シリーズ企画「臨床薬理論文を批判的に読む」
第88回 (2025.8.3) 報告
注目されるアトピー性皮膚炎などのモノクローナル抗体医薬品 デュピルマブ(遺伝子組換え)
(販売名デュピクセント皮下注、サノフィ社)
アトピー性皮膚炎、難治性気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患 (COPD)など名だたる難治性疾患の治療剤として、デュピルマブ(遺伝子組換え)が注目されている。どのような医薬品なのか。最新の添付文書、厚労省医薬局の6回の審査報告書、直近の業界メディアや全国紙報道などを中心に見ていき、本剤を批判的に検討することにした。
本剤は、現在から7年も前の2018年4月に300mgシリンジが販売開始されている。企業が当初申請した適応症は「アトピー性皮膚炎(中等症から重症に限る)」であったが、審査の結果「既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎」となった。当初からアトピー性皮膚炎の新薬として臨床開発され、「医療用医薬品(1)新有効成分含有医薬品」の区分で申請・審議されていることが注意される。
一部変更申請などその後の6回の審査報告書などを含め資料を詳しく読んで分かったことは、現時点で本剤の存在意義をめぐり問題となっている重要な事項は、そのほとんどすべてが最初の審査報告書(2018年)で論じられていることである。この時の行政当局の審査結果は次の通りである。
効能又は効果:「既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎。有効性は示され、認められたベネフィットを踏まえると安全性は許容可能と判断する」。
生物由来製品に該当し、再審査期間は8年、原体及び製剤はいずれも劇薬に該当とされた。
承認条件は「医薬品リスク管理計画を策定の上、適切に実施すること」。
なお、例会当日話題となった「劇薬」の定義は次の通りである。
「劇性が強いものとして厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定する医薬品をいう(薬機法第44条第2項)。」
単に劇性が強いものだけでなく、薬用量と中毒量が接近しており安全域が狭いため、その取扱いに注意を要するもの等が指定される。
本剤の審査報告書を一読してまず気がつくこととして、患者や医療関係者が本剤に普通に期待するのは、新薬が従来のアトピー性皮膚炎の「抗炎症外用剤」で問題となっている害作用や依存性などの安全性問題の解決にどれだけ寄与できるかである。それにもかかわらず企業(サノフィ社)は抗炎症外用剤などの使用を治療に欠かせない当然の前提として扱い、それらへの上乗せ効果を試験するなど、その問題に向き合うことを避けており、それを正すべき厚生労働省やPMDAが機能していないことがある。
なお背景として、審査報告書の専門協議においては、抗炎症外用剤の使用が適当でない患者への本剤の有用性に注目した言及もあるものの、抗炎症外用剤の使用について学問的に論じる「臨床ガイドライン」が存在しないことの影響も大きいように思われる。
2018年の審査報告書(48ページ)は当局の見解を次のように述べている。
「臨床試験において、抗炎症外用薬の併用の有無にかかわらず本剤の有効性が示され、重大な安全性の懸念も認められていないものの、本邦において保湿外用薬及び抗炎症外用薬の併用がアトピー性皮膚炎の標準療法として実施されていることを踏まえ、本剤は、TCS(ステロイド外用薬)等の抗炎症外用薬による適切な治療を一定期間行っても効果が不十分なアトピー性皮膚炎患者に対して、保湿外用薬を継続的に使用するとともに、原則として抗炎症外用薬とも併用するものである」
これらの本剤の位置づけのあいまいさが、2024年のグローバル製品売上で、1位キイトルーダ、2位オゼンピックに次いで、3位にアトピー性皮膚炎/喘息等治療薬デュピクセントが入り、141億4400万ドルの売り上げで22%増と報道される状況に繋がっている(ミクスオンライン 2025/07/09)。
国内では、2024年11月に中医協でデュピクセント皮下注が企業から提出されていた販売予測値を大幅に上回るとして、市場拡大再算定が適用され、年度途中にかかわらず特例で薬価基準の13%引下げが実施された。それでも300mgペン1本が53,659円と高価である。
[1] 基本情報(2025年3月改訂第10版添付文書)
ヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体 デュピルマブ(遺伝子組換え)製剤
作用機序:デュピルマブは、ヒトインターロイキン-4及びインターロイキン-13受容体の複合体が共有しているIL-4受容体αサブユニットに特異的に結合し、両シグナル伝達を阻害する遺伝子組換えヒトIgG4モノクローナル抗体である。IL-4及びIL-13はアトピー性皮膚炎、気管支喘息などの病態において重要な役割を担うType 2サイトカインである。
薬効薬理:2型炎症モデルにおける炎症抑制作用。
チリダニアレルゲン誘発性Type 2炎症モデルで、血清中IgE濃度、アレルゲン特異的IgG1濃度等を低下させるとともに、肺好酸球浸潤、杯細胞化生並びに機能障害を抑制した。
効能又は効果:
既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎、既存治療によっても喘息症状をコントロールできない重症又は難治の気管支喘息、既存治療で効果不十分な慢性閉塞性肺疾患など。
[2] 直近の報道
○ 2024年に1000億円突破 -医療用アトピー薬市場 2030年には2000億円を超えると予測(薬事日報 2025/07/09)
〇 アトピー性皮膚炎でキャリア断念 新薬で知った「かゆくない世界」(朝日新聞 2025/08/03)
京都に住む49歳の女性の体験談。デュピクセントでかゆみの症状が劇的に改善し、かゆみから解放された。ただあくまで対症療法であり、使い続ける必要がある。そんななか、高額医療費制度をめぐり、自己負担引き上げの議論が進んでいることを知った。はしごを外される思いだった。キャリアが分断されるほどしんどい人がいることも知ってほしい。「薬があってようやく生活が成り立つ。私には必要なんです」と訴えている。
[3] 当日のディスカッションと継続課題
本剤はアトピー性皮膚炎、難治性気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患 (COPD) など名だたる難治性疾患の注目される新薬である。「それにも関わらず臨床開発に携わる製薬企業と監督指導の立場・位置にある行政が認めた開発手順が適切と言えず、これまでのデータはとても信頼できるものではないのでは」との厳しい指摘がなされた。
一方、添付文書に記載されているアトピー性皮膚炎についての重要な臨床試験成績である「国際共同第Ⅲ相単独療法試験(成人)」では、16週間のプラセボ投与がなされ比較されている。かつて医問研が問題にした「全般的改善度」の不適切さについては異議はないものの、遮蔽が適切に行われていれば、EASIスコアでの評価などについては一定重視して検討する必要があるのではとの意見も出された。
企業は巧みな2面的作戦をとり、「抗炎症外用剤」の併用を行政当局に同調させて臨床現場が当然の前提とするよう誘導する一方、並行して「エビデンス批判」に対応するプラセボ投与を行う試験のデータも少数だが用意したとも推測される。
なお、アトピー性皮膚炎の「国際共同第Ⅲ層単独療法試験 (成人)」のデータでは、本剤Q2W群(本剤300mgを週2回投与)での副作用は28.8%(66/229例)、プラセボ群では18.0%(40/222例)に認められた、との注意されるデータも示されている。
本剤の臨床的評価については、デュピルマブにかかわる多面的な事項の複雑な絡みが支障となり、当日的を得た議論ができたと言えず、引き続き検討テーマとするのが妥当と考える。
薬剤師・公衆衛生大学院修士(MPH) 寺岡