再び、ギャンブル障害について (NEWS No.558 p05)

カジノ誘致に邁進する維新・大阪府市

大阪府・市は、2021年12月公表の区域整備計画案が2月の市議会と府議会で同意を得れば、「夢洲」への誘致をめざすカジノを中核とする統合型リゾート施設(IR)を4月にも国に申請する。夢洲は「2025大阪・関西万博」会場としても整備が進む。しかし、公費負担が膨らむのは必至で、防災や環境、治安悪化などの重大な懸念がある。

「カジノ問題を考える大阪ネットワーク」代表の桜田照雄さんは、「夢洲のカジノのスロットマシンは6400台。24時間365日、年間7兆円もの賭博をさせようとしている。入場者は年間2000万人を見込むが、インバウンドの富裕層の誘客はおぼつかず、その7割が国内の客をターゲットにしている。カジノに通った100人のうち1人か2人は必ずギャンブル依存症になる」と警告する。

IRはカジノ、国際会議場、娯楽施設、商業施設、ホテルなどの複合施設だが、儲けの見込みの大部分はカジノで、府・市の計画案でも年間売上5200億円のうち8割がカジノからを当て込んでいる。

夢洲IRの事業期間は35年で、継続を前提として30年の延長契約を結ぶことができ、一度カジノができれば65年間、実害を被る可能性がある。

松井市長は知事時代の16年の「IRカジノに一切税金は使わない」との発言を翻し、「汚染土壌が出てきたので790億円を払います」と言い出した。

経過として、08年に府知事に当選した橋下徹が夢洲にカジノ誘致を提唱。11年のダブル選を制すると、橋下市長、松井知事による維新府市政のもと13年に府市IR立地準備会議が動き出した。ちなみに「大阪都構想」は大阪市を廃止し、政令市の財源と権限を奪うのが本質で、当時、橋下は「カジノは大阪都構想の試金石」とも発言していた。

カジノは刑法が禁じる賭博だ。12年の衆院選で維新は国政に進出、IRを成長戦略の柱とする当時の安倍首相や菅官房長官と連携を深め、16年のIR推進法、18年のIR整備法の成立に協力した。

橋下は15年の「都構想」住民投票で敗北し政界を引退したが、知事の松井のトップダウンで夢洲が候補地と決定。府・市は万博、IRをセットで誘致する「夢洲まちづくり構想」をまとめ、2025年万博前年の24年をIR開業時期とした。

ギャンブル大国日本

IRはカジノなしでは成立せず、カジノは娯楽ではなく、歴としたギャンブルである。

ギャンブル障害(GD、ギャンブル依存症)が拡がれば、疾患や犯罪対策に要する社会のコスト増大労働力喪失による損失等も甚大となる。日本はカジノ導入以前からすでにギャンブル大国であり、ギャンブル規制やGD対策が放置されてきた。

日本は国際的にGD有病率が際立って高い

ギャンブル障害(GD)は従来、衝動制御障害のうちの「病的賭博」として国際診断基準(DSM-ⅣやICD-10)では扱われてきた。DSM-5や1CD-11で、物質使用障害と同様の嗜癖障害である非物質関連障害(行動・過程嗜癖)である「ギャンブル障害」として概念化し直されたが、すでにGDからの回復に関わってきた当事者や臨床家、回復施設スタッフは「ギャンブル依存症」として理解していた。

2017年厚生労働省の全国調査(面接調査)では、生涯で依存症が疑われる状態になったことのある人は3.6%(約320万人、男性は6.7%、女性は0.6%と推計。2013年の厚労省全国調査では

成人人口の4.8%(男性8.7%、女性1.8%)536万人 (同報告のアルコール依存症109万人の5)と推計。(2017年は面接調査、2013年は自己記入式と調査方法に違いがあり、減ったわけではない)。米国(2002年)1.58%、香港(2001年)1.8%、韓国(2006年)0.8%などと比較して際立って高い。

ギャンブル障害(GD)とは何か?

GDの定義とギャンブル依存症者の特徴

ギャンブル障害(GD)とは、ギャンブルが、すでに自分に不利益、有害な結果を生じていて、やめたほうがよいと考えることはできても、強烈な渇望により、コントロールができずにギャンブルを反復継続する状態をいう。

ギャンブル行為には以下のようなことが含まれる。①ギャンブルに没頭すること、②自分の望んだ興奮感を得るためにギャンブル投資額を増やそうとする必要性があること(耐性を生じる)、③ギャンブルを管理する、控える、やめようと何度も努力するが失敗を繰り返していること、④ギャンブルが問題から逃避する手段であること、⑤ギャンブルの負けをギャンブルで取り戻そうとすること、⑥ギャンブルにのめりこんでいる行動を隠そうとを言うこと、⑦ギャンブル資金を非合法に賄う手段をもつこと、⑧ギャンブルが理由で個人的・職業的関係が脅かされるか、または失うこと、⑨借金返済を他人にたよること、である。

GDは誰でもなりうる精神障害だが、日本では自己責任が強調され、精神障害であるとの認知度は極めて低く、予防や相談、治療、回復支援の体制は甚だしく脆弱である。

■ギャンブルとは何か

ギャンブルとは「金をかけて金を得ようとすること」で、偶然による勝ち負け、賭けられる財貨、実施のルールという3要素が揃って成立する。人間社会の始まりとともにあったと考えられる。日本では、違法ギャンブルを除くと、「公営競技」(競馬、競輪、競艇、オートレース)と、「公営くじ」(toto(サッカーくじ)と宝くじ)パチンコ・パチスロが該当する。

GDがはまるギャンブルの8割以上はパチンコ・スロットだ。パチンコ産業は年商20兆円、パチンコ店舗数は1万2000軒でコンビニ並み。全世界のギャンブルマシーン総数700万台中6割が日本のパチンコ機やスロット台だ。しかし警察庁はギャンブルでなく「遊技」とみなし、関連業界が警察官の天下り先になっている。新聞、TV局は広告料収入の重要な部分をパチンコ産業に負っており、パチンコ・スロットによる負債が絡む事件でもGDに言及せず、GD問題の深刻さを隠している。

さらに、中央競馬(年間3兆円)・地方競馬(5000億円、ともに所轄は農水省)、競艇(1兆円、国交省)、競輪(9000億円)、オートレース(1000億円、ともに経産省)、宝くじ(1兆円、総務省)、スポーツくじ(900億円、文科省)と、各省庁が胴元となり、官僚の天下り先を提供している。

パチンコ・スロットを合わせると日本のギャンブル総額は25兆円、米国の3倍以上で、すでにギャンブル大国といえる。しかし、ギャンブル等依存症対策基本法はパチンコ・スロットは遊技、6種の公営ギャンブルは公営競技として公式にはギャンブルと認めていない(この法自体が、カジノを認めつつ、GDの抑制や治療を謳うというマッチポンプの欺瞞であるが。)また、最近、地域相談機関へ、一部の金融商品(FXやバイナリーオプション等)への投資がコントロールできないという相談で増えてきている。COVID-19感染対策で在宅時間の増加、社会状況の先行き不透明感などが影響を与え、外出せずにできるギャンブル(競馬、競輪、競艇、オートのオンライン投票)へ接触する人が増えた。さらに、海外のサーバーへ接続するオンラインカジノ、インターネットカジノへののめり込みで問題を抱える方もいる。

■GDは家族関係の病でもある

病的ギャンブル依存者の家族歴があると、物質乱用や抑うつ障害の発生率が上昇する。患者の両親や影響力のある親族はしばしば問題を抱えていたり、病的ギャンブル依存者だったりする。

併存疾患

GDは、気分障害(特にうつ病、双極性感情障害)、その他の物質使用、嗜癖性障害(特にアルコール、精神刺激剤、カフェイン・タバコ依存症で顕著)、注意欠如多動性障害(ADHD)、さまざまなパーソナリティ障害との併存を認める。

■GDの心理社会的要因

GDには誰でもがなりうるが、心理的傾向として自己肯定感がもてないなどの生きづらさを抱えており、ギャンブルで陶酔感、高揚感、安堵感等の快感を知ってはまりやすくなる。GDに特徴的な心理状態として、①否認、②自責感、自己嫌悪、③劣等感、敗北感、④孤立と孤独、⑤被害者意識を生じやすい、が挙げられる。

■ギャンブル障害を生じ得る薬剤

パーキンソン病治療剤であるドパミン受容体作動剤の重篤な有害事象の1つに衝動制御障害(病的賭博[DSM-Ⅳ]を含む)が報告されている。ドパミンD3受容体への結合親和性が高いプラミペキソール、ロピニロールで特に比例報告比PRRが高かったが、それ以外のドパミン受容体作動剤であるカベルゴリン、ブロモクリプチン、ロチゴチン、アポモルヒネのいずれもがPRRの有意な上昇を示した。また、ドパミンD3受容体に対する部分作動剤としての作用も持つ非定型抗精神病剤アリピプラゾールも弱いシグナルを示した。薬剤選択を避けるか慎重な処方が求められる。

■GDの病像の概括

GDの自助グループであるGA(gamblers anonymous)参加者の男女比は9:1.おそらく女性の有病率はもっと高い。ギャンブル開始年齢は男性18.5(14-26)歳、女性28.4(16-68)歳、全体で19.7歳。借金が始まればGDとみなせるが、借金開始年齢は男性24.3(16-48)歳、女性36.1(19-73)歳、全体で25.8歳。ギャンブル開始後6-8年で借金が始まる。人生の端緒ですでに借金を背負うことになるのでその後の人生が思い通りにいかなくなってしまう。

精神科受診は、男性36.7(20-70)歳、女性49.2(28-74)歳、全体で38.2歳。借金が始まって医療機関ないしGAを訪れるまでに12-13年を要している。受診までにギャンブルにつぎ込んだ総額は男性1290万(70万~-1億)円、女性680万(50万~-2000万)円、全体で1293万円。仮にギャンブル症者500万人が平均1200万円をギャンブルに使ったとすると総額は60兆円になる。繰り返す借金は多重債務に直結する。

■GDは進行性で治癒しないが回復をめざせる

いったん病気になるとGDは進行していき、治療目標はギャンブル行為がやむ「回復」をめざすことになる。GDが進行すると、賭けはより頻回に、賭け金はより大きくなる。経済的なダメージを受けることになり、なんとかしようとして詐欺、横領、窃盗などの犯罪に関与することもある。希死念慮や自殺企図の傾向も高い。

ギャンブル症者を特徴づけるのは「3ザル状態」と「3だけ主義」である。「3ザル状態」は、自分の病気が見えない(見ざる)、他人の忠告に耳を傾けない(聞かざる)、自分の気持を他人言わない(言わざる)。「3だけ主義」は「今だけ、自分だけ、金だけ」である。

GDも含めて嗜癖障害に共通する最も有効な治療法は自助グループ(SHG)への参加である。参加者全員が同じ病気持ちなので「3ザル状態」がたちどころに消える。GDの自助グループとしてはGAがある。12ステップの内容に従って、自分の感想や現状を順番に語り、言いっ放し、聞きっ放しが原則である。GAの効用は認められるがSHGの効果は1週間と考えられ、少なくとも週1回、できれば2回のGA参加が必要とされる。2016年6月現在、GAは45都道府県に162グループ存在する。家族に対するSHGにはギャマノン(Gam-Anon)が全国に120グループ近くある。

■GDの治療は認知行動療法が軸になるが、関連機関との連携も重要。カジノ創設は論外!

GDの治療には、認知行動療法(CBT)が有効とされる。CBTプログラムは、改善への動機づけと嗜癖に関する心理教育、セルフモニタリング、刺激制御(引き金としての現金と時間、ギャンブル関連情報など)、再発予防、正当化の自覚から構成される。ギャンブル行動にいたる3条件は、ギャンブル欲求、ギャンブル施設・サイトへのアクセス、お金へのアクセスで、どれか1つ欠けてもギャンブル行為は起こらない。初期には、その日に必要なお金だけを持ち歩くようにすることが重要になる。アクセスという観点からは、ギャンブル施設であるカジノの創設など論外だ。ギャンブル欲求の引き金の同定と対処法の検討、ギャンブルの代替手段の促進も重要である。また、医学的問題だけでなく、借金、就労、生活支援などへの助言が必要な場合も多く、個々のケースに応じて地域の関連機関などと連携を取りながら、精神科医師に限らない多職種チームで取り組む必要がある。

多重債務処理に関しては、必ず回復のための受診やSHGに通うことを条件にすること、SHGへの丸投げは避けることに留意する。

すべての嗜癖行動には不快な感情や体験の自己治療の側面があることを理解して、良好な治療関係を維持しつつ、動機づけの介入を行うことが良識的と考えられている。

<主な参考文献>

横浜市精神科医会等 私たちがIR(カジノ)誘致に反対する理由(2019年12月24日 記者会見)

松本俊彦・佐久間寛之・蒲生裕司編 やってみたくなるアディクション診療・支援ガイド 文光堂

松崎尊信 ギャンブル障害の診断・疫学・治療 こころの科学 p44-48 2019年5月

橋下望 物質依存と行動嗜癖に共通する治療指針と相違点 こころの科学 p84-89 2019年5月

R.Ladouceur他 ギャンブル障害の治療:治療者向けガイドおよび患者さん向けワークブック 星和書店

帚木蓬生 ギャンブル依存国家・日本 光文社

西川京子 知っていますか?ギャンブル依存一問一答 解放出版社

ビッグイシュー基金ギャンブル障害研究グループ 新版 疑似カジノ化している日本 2018/10

九州弁護士連合会 ギャンブル依存症のない社会をめざす宣言 2016/9/23 その他

森山成彬 病的賭博者100人の臨床的実態 精神医学 50(9):895-904 2008 など

<GDに関する社会資源と情報源>

GA日本インフォメーションセンター http://www.gajapan.jp/

ギャマノン http://www.gam-anon.jp/

全国精神保健福祉センター一覧 http://www.zmhwc.jp/centerlist.html

NPO法人 全国ギャンブル依存症家族の会 http://www.gdfam.org/

公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会 https://scga.jp/

<カジノ誘致の是非を問う住民投票条例直接請求署名について>

https://yamakawa-yoshiyasu.jp/info/news202112/

<全交も加わっているカジノ問題を考える大阪ネットワークの「カジノ誘致はやめてください。」ネット署名>

https://www.change.org/の中にあります。