薬のコラムNo.141:脳保護剤エダラボン(ラジカット)のごまかし—本当に役に立つという証拠は無い!

脳(神経)保護剤エダラボン(ラジカット)は,フリーラジカル消去剤として,「脳梗塞急性期に伴う神経症状,日常生活動作障害,機能障害の改善」の効能 で2001年4月に承認されました(三菱ウェルファーマ製造販売).日本でのみ承認されているローカルドラッグで,1本1万円近くもします.

脳卒中の「神経保護剤」について「クリニカル・エビデンス」10版(2003.12)は,「有益性に乏しい」(Unlikely to be beneficial)と評価しており,最近出された米国脳卒中学会(ASA)の「虚血性脳卒中患者の初期管理のためのガイドライン」(Stroke誌 34,1056-1083,2003)でも,「神経保護剤の数は多いが,虚血性脳卒中患者の治療に役立つ効果が示された薬剤は存在しない」とあります.

日本での承認は,全般改善度で評価した比較試験成績でなされており,14日間投与して,投与開始2,4週後に判定されています.審査当局は「急性期脳梗 塞治療薬の確立された評価方法によっていない」と指摘しながらも承認しています.最近,modified Rankin scaleという機能予後を判定する国際的に通用するスケールで評価をした本剤の「多施設ランダム化プラセボ対照二重遮蔽臨床試験成績」が,国際的な専門 誌であるCerebrovascular Disease誌 15:222-229,2003 に掲載されました.この成績を根拠として,日本脳卒中学会など「5学会合同脳卒中治療ガイドライン」はエダラボンを「投与することが勧められる」としまし た.

ところが,いわゆる脳循環代謝改善剤の元締めでもあった大友英一氏を治験総括医師,浜松医科大薬理の中島光好氏をコントローラーとするこの論文内容は, 情報公開されている資料と照合すると,何と言うことか,上記の比較臨床試験が終わってキーオープン後,その成績を厚生労働省に提出(ラジカットの製造承認 申請)して審査される過程で,調査会からの指示事項に基づき,投与3か月,6か月,12か月後の追跡調査を遡って行ったものであることがわかりました.こ れを始めから3-12か月後を判定時点とする二重遮蔽臨床試験として偽っているのです.

一方,安全性については,本剤は市販後の害反応(副作用)調査で致死性の「急性腎不全」が多発し,2002年10月28日「緊急安全性情報」の医療機関 への配布が指示されました.その後も急性腎不全による死亡は続き,播種性血管内凝固症候群(DIC),重篤な肝疾患・心疾患などの使用上の注意の改訂も加 わり,添付文書は早くも第8版となっています.この2003年12月にも,「ラジカット注による急性腎不全等の重大な副作用の防止について」の重要情報が 医療機関に配布されました.重篤な急性腎障害は162例報告され,うち68例が死亡しています.

情報公開資料で検討すると,本剤の薬物動態は動物とヒトで異なるのに,毒性試験のやり直しなどなされず,そのまま開発が進められた結果,ヒトでは多量の エダラボンラジカルが腎臓に蓄積され負荷をかけることが推定されます.その機序は十分に明らかではありませんが,臨床薬理懇談会で李さんが,本剤と腎障害 が知られているスルピリンとの化学構造の類似性を指摘されており,共通の機序が推定されます.

これらを総合すると,本剤は今ではその大部分が市場から消えた「脳循環・代謝改善剤」同様有効性は極めて疑わしく,一方安全性面では命を脅かす重篤な有害反応があり,医薬品以前のものと判断されます.