奈良市民放射能測定所 11周年記念集会 講演報告(NEWS No.586 p08)

5月19日はかるなら(奈良市民放射能測定所)11周年会員総会が開かれた。東電福島原発事故から13年経過するも、この2年間に山梨、岩手、宮城など東日本の山菜から食品基準値を超過した9検体が見つかり、地元保健所などに連絡し出荷自粛要請となった事例などもあり、粘り強い日頃の監視活動が報告された。

続いて、原子力工学科を卒業され放射線計測学を研究されている神戸大学海事科学研究科の山内知也氏による「放射能被ばくによる健康被害~小児甲状腺がんの異常多発を考える」の記念講演が行われた。

まず甲状腺ホルモンは生物が進化の中で獲得したもので、人が生きていくため、特に子どもの発達に必須のホルモンであり、放射性ヨウ素の体内取り込みの仕組み、人体の線量評価の限界について説明があった。

18歳未満の小児の、甲状腺がんは100万人あたり1年で2-3人である。原発事故後の「福島県県民健康調査」では、23年11月の第49回検討委員会でも新たに5人が甲状腺がんと診断され、これまでの県の検査で321人、集計外の患者43人を合わせ、事故当時に県内居住の18歳以下で363人になる。30万人の集団から10年で300人以上、100万人当たり1年で100人の甲状腺がん発生は明らかな多発を示している。

福島県立医大をはじめ国連科学委員会などは過少評価した推定線量をもとに、甲状腺がん多発は被ばくによるものではなく、高感度超音波スクリーニングによるとする過剰診断説に固執している。しかし福島医大の執刀医・鈴木真一氏の学会発表では手術125例のうちリンパ節転移78%、40%で腺外転移があり、21人9.7%の再発がみられるなど悪性であることは明白である。甲状腺がんを放置すると気管出血による窒息死や頚部動静脈の大出血をきたすことを危惧する専門医もいる。

そんな中最近、国際専門家コンソーシアム「SHAMISEN」を名乗る集団が論文で、福島のスクリーニングの経験から、原子力緊急事態(事故)での集団甲状腺がんスクリーニングは推奨しないことを論文で発表した。この論文に対して岡山大学の津田敏秀氏が、疫学の悪用を許さないための「ツールキット」を使ってチェックした。間違いの詳細を、「福島とチェルノブイリ周辺での甲状腺がんに対する継続的な超音波スクリーニングの結果にもかかわらず、根拠のない過剰診断仮説と誤った証拠を使って原発事故によって甲状腺がんが過剰発生していることに反論している。我々の評価ではこの論文の33項目のうち20項目において疫学が誤用されている」などを示して批判した。これに対しグループから「結論と勧告を引き続き支持する」との反論があり、これらに対し津田氏や「ツールキット」著者から、「公衆衛生専門家としてあるまじきことであり、論文の撤回」を要求する再反論がされるなど、国際原子力村との科学論争の最前線が紹介された。さらに裁判原告の意見陳述、放射線被ばくの歴史についてお話があった。放射線の高エネルギーが、子ども達の身体、健康にどのような影響を与えるか、放射線計測学からの研究が学際的な疫学の発展にとって重要な役割を果たすであろうと感じたお話でした。

講演の詳細は「はかるなら」ホームページの報告をご参照下さい。

入江診療所 入江