9月例会報告:最近話題のコロナ感染症の治療薬「カクテル療法」/抗体依存性感染増強(ADE)を引き起こす感染増強抗体について(NEWS No.553 p02)

例会には

1)最近話題のコロナ感染症の治療薬「カクテル療法」
2)抗体依存性感染増強(ADE)を引き起こす感染増強抗体について
が報告され、浜六郎さんの参加もあり、活発な議論が出されました。

以下、2つの議論を経た報告を掲載します

1)抗体「カクテル療法」(商品名ロナプリーブ)

先月号の1面に菅内閣の「自宅療養強制」、「酸素ステーション」から「カクテル療法」に頼る政策の問題点を指摘しました。

9月例会で、その中の「カクテル療法」について、医学的観点からわかる範囲での評価を報告しました。浜六郎氏からの多くの指摘をいただき漠然と考えていた結論がある程度はっきりしました。

「カクテル療法」は、2種類の新型コロナウイルスに対するモノクローナル抗体を「カクテル」した薬です。

「カクテル療法」の「効果」は、「入院又は全ての原因による死亡」(以下、「入院・死亡」)が70%低下するというものです。これが示されているのは、ロシュがFDAに出した文書に紹介されているデータの結果です。それらには、以下のような、数字が出ています。

ランダム化比較試験RCT、二重目隠しDB、プラセボ(生食)対照の「COV-2067」試験は、コロナ軽・中等症患者への(600mg+600mg=1200mg)投与では、「入院・死亡」が、カクテル群で736人中7人(1%)、生食群で748人中24人(3.2%)で、相対リスクを70%減少させています。「7割減らす」ことになりますが、100人使用して2.3人減になります。

アウトカムの問題

ところで、主なアウトカムが「入院又は全ての原因による死亡」となっています。これでは、死亡も70%減らせるように受け取られるかと思いますが、1200㎎のデータでは死亡は「カクテル」と対照群にそれぞれ1人、2400㎎使用では1人と3人、合わせて2対4でした。入院が減れば死亡率も減るでしょうから入院も減らす可能性がある、というところでしょうか。この問題は、日本の「審査結果報告書」(21年7月19日)でも、データ提示も議論もされていませんでした。

死亡を減少させるとの別の論文が他にありました。Recovery collaborative groupの論文です。これはまだレビュー中で、正式な論文ではありませんが、RCT(open label)で大変重症化しやすい人を対象とした試験です。主アウトカムの「28日目での死亡」は「カクテル」1633人中396人(24%)、対照1520人中451人(30%)で2割減少、28日までのそれぞれ退院が64%と56%で2割の効果、重症になりやすい患者でも約2割の効果です。

既にコロナウイルスへの抗体を持っている場合

もう一つの問題は、FDAに出されたデータは、「この結果は、ベースライン時の鼻咽頭ウイルス量が106コピー/mL以上であることや、血清学的状態によって定義された患者のサブグループ間で一貫していました。」と、抗体が陽性の人も陰性の人も含まれているようです。ところが、添付文章に書かれた先の「COV-2067試験」の除外基準に「2.血清学的検査によりSARS-CoV-2抗体陽性であることが判明している患者」)となっていることが不可思議です。

日本の「審査結果報告書」に、抗体陽性と陰性が明確に分けられていました(下表)。表の「イベント」とは「入院又は全ての原因による死亡」です。

【審査結果報告書(表30)より(600㎎+600㎎)】

イベント発現割合減少効果%
「カクテル」プラセボ
全体1.0% (7/736)3.2% (24/748)70.40%
抗体陽性1/1776/16484.60%
抗体陰性3/50018/51982.70%

(全体と抗体陽性、陰性を足した数が合わない)

ところが、先のRecovery collaborative groupのRCT論文では、抗体が陽性の人には効果がないことになっています。死亡について陽性の人たちでは「カクテル」群411/2636(16%) 、対照群383/2636(15%) で効果なしです。28日での退院でも、侵襲的人工呼吸使用でも抗体陽性群では効果がありません。

その他のRCTなどの結果

そこで、他のランダム化比較試験を検討しましたが、正式な論文になっているものはNEJMに掲載された、Weinreich DMらの「REGN-COV2, a neutralizing antibody cocktail, in outpatients with Covid-19」です。これは、RCT,DB、プラセボ(生食)対照の厳密な方法です。対象は、血清抗体が検出されない、すなわちCOVID-19に感染していなくてかつワクチンを受けていない人を対象にしています。主アウトカムは、治療後「医療機関を受診」です。「カクテル」群は182人中6人(3%)、プラセボ群は93人中6人(6%)でした。100人使用して3人が受診しなくても済んだというものです。有害事象は、主なものでは「重大」が2.4g群(認可は1.2g)1%、対照群で2%、グレイ度3または4は、それぞれ1%と1%でした。

RCT以外に、Razonable RRらのコホルト研究があります。対象は色々基準がありますが、入院していない軽・中等症(SpO2>93)です。これでは、28日目での判定で入院が4.8%から1.6%に、ICU入院が1.0%から0.73%、死亡率が0.33%から0.15%に低下しています。ただ、対象人数がそれぞれ696人と少ないため、統計的に有意差のあるのは、入院だけです。

害作用

先の審査報告書では、これまでに報告された有害事象は、238例で10例以上報告された重篤なものは呼吸困難、低血圧、低酸素、酸素飽和度低下などあり、過敏症反応など注意を喚起しています。

結論

「カクテル療法」は、1)入院や重症化を相当減らす効果が期待される。2)害作用は致命的なものは少なそうであるが、アナフィラキシーなど重篤なものもあり、救急処置の対処が貧弱な外来での実施は避けるべきである。3)すでに、ワクチンを受けていたりコロナにかかっている方への効果や、FDAの緊急承認の根拠となった「7割効く」のアウトカムが「死亡についても言えるのか?」は今後検討が必要と考えられました。

(「薬のチェック誌」でも検討される予定とのことです。注目してください。)

はやし小児科 林