薬のコラムNo.139:パニック障害の薬物治療について−抗うつ剤の適切な使用が必要

パニック障害は,特別な状況に限定されずに突然生じるパニック発作を繰り返す精神障害で,社会的機能が障害され,しばしば逃げ場のない状況を回避する症 状を伴います.パニック発作は,強い不安が突然生じ破滅感を伴うもので,動悸や息苦しさ,胸痛などの身体症状も伴います.パニック障害には,うつ病や自 殺,アルコール・薬物乱用などを合併しやすく,適切な診断と治療が必要です.

パニック障害には,認知行動療法がパニック発作の減少などに有効とするランダム化比較試験 (RCT) があります.ただし無効例や再燃例もあり,訓練された治療者も必要です.
パニック障害の薬物治療では,抗うつ剤であるセロトニン再取込み阻害剤 (SSRI) や三環系抗うつ剤イミプラミンが症状を軽減するという系統的総説があります.
イミプラミン(商品名トフラニール)は,有意に改善率を高めたり,パニック発作の回数を減らしたりします.主な有害作用は抗コリン作用に関するもので, 口渇,便秘,排尿困難,老人ではせん妄の可能性もあり,狭隅角緑内障を悪化します.心伝導系障害では禁忌です.大量服薬で致死的となることがあります.
SSRIが有意にパニック障害の症状を改善したという系統的総説があります.日本ではSSRIにはパロキセチン(商品名パキシル)とフルボキサミン(商 品名ルボックス,デプロメール)があります.SSRIの主な有害作用は,頭痛や吐き気です.とりわけパロキセチンでは離脱症状が高頻度で,めまい,吐き 気,発汗,錯乱,焦燥,自殺念慮などを含みます.SSRIを再投与すると72時間以内に離脱症状は消失します.離脱症状にはこれまで注意が向けられてきま せんでしたが,徴候があれば再投与後漸減中止などの対処が必要です.

ベンゾジアゼピンは,抗うつ剤の効果が現れるまでの間やパニック発作に対する頓服使用はやむを得ませんが,鎮静や逆にイライラ,依存と離脱症状の問題が あります.アルプラゾラム(商品名コンスタン,ソラナックス)が有意に改善率を高めたという系統的総説がありますが,有害作用と依存の問題に注意する必要 があります.

現状では,パニック障害が適切に診断されずにベンゾジアゼピンが乱用されている状況があり,有害作用に配慮しつつ,抗うつ剤を適切に使用することが必要 です.とくにSSRIのうちでもパキシルは安易に処方されている可能性があり,離脱症状も考慮しながら慎重に処方する必要があると考えます.

文献
1) Clinical Evidence, Issue 9 Septenmber 2003.
2) Cochrane Database of Systematic Reviews, 3rd Quarter 2003.
3) http://bmj.bmjjournals.com/cgi/eletters/324/7332/260#40453