臨薬研・懇話会2025年10月例会 シリーズ企画テーマ報告
「臨床薬理論文を批判的に読む」第89回(2025.10.5)
アトピー性皮膚炎治療剤デュピルマブの有効性・安全性(継続テーマ)
期待のある薬剤だが、医療と患者にとってその使用に必要なデータを得る方向がとられていない
アトピー性皮膚炎、難治性喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの名だたる難治性疾患の治療剤として、遺伝子組換え製剤デュピルマブ(dupilumab、製品名デュピクセントDupixent皮下注、サノフィ社、日本では2018年4月販売開始、その後類似製品も多く出ている)が注目されている。デュピルマブは、ヒトインターロイキン-4及びインターロイキン-13受容体の複合体が共有しているIL-4受容体αサブユニットに特異的に結合することにより、IL-4及びIL-13の両シグナル伝達を阻害する遺伝子組換えヒトIgG4モノクローナル抗体である。理化学的知見ではH鎖(γ4鎖)2本及びL鎖(κ鎖)2本で構成される糖タンパク質(分子量:約152,000)で、H鎖233番目のアミノ酸残基がProに置換されている。
IL-4及びIL-13はアトピー性皮膚炎や難治性喘息などの病態において重要な役割を担うType2サイトカインである(デュピクセント添付文書・審査報告書など)。
Type2についてであるが、免疫・炎症反応には大まかに2つのタイプがあり、Type1は細胞内の異物や腫瘍を排除する反応である。一方Type2は、細胞外の異物である寄生虫やアレルゲンを排除し、代謝の恒常性を保ち、組織損傷からの修復を制御している。アトピー性皮膚炎では組織損傷が大きく、その修復のために過剰な炎症が持続している。デュピルマブはIL-4及びIL-13の作用の拮抗剤として作用し過剰に起こっている皮膚の炎症反応を抑制するため、かゆみや発赤などの症状が軽減する(薬のチェック116号、編集委員会名記事、デュピルマブ 難治性のアトピー性皮膚炎に有用、2024.10)。
薬効薬理では、2型炎症モデルにおける炎症抑制作用について、内因性マウスIL-4及びIL-4Rαの外部領域の両方を、相当するヒト配列で置換した遺伝子改変マウスを用いたチリダニアレルゲン誘発性モデルで、デュビルマブは血清中IgE濃度、アレルゲン特異的IgG1濃度を低下させるとともに、肺好酸球浸潤、杯(さかずき)細胞化生並びに肺機能障害を抑制した(添付文書)。
この例会報告のタイトルでデュピルマブの有効性・安全性について、「医療と患者にとってその使用に必要なデータを得る方向がとられていない」と記した。これには、以下に述べるように学会・企業・厚労省およびPMDAのそれぞれの不適切な対処の集積がある。
デュピクセントは、現在から7年も前の2018年4月に、300mgシリンジが販売開始されている。当初からアトピー性皮膚炎の新薬として臨床開発され、「医療用医薬品(1)新有効成分含有医薬品」の区分で申請、審議されている。企業が当初申請した適応症は、「アトピー性皮膚炎(中等症から重症に限る)」であったが、審査の結果「既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎」となった。
この区分にかかわらず、デュピクセントをアトピー性皮膚炎の新有効成分含有新薬として扱う通常の審議経過となっていない。アトピー性皮膚炎の治療には、アトピー性皮膚炎をどのような疾患として捉えるか、その位置づけが関係する。薬のチェック編集委員会は、上記で引用した記事で「アトピー性皮膚炎は、体の内外からの攻撃でできた傷を治す反応としての皮膚炎であり、その治療に用いた薬剤などにより自然治癒力が障害され、しばしば慢性化し難治になっている病態を含む」と述べている。そのため治療のポイントも、皮膚の自然治癒力を削がないことを基本とし、アトピー性皮膚炎(湿疹)の治療にステロイド剤やタクロリムス軟膏、その他免疫抑制剤などを使わない、すでに使っている場合は中止を目標に慎重に減らすことを推奨すると述べ、それでも何らかの要因で自然治癒力が障害されてアトピー性皮膚炎が難治性になっている人がおり、そういう人たちのためにデュピクセントが役立つかを検討するとの立場を述べている。傾聴すべき指摘であると考える。
しかし、そうでなく日本アレルギー学会・皮膚科学会が2021年に作成したアトピー性皮膚炎診療ガイドラインの立場から考えても、デュピクセントの臨床開発の進め方はおかしいと言わざるを得ない。ガイドラインは、アトピー性皮膚炎を、増悪と軽快を繰り返す、掻痒のある湿疹を主病変とする慢性炎症性皮膚疾患と定義している。それなのに治療剤の臨床開発で掻痒に対する効果を重視せず棚上げするのは理解できない。
本剤の審議に関しては、一部変更承認申請などを含め、厚労省医薬局の6回の審査報告書が公表されている。それらを検討して分かったことは、現在の時点で本剤の存在意義を示す確としたデータが乏しいなどが問題となっている事項は、そのほとんどすべてが2018年の最初の審査報告書で論じられており、解決されないまま現在に至っていることである。中でもアトピー性皮膚炎の「抗炎症外用剤」で依存性や害作用が問題になっているにも関わらず、企業(サノフィ社、提携リジェネロン・ジャパン社)は「抗炎症外用剤」などの使用を治療に欠かせない前提として扱い、それらへのデュピクセントの上乗せ効果を試験する臨床開発デザインとするなど、それらに向き合おうと全くしていない。
以下にそのことを示すデュピクセントの直近の添付文書(2025年8月改訂第11版)の文言を引用する。
・効能又は効果に関連する注意
<アトピー性皮膚炎>
原則として、本剤投与時にはアトピー性皮膚炎の病変部位の状態に応じて抗炎症外用剤を併用すること。本剤投与時も保湿外用剤を継続使用すること
・重要な基本的注意
<アトピー性皮膚炎>
本剤が疾病を完治させる薬剤でなく、本剤投与中も保湿外用剤等を併用する必要があることを患者に対して説明し、患者が理解したことを確認した上で投与すること
企業を監督する厚労省・PMDAがその機能を果たしていないことを如実に示す例として、2018年の審査報告書(48ページ)は当局の見解を次のように述べている。
「臨床試験において、抗炎症外用薬の併用の有無にかかわらず本剤の有効性が示され、重大な安全性の懸念も認められていないものの、本邦において保湿外用薬及び抗炎症外用薬の併用がアトピー性皮膚炎の標準療法として実施されていることを踏まえ、本剤は、TCS(ステロイド外用薬)等の抗炎症外用薬による適切な治療を一定期間行っても効果が不十分なアトピー性皮膚炎患者に対して、保湿外用薬を継続的に使用するとともに、原則として抗炎症外用薬とも併用するものである」
デュビルマブは、国際共同第3相単独療法試験(成人)として、アトピー性皮膚炎患者でのプラセボを用いたRCTが行われている。日本の分類でストロングクラス以上に相当するステロイド外用薬で効果不十分な、又は安全性上の理由等からステロイド外用薬が推奨されない、18歳以上の中等症から重症の患者671例(日本人患者106例を含む)を対象に、本剤300mgを2週に1回(Q2W)、又は毎週1回(QW)、もしくはプラセボを16週間投与した。本剤群では投与1日目に初回用量として本剤600mgの投与を行った。主要有効性評価項目とした投与後16週時点のIGA(医師による全般評価)≦1達成率及びEASI-75達成率(湿疹範囲及び重症度がベースラインから75%以上改善した患者の割合)において、本剤群はプラセボ群に比べ統計的に有意な(P<0.0001)改善効果を示した。本剤Q2W群での害作用は28.8%(66/229例)に、プラセボ群に18.0%(40/222例)に認められ、主な害作用は本剤Q2W群に注射部位反応7.4%、アトピー性皮膚炎3.5%、頭痛3.1%であった(添付文書)。
デュピクセントは遺伝子組換え製剤でモノクローナル抗体製剤であり、薬価基準を基にした計算で1か月10数万円にもなる高価な品である。しかしデュピルマブが分野などを限定しないすべての医薬品の売り上げのベストテンにはいるほど多用されている状況がある。またデュピルマブの関連論文はサノフィ社が全面的に参画し、論文の編集に携わるライターもサノフィ社が資金負担していることが明らかにされている。
PubMed検索を手掛かりに、また検索語はplacebo controlled studyに注目してアトピー性皮膚炎の関係論文について調べた結果は、デュピクセントの類似製品はその臨床開発の仕方などを踏襲しており、それを超えるものはほぼ存在しないとみられる状況にあるようだ。なお、PubMedに関しては、トランプ大統領が米国連邦公務員職員の大幅削減を行うという非常事態があり、今回は通常行っている方法でPubMed収載文献を扱ったが、今後は支障がでる可能性があるとの重大なお知らせがなされている。
薬剤師・公衆衛生大学院修士(MPH)寺岡