薬のコラムNo.136:インフルエンザワクチン再考

1.はじめに
2001年11月予防接種法の見直しで65歳以上が接種対象となり,インフルエンザワクチン接種率は2001年度対象年齢高齢者の 27.45%,2002年度35.26%となり,2003年度は37.77%と見込まれる.小児では接種者の罹患もよく見られ,ワクチンはインフルエンザ パニック解決には少しも役立っていないように思える.インフルエンザワクチンの効果について再考した.

2.高齢者へのワクチンは死亡を80%も減らしてきたのか?
高齢者接種が70%を越え,施設では85%を越えて頭打ちの状況にあるアメリカでは,インフルエンザ関連の呼吸循環器疾患による死亡が,1976-90 年がシ−ズン毎に平均19000人,90-99年が36000人と増加している.高い接種率にもかかわらず,アメリカでのワクチン接種は死亡阻止効果を上 げていない.
2000年,イギリスのCarmanらは施設入居高齢者のワクチン接種率は死亡に影響しないと発表した.CDCのZadehらは施設入居高齢者の 83%,介護スタッフの46%がワクチン接種をしても流行は阻止できないと発表した.CDC自らいわゆるインフルエンザのHerd Immunityを否定したともいえる.

3. コクランレビュ−の紹介
喘息に対してはインフルエンザワクチンの予防効果に関しては,判断するだけの十分な質と検出力を持ったエビデンスはないと結論している
慢性閉塞性呼吸器疾患患者に対しては,唯一,コクランレビュ−では接種を奨励している.しかしながら,根拠となったRCT論文は,1961年に Howellsが発表した1論文だけであり,観察期間中,インフルエンザ以外の呼吸器感染症がワクチン群には全くなく,不自然な論文といわざるを得ない. レビューアー自ら,今日のインフルエンザワクチンが多くのガイドラインで推奨されている現状では,望まれるけれども大規模な無作為比較試験は倫理的に実施 不可能であるとしたレビューである.
健康成人に対しては,「公衆衛生学的手段として,健康成人に対してインフルエンザワクチンを使用することは思いとどまりたい.健康成人は呼吸器疾患の合 併が少ないので,ワクチンの使用は,非常に特殊なケ−スの個人防衛の手段としての勧告にとどめるべきであろう」と結論している.
4. 小児インフルエンザワクチンのエビデンス
小児のインフルエンザワクチンについては,世界的には大規模な無作為試験による効果研究はない.小規模RCTが2編発表され,一つは臨床的に効果はあっ たが,もう一つは効果がなかった.家族の罹患については,逆の結果であるなど,これら2編のRCTからは,幼児へのワクチン効果は極めて不安定といわざる を得ない.また,乳幼児へのワクチン接種の際に理由として強調される,中耳炎を減らすという点に関して,両RCT論文とも効果はなかったと結論している.
日本では,2000年度,神谷らが全国7地域での乳幼児を対象にし,39度以上の発熱者の有無でワクチン効果を検討した.総計2000名を越える前方視 野的研究であるが,ワクチン群はワクチン接種のために医療機関を受診した群であるのに対し,非ワクチン群は病気のために医療機関を受診した群であるなど, 厳密な評価が求められる比較研究としては不十分なデザインに基づく研究である.にもかかわらず,ワクチンの有効性が認められたのは2地域のみであった.
5. 結論
文献だけでなく,ワクチンが広範囲に実施されて以降の世界をみても,インフルエンザワクチンの無効性はますます明らかになってきたようである.
参考文献
1) MMWR Vol 52. No. RR-8
2) Carman WF  Lancet 2000;355:93
3) Zadeh MM  J Am Geriatr Soc 2000;48:1310
4) Tan A   The Cochrane Library, Issue1,2003
5) Cates CJ  The Cochrane Library, Issue1,2003
6) Poole PJ  The Cochrane Library, Issue1,2003
7) Howells CHL  Lancet1961;Dec30:1428
 8) Demicheli V  The Cochrane Library, Issue1,2003
9) Colombo C  Rev. Epidem. Et Sante Publ.2001;49:157
10) Eugene S  JID 2000;182:1218
11) 神谷齋 厚生科学研究 平成14年9月 ほか