本「ひとりひとりの子ども」川端利彦 著  工房ノア 編

著者の川端氏は児童青年精神科医です.同じく精神科専攻の医問研メンバーよりこの本を手渡された時,その帯カバーのメッセージにハッとさせられました. 「子どもに知的なのびや従順性だけを期待するのは,現在の社会を支配している人たちの考え方です.子供がよくなるためには,おとながかわらなければなりま せん.」また,この本が20年前に出版されたことにもビックリさせられました.

「第一章 精神科にくる子どもたち」では,精神科へ連れて来られる子どもの数が増えているなかで,その相談内容の多くは子どもの行動に関することで,子 ども自身が困っているのではないことが明らかにされます.子ども自身の問題よりも,周りのおとなの目からみて困ること(言うことを聞かない,おちつきがな い,すぐに物をこわす,へんなくせがある,学校をいやがるなど)や,ひきつけをおこす,言葉や成長が遅いとかの心配が含まれています.そしてそれがすぐに 「学校でいじめられないか,不登校にならないか,いい大学にはいれるかどうか」の心配につながってしまうところに,さらに大きな問題があるとの指摘があり ます.そしていろんな「問題」や「症状」と思われるものがその子にとってどんな意味をもつのか,子どもの側に立って考えることの大切さを強調されていま す.

「第二章 心の成長のつまずき」では,指しゃぶり・偏食・どもる時・夜泣き・落ち着きの無い子・学校にいけないなど,おとなが「問題」と考える子どもの 行動を子どもの立場から考えれば,その子どもにとってそのときの成長や生活のなかで,大切な意味を持っていることを具体的に示されています.

「第三章 ことばの問題」では,「ことばさえでてくれたら」「なんとかふつうになってくれなければ」という親の願い・気負いが先立つことで,かえって子 どもの要求や子どもなりの感じ方の表現を押さえ込んでしまいその子なりの成長をゆがめてしまうことが少なくないと注意されています.「第四章 ひきつけ」 では,小児のてんかんをめぐって,「第五章 親と子どもの生活」では,「ふつう」ってなんだろう,受身になりがちな子どもの生活,「第六章 治療と訓練を 考える」では,まず子ども観を大切に,よくなるってどういうこと?などの副題のもと,子どもの立場に立ちきることの中身を示唆されています.

「ひとりひとりの子ども」というタイトルに著者の子どもたちを思う心情があふれているように感じ,自分自身はどうなのか?とつらいところですが,私は乳 幼児検診で,ほんの1〜2ヵ月のベビーを前にして「この子は真剣にミルクを飲まないんです,私を困らせるんです」「この子は私から眼をそらすんです,私を 嫌ってるんです」と真顔で訴えるお母さんに出会います.「えらい時代やな〜」で済ますことの出来ない,私の次の課題のように感じています.

(I)

医問研ニュース 2002年11月号