鉄欠乏性貧血に対する鉄剤の投与方法は?

鉄欠乏性貧血という病気は有名ですが,その治療方法については以前から疑問を抱いていました.教科書,例えばカレントメディカル診断と治療2003年版 には,「硫酸鉄325 mgの1日3回経口投与に勝る治療はなく」と書いてありますが同時に「鉄療法に反応しない原因は,時に鉄吸収の悪い患者もいるが,通常は処方通り服薬が行 われていないためである.」としています.かなりの患者がこの処方を受け付けないのは明らかです.そこでコクラン・ライブラリで”iron deficiency anemia”の検索をし,抄録を読んでみました.

Centralに13件の論文が見つかりました.まず目に付いたのがAguayo VM (European J Nutrition 2000;39(6):263-9)の論文で,「最近のデータは鉄欠乏の小児に毎日鉄剤投与を行うと成長を阻害する可能性を示唆している.」と言うので す!そして週に1度18週間の鉄剤投与が貧血を改善するばかりか,成長を阻害しなかったと報告しています.さかのぼって1995年にはLiu Xら(Chinese J Preventive Medicine 1995;29(1):34-7)が就学前の小児に鉄剤を毎日,隔日,週1回で投与するランダム化比較試験を行っており,隔日ないし週1の投与は毎日投与 と効果の差が無く,胃腸の副作用が少なかったと報告しています.週1の投与についてはBerger Jら (European J Clin Nutrition 1997;51(6):381-6)やSungthong Rら (J Nutrition 2002;132(3):418-22. 週1の方が身長の伸びが良かった.),Siddiqui IAら(J Tropical Pediatrics 2004;50(5):276-8)全てが週1群で効果に差が無く副作用が少なかったと報告しているので,小児に関しては,ほぼ間違いないでしょう.

成人については報告が見つからなかったので,”ferrous sulfate” NOT “supplement”でもう一度コクラン・ライブラリを検索してみました.するとCentralの中に鉄剤で胃粘膜がどのように傷害されるか調べた論 文が見つかりました.Laine LAら(Digestive Disease & Sciences 1988;33(2):172-7)は14人の健康成人に硫酸鉄325 mg1日3回を2週間投与した結果,嘔気と下痢が高頻度に認められ,胃内視鏡検査で発赤,粘膜下小出血などが有意に増加し,内2名にはびらんが認められま した.
成人への投与間隔を調べた研究は1つ見つけました.Lopes MCら(Cadernos de Saude Publica 1999;15(4):799-808)は貧血のある妊婦に硫酸鉄を投与するランダム化比較試験で毎日投与と週1回投与を比較しています.その結果両群の ヘモグロビン濃度の平均値に差は無かったが,治癒率は週1回の方が高かったと報告し,コンプライアンスも良かったとしています.

以上のことは抄録をまとめただけのものですので,興味のある方がいらっしゃったら,論文を取り寄せ,手分けして読んでみませんか?

(2004年12月)