本年9月22日の記者会見でトランプ米大統領は、妊婦のアセトアミノフェン服用が子どもの自閉症の原因になると、妊娠中の服用を避けるよう発表し、世界中を混乱させた。近年増加傾向の自閉性障害であるが、トランプのみならずワクチンMMR説、環境汚染説、親の年齢説、遺伝説など諸説あるが確定されたものはない。障害の診断基準および有病率の疫学の変遷を振り返る。
人類(ホモサピエンス)は出現した太古以来、移動、摂食の困難がある身体障害には気がついていた。近代産業革命を迎え工業化を支える公教育が出現する中で、知的障害への社会的対応として特殊教育が生まれる。社会の核家族化、画一化・規範・同調圧力が強まると、生活機能の社会・対人関係における困難さに気がついてきた。
社会・人間関係の困難さ
1943年米国のレオ・カナーは、生まれた時から人と状況に通常の方法で関われないこと、極端な自閉的孤立性が他の障害と識別できる11名の子どもの基本的特徴を「情緒的交流の自閉性障害」とする論文を発表した。それとは別個に1944年オーストリアのアスペルガーは4名の子どもの「小児期の自閉性精神病質」を発表。どちらも障害名には統合失調症を命名した精神科医ブロイラーの「自閉症」が使われた。その後1956年に、カナーは4つの特徴を付け加えた。
発症は生まれつきであり、生後2年間のうちに明らかになる、20か月までに言語消失など退行現象を示し、自閉症の特徴が顕在化する子ども(折れ線型)も区別できないため症候群とした。出現率は極めて低い稀な障害で男女比は4対1。器質的異常は明らかでなく脳障害は否定した。一方親の養育態度が心因として作用する可能性を示唆。児童期統合失調症、知的障害とは別の障害とした。
当時のWHO国際疾病分類ICD-8(1965)、米国精神医学会DSM-Ⅱ(1968)では、自閉症は最早期発症の統合失調症とされ、成人と類似の治療も行われた。影響を受けた当事者・家族にとっては受難の時代であった。
1960末~70年代、混乱の時代が収拾し先入観・ドグマの独善的解釈から科学的検証へ転換する。てんかん合併率、高率の脳波の異常、先天性風疹症候群、点頭てんかんなど症候性の自閉症により心因説から、発達障害説の始まりとなる。
さらに英国児童精神医学者のマイケル・ラターにより4つの診断基準が提唱された。
二つの国際的な疾病分類と診断基準が改訂され、自閉症が独立した障害として承認された。
ICD-9(1977)はPDD(広汎性発達障害)の包括的カテゴリーの下、4単位障害に下位分類するも依然として児童期発症の統合失調症としていた。
DSM-Ⅲ もPDDという包括概念の下、3単位の障害に下位分類したが、ICDと異なり精神ではなく発達の障害との位置づけとした。
1970年代末、英国ローナ・ウィングとジュディス・グールドは自閉症の特異的な行動は、いつも
の「障害の3つ組み」として現れ、常に不可分な結合で症候群の要件を満たし、自閉症スペクトラム概念の成立を迎える。1970年代は自閉症概念と支援の展開にとって転換期の10年であった。
1981年ウィングは論文「アスペルガー症候群-臨床報告」で、「三つ組み」を共有する障害群をPDD(Pervasive Developmental Disorder;広汎性発達障害))としてまとめ、知的障害のない自閉症への関心が急速に広がり、以降の有病率の上昇につながる。アスペルガー症候群概念は、障害分類と診断基準にも影響を与えた。
1993年のICD-10では、アスペルガー症候群がPDDに属する他の障害と異なるか否かは保留。1994年のDSM-Ⅳは、PDDの下に自閉性障害、レット症候群、小児期崩壊性障害、特定不能のPDD、アスペルガー障害を入れ、3歳以前の発症とした。高機能自閉症との論争では、アスペルガー症候群は初期言語発達が比較的良好な高機能自閉症として同一のものとして決着をみた。
2013年DSM-5での改訂では、包括的概念としてPDDはなくなった。レット症候群がMECP2遺伝子変異の神経疾患と確定し除外され、残りが自閉スペクトラム症ASDとまとめられ、年齢の規定が緩められたことで診断率が上昇した。
DSM-5での 診断は,基準となる症状が定められているが,最終的に採用する情報は評価者に委ねられ,基準となる症状を満たすカットオフラインは曖昧である。このように生物学的な異同を明確にした研究は20 年間存在せず(妥当性の問題),そもそも正確に分類することが事実上不可能(信頼性の問題)であると解ったため,亜型分類を撤廃し,ASD(Autistic Spectrum Disorder) の診断にまとめられている。
厳密な疫学調査でも、バラツキがみられながら、有病率は増加傾向がみられている。
<自閉症・ASDについて報告された推定有病率>(対象年齢人口対10,000人)

DSM-5における最新の国内の有病率は3.22%(2020,弘前、Saito)がある。この研究の意義は、5歳児健診の4年間の包括的な発達評価のもと、全人口サンプルにおけるASDの有病率と累積発症率の両方を調査し、これらが増加したことを示す証拠はないこと、ASDが安定した有病率と発生率の推定値をもつ、一般的な小児期発症の神経発達症(NDD)であると示したことである。さらにASDに併発するものとしてADHDが50.6%、発達性協調運動症(DCD)が63.2%、知的障害(ID)36.8%、境界型知的機能20.7%の神経発達症(NDD)がみられ、88.5%に少なくとも1つ、23%に3つの併存を認めている。
選別・分離で居づらくなってきた学校
民主主義教育として戦後再出発した日本の義務教育であったが、教育基本法の改悪など、子どもの個性から公共や規律・規範の重視が求められ発育途上のこどもたちの余裕がなくなっている。
教育長や校長の権限が強まり、教員は会議やテスト・アンケート、自己評価などの雑用で、子どもに向き合う余裕をとられている。このような状況で、学校や家庭での生活に不適応を起こす子ども達が増えており近年、手厚い対応(?)をと特別支援教育を希望する親が増え、支援学級や在籍児が増加している。一方2025年度は不登校児が35万人と急増している。また就学前の児童発達支援事業、および就学後の放課後デイサービス事業は株式会社などの民間営利企業が参入し、公的助成の登録に診断根拠が曖昧なまま診断書の作成が求められるようになり、ASDや発達障害が社会的に増加する傾向がある。
入江診療所 入江
