臨薬研・懇話会2024年6月例会報告 臨床試験・医薬品承認制度の規制緩和が一気に進む危惧(NEWS No.586 p02)

臨薬研・懇話会2024年6月例会報告
シリーズ企画「臨床薬理論文を批判的に読む」第81回 (2024.6.2) 報告
臨床試験・医薬品承認制度の規制緩和が一気に進む危惧

今回のシリーズ企画テーマは、関連する社会状況から、個別文献の検討を離れ、臨床試験・医薬品承認制度を規制緩和する激しい動きを取り上げ、注意を喚起したい。

ドラッグ・ロス/ラグとは

医問研ニュースの読者のみなさんは、報道などで「ドラッグ・ロス/ラグ」の用語を見かける機会が増えているだろう。「ドラッグ・ロス/ラグ」を厚生労働省は「ドラッグ・ラグとは、欧米では承認されているが日本では承認されていない医薬品が発生している事象のことをいい、このうち、特に日本での開発に着手されていない事象をドラッグ・ロスという」と定義している (医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会報告書、2023.6.9)。
とりわけ「ドラッグ・ロス」が注目されるようになったのは、ドラッグ・ラグは遅延があっても解決が期待されるのに対し、ドラッグ・ロスは日本で販売承認をめざした開発そのものが着手されておらず、「待っていても来ない薬」であり、その増加は患者の新薬へのアクセスに深刻な影響を与える可能性があることである。
当時はまだドラッグ・ロスの言葉は用いていないが、ドラッグ・ロスの現状について研究報告し、その解消の必要性を提起したのは日本製薬工業協会(製薬協)が設立(1999)した医薬産業政策研究所の「政策研ニュース」63号(2021)掲載の「ドラッグ・ラグ:国内未承認薬の状況とその特徴」の記事である。2010年から2020年に日米欧各極でNME(新有効成分含有医薬品)として承認された品目について、欧米での承認日と日本での承認状況を比較することで、国内未承認薬を特定した。
2017年ごろから国内未承認薬の増加傾向が見られた。2020年12月末時点で国内未承認であった265品目について詳細に調査したところ、国内未承認薬のうち製薬企業により国内開発が行われていない品目数が56%にも上った。この指摘は、「先進国の中で日本だけが薬価が下がり続ける仕組みになっており革新的な新薬へのインセンティブが働かない」との製薬業界の従来からの指摘とも重なり合い、ドラッグ・ロス/ラグ解消の問題が、社会的問題として論議が進むことにつながっていった。

論議の場である合議体とは

この論議は多様な合議体などで、著しいスピードで同時に並行して進行しており、ついていくのも難しい状況にあった。「合議体」とはここでは行政庁が国のレベルでの重要な問題での意思決定に際して、その分野に精通した有識者と呼ばれる学者や事業としてかかわる企業経営者などの一般人から、国民代表としての意見を聴取することを目的とした会議である。利害関係の深いステークホルダーは合議体の構成員でなく、会議で参考人として意見を述べる場合が多い。

合議体のメリットとしては、国の関係者以外の意見を交えながら論議することができ、一定の役割・責任の負担軽減がはかれる場合がある。デメリットとしては、有識者を国民が選ぶことができず、人選の公正性に問題がある場合があり、また主催する行政サイドの意向が強く反映されやすいことがある。

合議体は、1) 法令に基づく合議体(審議会など)、2) 法令に基づかない行政が設置した合議体、3) その他の関連するワーキンググループなど、に分類される。1)には、中央社会保険医療協議会(中医協)とその中心的な専門部会である薬価専門部会の他に、厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会 (事務局: 厚労省医薬局総務課)[これを①とする] がある。2)には、医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会 (事務局: 厚労省医政局医薬産業振興・医療情報企画課)[これを②とする]、創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制のあり方に関する検討会 (事務局: 厚労省医薬局審査管理課 )[これを③とする]、創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議 (創薬力構想会議)(事務局: 内閣官房 健康・医療戦略室)[これを④とする]などがある。

今回テーマにあげた「臨床試験・医薬品承認制度の規制緩和」の主な論議の場となっている合議体は①と③である。時期的に言えば、①②③④の合議体の報告書(④は中間とりまとめの形)が世にでたことで、論議の中心の場が第1回が2024.4.18に開催された厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会①の2024年度会議に移った形である。

また、別の観点からみた合議体の特徴として、医薬品産業振興の役割を有する厚労省医政局でなく、厚労省医薬局審査管理課がむしろ規制緩和推進の先頭に立っていることがある。

薬事規制のあり方に関する検討会報告書

薬事規制のあり方に関する検討会③の全9回の論議をまとめた報告書 (2024.4.24)は検討会の提言について、「このうちの一部については、すでに通知発出等、行政上の対応が行われており(これらの通知については、英訳を作成して同時に発出した)、適切に運用されることを期待するとともに、引き続き詳細な検討が必要な事項については、製薬業界、医療関係者を始めとする関係者の意見を聴きつつ、引き続き行政において適切に検討を継続することを求めたい」としている。

報告書の10項目には、「我が国の承認審査における日本人データの必要性の整理(国際共同治験に参加する場合の日本人第Ⅰ相試験の必要性)」「検証的試験等における日本人データの必要性の整理及び迅速な承認制度のあり方について」「治験の更なる効率化(エコシステム: 生態系。一定地域に住む生物群とそれを取り巻く環境とを包括した概念)について」が含まれている。

リアルワールドデータのみの臨床成績で承認申請可能であることを法律上明確化するよう提案

2024.6.6に厚科審制度部会①の2024年度第3回会議が開催された。この会議に医薬局医薬品審査管理課が「現行の薬機法による承認申請では『申請書に臨床試験の試験成績に関する資料その他の資料を添付して申請しなければならない』とされ、臨床試験の成績の提出が前提となっている。この前提を変更し、臨床試験の試験成績によらず、リアルワールドデータ (RWD)のみの臨床成績による承認申請も可能であることを法律上明確化するよう」提案した。参加委員からは「質の低いデータで承認されることにならないか」と懸念の声が上がったが、同課は別の申請データの「補強」を念頭に置いているとして理解を求めたと報道されている。この日の提出資料で北澤京子委員は「RCT の実施が難しいからといって RWD を用いた観察研究のエビデンスでよいとする考え方は、有効性および安全性に関する厳密なエビデンスの必要性を軽んじ、中長期的には新薬開発をかえって妨げるという厳しい指摘もある(BMJ 2023; 380: e073100) 。医薬品の申請および承認という重要な意思決定には RCT のエビデンスが必要であり、むしろ RCT を安全かつ迅速に実施するための対策こそが必要である。仮に RWD を用いた観察研究のエビデンスでの申請を可能とするにしても、それはあくまでも例外であり、どのような場合が例外として認められるのか、慎重かつ厳密に定める必要があると考える」と述べている。

薬機法改正案の動向に監視が必要

医薬品局は他にもOTC薬[註]の販売制度など社会的に大きく意見が分かれている問題なども、積極的に制度部会で議論することにしたようで、来春の通常国会に提出が予定されている薬機法改正案をめぐり、目が離せない状況が続いている。
(註:OTC薬とは薬局・薬店・ドラッグストアなどで処方せんなしに購入できる医薬品。スイッチOTCとは、「処方せん医薬品」「医療用医薬品」(後者は日本独自の用語で、国際的には医薬品は「処方せん医薬品」とそれ以外のOTC薬に2分類される)の中から、使用実績があり副作用の心配が少ないなどの要件を満たした医薬品を、薬局等で処方せんなしに購入できるように、規制緩和して「一般用医薬品」として認可したもの。最近、スイッチOTCが増加傾向にある。)

<例会当日の討論から>

例会当日の参加者のディスカッションでは、「ドラッグ・ロス/ラグでリストされている品目について具体的に見てみたい。日本にぜひ導入したい品目とともに、導入の必要のない品目も含まれているのでないか」「エビデンス(科学的根拠)に基づく医学・医療を推進する観点からは、現状はともすれば安全性が軽視される傾向があり、有効性についても科学的根拠があいまいにされる傾向がある。『科学』と『医療を経済的な成長産業とすること(ビジネス)』との両立が難しいということでないか」などの意見が出された。

薬剤師・MPH(公衆衛生大学院修士) 寺岡章雄