38度台と39度でインフルエンザか否かを決めるような研究は世界中で存在しない.
第三は,観察期間も違う地域を加えて評価した点である.本報告のデザインでは地域毎に結果を解釈するしかない.
このように見てくると,本報告の結論は,何とかインフルエンザワクチンの効果を出そうといろいろ数字でごまかしたが,それでも効果は認められなかったというしかない.
(Y)
医問研ニュース 2003年1月号